○○喧嘩は犬も食わない―6
あと少しで東のお屋敷の門が見えてくる。
あと少し、もう少し。
「あっ!」
あれに見えるは……綾芽!
門前で本日の門番当番のおじさんとおしゃべりしてる姿を発見!
「あ~や~め~!!」
見える? ねぇ、こっち見える?
私、疲れちゃったよ。
「ただいま~! だっこ~」
ただいまと言っても、まだまだ距離がある。
それでも両手をバンザイしてフリフリアピール。
迎えに来てくれ~。
ある意味呪いの念を綾芽に飛ばしてみる。
綾芽も気づいたのか、おじさんと一緒にこっちに手を振ってくれた。
そしてあろうことか、おじさんと肩を組んでそのまま屋敷の中へ入ってしまった。
「あ、あやめ~?」
おかえりも言ってくれず、抱っこもしてくれない。
最後の気力体力を振り絞って屋敷の門前までひた走った。
開けられたままの門から入ると、誰もいない。
ついさっき入ったばかりの綾芽とおじさんの姿すらない。
……ひとりぼっち。
「……うぇ……あやめーっ!」
「はいはい。おかえり」
後ろから抱きかかえられ、クルリと反転させられると、綾芽がふんわりと笑っていた。
でも、その笑みもみるみる焦ったような困ったような何とも言えない顔に変わっていった。
「……ちょ、驚かしただけやん。泣かんといて」
「な、ないて、なっ!」
泣いてなんかない! ないよ!?
ないってば!!
目と鼻から大量に出てきていた水を綾芽の着物で拭った。
びっくりさせた罰だよ! 甘んじて受けるがいい!!
「なるほどな。それでチビ、お前から離れなくなってるってわけか」
「ほんま弱ったわ」
ズビズビスンスンと鼻を鳴らし、綾芽の背中にひっついて座る私に綾芽は頭をかいた。
屋敷の中に入ると、なんのことはない。
屋敷にいる人みんな、刀の手入れ中だったというわけだ。
手入れ中は懐紙を口に挟んでやるから、当然声が外に漏れるわけもなく。
私の勘違いに繋がったというわけだ。
「なに泣かせてんだよ」
「やから言うてるやん。そんなつもりやなかったんやって」
「結果的に泣かせてんだったら同じだろうが」
「あー……ほんま堪忍なぁ?」
綾芽は身体を捻って手を回し、私の頭をポンポンと叩いてくる。
海斗さんもなかなか泣き止まない私の背を撫でてくれた。
「……なんか寝そうだな?」
「ほんま? 眠いんやったらそのまま寝たらえぇよ。頑張ってお使い行ったんやから、疲れたやろ?」
「んー。おひるね、しな……い」
歩き疲れた上に、余計な体力気力を使ってしまった私には、両方からの寝かしつけは子守唄に等しかった。
しないと言いつつ、自分でも目蓋が落ちてきているのが分かる。
最後の一拭きを綾芽の背中にお見舞いした後、私は綾芽の膝の上に移動した。
寝ない、寝ないよ?
ちょっと目を瞑るだけ。
だから今度はおいて行かないでね?




