○○喧嘩は犬も食わない―3
――綾芽や海斗、薫が雅におつかいの準備と心得を言い聞かせている頃。
※夏生 side※
「……はぁ~。まったく」
深い溜息もつきたくなるってもんだ。
あいつら、結局仕事を増やしやがって。
「いいか、おめぇら。これは日頃たるんできたお前らの隠密性を取り戻すための訓練だ。チビに気付かれずにあいつの買い物の間護衛しろ。それから荷物の受け取りもだ。行け」
目の前に座っていた奴らが一斉に立ち上がり、広間を出て行った。
隠密部隊をこんなことに使おうだなんて、いつもの俺だったら考えもしなかったことだってのによぉ。
俺もヤキが回ったか。ちくしょう。
「じゃあ、行く……行って、きます」
「うぉっ! 劉、おめぇ、いたのか……って、ちょい待ち!」
いつの間にか背後に立っていた劉に驚いたのも束の間、俺の目は劉が手に持っているモノに釘付けになった。
それは……。
「なんだ? それは」
「……カメラ?」
「そんなもんは見りゃわかる! 俺が聞きてぇのはなんでそんな上等なカメラを今、持ってんだってことだよ!」
……このカメラ、見たことあるぞ? テレビで前にどっかの野郎が話してやがった。
手振れ補正は当たり前、現在の最新撮影技術を集合させた超高性能カメラとかで、現場で活躍するプロ御用達の、そしてもちろん、アマチュアにとっては垂涎の品だとか。
それだけの代物。誰でも手が出せるほどの金額なわけがねぇ。
「これで、みやび、とる。綾芽さん、命令」
「……綾芽ぇーっ!!」
あ・い・つ~!
申請があった経費と実際に請求が来た金額がやたら合わない月があったが、こいつのせいかっ!!
どんだけあの時、俺が城の経理から文句言われたと思ってんだ、あのクソガキィ!
「綾芽さんなら、さっきチビについて行きましたよ?」
俺の叫びになんだなんだと広間に顔を覗かせてきた野郎が一言。
「……減俸だこのヤロ~!!」
職権乱用? なんとでも言え!
※夏生 side end※