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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
人は見た目によらない
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人は見た目によらない―2



  昨日、夜遅くに雨が降っていたらしい。


 道の至る所に水溜まりができている。



 「……」



 ポン



 「長靴やないんやから、水溜まりに入るのあかんよ?」



 よ、読まれていた、だと?


 こんな姿じゃないと、水溜まりでピチャピチャ泥だらけになっても怒られないなんてことないのに。



 「そ、ソンナコト、シナイヨ?」

 「ならいいんやけど」



 手を伸ばされ、すかさず握られる私の手。


 絶対に信用されてないですな、これは。


 まぁ、正解だけどね!



 それから歩くこと十五分ほど。


 途中で力つきた私は、綾芽に抱っこを所望した。


 楽ちん、楽ちん。イエーイな気分を満喫中です。



 そして今、行きがけに薫くんに頼まれた料理本を買いに、本屋におります。



 「ふぉー」

 「ちょっと待っといてな」

 「あい」



 騒がず、走らずを条件に、下に下ろしてもらった。


 当然だけど、本棚に本がたくさんある。



 それに、今までの目線と違うから、余計に多く感じるんだよねー。


 こんな目線で見るなんて、小さな子供の時以来だし。

 


 ……覚えてないけどね!



 誘拐とか怖いから、あんまり綾芽の目が届かないところには行かないし、行っちゃダメ。


 こんな姿になって、なおかつ誘拐までされましたなんて言ったら、私の事案遭遇率はどうなってんのと問いたくなるもの。


 それに、これ以上綾芽達に面倒はかけられないしね!



 しばらくは黙って本の背表紙を眺めたり、人の往来をぼーっと眺めていた。



 「お待ちどぉさん。ついでになんか買うてあげるわ」

 「えっ、いいの?」

 「えーよ。ほら、絵本ならあっちや」



 ……やっぱり絵本なわけね。


 いいですけどね! 買ってくれるんなら!


 文句は言いません。言いませんとも。



 結局、絵本を五冊買ってもらった。


 オーソドックスに、桃から生まれた少年の話と、竹から生まれた月のお姫様の話。


 それから、竜宮城に行ったお兄さんの話、うさぎとかめが競争する話、ここほれワンワンと犬が大活躍する話。



 夜寝る前に読んでもらうんだー。わーい。(遠い目)



 「可愛いお嬢ちゃんねー。飴、食べる?」



 本屋から出る時、入り口近くの棚を整理していた女の人に声をかけられたのですが。


 ピンクの包紙に包まれた飴を差し出され、思わず綾芽を見上げた。



 「……あやめ」

 「ほら、お礼言わな」



 うん、お礼言うべきだってのは分かってるけどさ。


 知らない人から物もらっても食べちゃダメだって教わってきてるし。


 まぁ、綾芽達の所にお世話になっておいて今更か。



 「おねーちゃ、ありがとぉ」

 「どういたしまして。今も可愛いけど、綺麗なお母さんだから、将来美人さんねぇ。羨ましいわぁ」

 「……」



 お、お母さん…?


 それはもしかして、もしかしなくても綾芽のことですか?



 そろそろと綾芽の方を向いて、サッと視線を背けた。



 笑いながら怒気を発するのはやめて! 怖い!



 おねーさん、地雷踏み抜いてますよー。


 地雷原でタップダンス躍るのダメ、絶対!!



 「あ、あやめー。いこー」

 「そうやね」

 「またどうぞー」



 バイバイと手を振ってくれたお姉さんは、最後まで綾芽を私のお母さんだと思っていたことだろう。



 ふぃーっと安堵の溜息一発。


 大きな仕事、やりきりましたぜ! ボス!



 ボス役には勝手に夏生さんを抜擢ばってきしておいた。


 だって、知っている人の中で一番ボスっぽいんだもの。



 隣から漂う冷気に屋敷に帰り着くまで堪えた私、偉かった!





 もう見慣れた門と背中が見えた時、私は駆け出した。



  「りゅー!」



 こちらに背を向けて、門前の掃き掃除をしていた劉さん。


 異国から来たらしく、まだ日本語が上手く話せないから、仕事の合間に私と一緒に日本語の勉強をしている真っ最中だ。


 最近やったのは、散歩がてら目につくものの名前を言っていくやつ。


 あれはニャンニャンじゃなくて、猫って言うんだよって、その時先生役してくれた人に言われた時に、泣きたくなってきたのは忘れたい記憶です。



 そんなわけで、あんまり皆と話さない劉さんに、私はいつも見かける度にじゃれつきに行っている。


 べ、別に、たかいたかーいをしてもらいたいとかそんなんじゃない。そうじゃないんだ。



 「みやび……あぶない、ダメ」

 「えへへー。ただいま!」

 「おかえり。……綾芽サンも、おかえりなさい」

 「うん。ただいま」



 箒を片手に、もう片方の手で私を抱き上げた劉さん。



 劉さんもだけど、ここの皆は細マッチョな人が多い。


 抱き上げる力も全く心配いらない、安心できる抱かれ心地です。



 うん、私、満足よ。



 そのまま中に入ってもらい、私のお部屋へ。


 つまり、綾芽のお部屋へ。



 綾芽の部屋は最初ほとんど物が置いてなくって、生活感の欠片もなかった。


 服を入れる箪笥が一つ。あとは簡単な書き物ができる机と座布団、寝るための布団一式。


 それが綾芽の部屋の全てだった。



 そこにきて、私の物。


 色んな人からもらった服やおもちゃ、絵本にお絵かきセット、布団。


 それが部屋の色んなところに散乱してる。



 あー……夏生さんに見つかる前に片付けなきゃなぁ。


 怒ると怖いんだぁ。あの人には逆らっちゃダメだって、みんなが言ってる。



 「……かたづけ、する?」

 「うん。しよっか」

 「てつだう」

 「ありがとぉ」



 劉さんに手伝ってもらいながら、ちょこちょこと私も動き回ってなんとか全て片付け終わった。



 薫くんのところに本を届けに行った綾芽は、まだ戻ってきていない。



 それにしても、あぁー疲れた。


 部屋の片付けは自業自得だけど、へとへとだ。



 散歩にも行ったし、私の今の体力じゃ、限界ギリギリ。

 

 だって、ほら、目がとろーんとしてきて……。



 いつの間にか畳の上で横になっていた私。


 子供特有のまぁるいお腹を上に大の字になって、そのままおやつの時間までぐっすりとお昼寝タイムに突入です。



 「……おやすみ」



 劉さんがそっと布団をかけてくれた。


 あとでお礼、言わなきゃなぁ。



 とりあえず今は、睡眠欲には勝てませなんだ。


 おやすみなさい。




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