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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
負けず嫌いは勝利の秘訣
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負けず嫌いは勝利の秘訣―5

 



 ……と、私達のいるテーブルの周りはほのぼのとした雰囲気に包まれていたけれど、少し離れれば空気は一転。


 お偉い様が来ているから皆表面上は親睦を深める交流イベントの体を装っている。


 しかし、目は口以上にモノを言っていた。そして口でもそれなりに言っていた。


 これでお偉い様の御前でなければ皿の一枚や十枚、百枚は宙を飛び交っていたことだろう。



「これは目を楽しませるよりも、金額に頼った品では?」

「ほぉ。そちらこそ、甘いものしか出さぬとは、料理長はそれしか作れぬようになったのでは?」



 主に、東と西の一派が。



 北は傍観というよりも我関せずを貫き、南は面白そうにいざこざを見ているだけで、両陣営とも決して止めようとしない。



 ピリピリとした一触即発の雰囲気が漂っている時だった。



「おっと、手が滑ってしまった」



 西の人が手元を狂わせ、薫くんが作った料理の皿を地面に落とした。


 それだけでない、巻き添えを食らう形で西以外の皿まで地面に落ちたのだ。


 パリーンと派手に割れる音が辺りに響き、南の裏方さん達が片付けに走ってきた。



「こんのっ!」



 明らかにわざとだと分かる真似に、東のおじさんが怒り、拳を振り上げた。



「おや、帝がいらっしゃる席で暴力か?」

「……くそっ!」



 ニヤニヤと笑う西の人に、おじさんは苛立たしさを隠せず、勢いよく拳を振り下ろした。



「やつら、調子に乗りやがって」

「あかんで、海斗。帝の前や」

「だけどよぉ!」

「見てみ? この子の顔」

「……おぅ」



 我、今、怒っておる。怒っておるぞ?


 ……アノ人の真似だ。



 綾芽さんや、ちょっと行ってくる。



「三分やで」



 駆ける私の背に、綾芽の声がかけられた。


 三分とは、綾芽が私を放っておいてくれる時間のことだ。


 三分経てば問答無用で綾芽達が介入してくる。



 つまり、先手必勝、一撃必殺、絶対厳守。



 私、食べ物を大事にしない人間、だーい嫌い。


 だから、そんな人達はお仕置きです。


 覚悟してね? お・じ・さ・ん・達。



 料理人さん達が心をこめて作った料理を粗末に扱うその心意気、万死に値する!



「おじしゃまたち、わたし、みやびっていいましゅ。こんちはー」



 ペコリとお辞儀。


 それから……



「おじしゃまたちってものわすれがひどくていけないのー」



 哀れみの視線って、子供から向けられるほど心にくるものってないよねぇ? 


 まぁ、当然、現在進行形でやってますけど。



「なんだとっ!?」

「もういっぺん言ってみろ!!」



 次の瞬間、私に掴みかかろうとした西の人達が一斉に地面にめり込んだ。


 身体の部分で地面から出ているのは首から上だけ。



 ふむ。なかなかのジャストフィットですねぇ。……私、すごい!



 当然何が起こったか分からない周りも当人達も目を白黒させている。



 その隙に私は自分のお仕事お仕事。


 せっせと地面と西の人達の僅かな隙間に土を詰める。


 さぁ、生きた生首三つ完成だ。



「あのね、あのねぇ? たべものをそまつにしちゃだめなの。それにねー? じぶんでてをつけたものはおのこしゆるしませんなのよ。だからねー、これ、たべなきゃだめだとおもう」



 かき集めてきた先程の料理の成れの果て。



 落としたの、忘れちゃってたみたいだから、拾ってきてあげたよ? うふふ。


 左手にお皿。右手にフォーク。


 準備万端です。



「やめろ!」

「おい! この餓鬼をどうにかしろっ!」



 吠える西の人達に、東のおじさん達は理解したのか、ニヤリと悪い笑みを浮かべた。



「そうだよなぁ、チビ」

「いつも薫さんに残さず食べろって言われてるもんなぁ。まぁ、お前は残さずどころか皿まで舐めるように食べてるが」

「あい」

「落としたもんは三秒ルールだっけか?」

「でも、わたし、ちっちゃいからさんびょうってどれくらいだかわからないんでしゅ。だからいまからさんびょうでしゅね」

「おうともさ。それじゃあ、カウント開始だな」

「あい」



 それではいきますよぉ? 



「いー……」


「うわっ! やめろ!」

「離せ!」

「こんなことして帝が見て……もごっ!」


「ち」



 おじさん達が先程とは打って変わって嬉々として西の人達の口の中に料理を詰め込んでいっている。


 周りにいた北の人達も巻き添えを食らって自分達の料理長が丹精こめて作った料理に泥を付けられたのが実は余程腹にすえかねていたのか、口の端が皆一様に上がっている。


 南の人達なんかさっきからなにか懐をごそごそしだしたと思ったら、携帯取り出して写メやら動画を取り始めている。完全に楽しんでいらっしゃるようでなにより。



「にー……」


「や、やめ、ふがっ」

「んーっ!!」

「た、たすけ……」


「い」



 うん。もう結構詰め終わったんだね。


 それじゃあ、三は巻きで。



「さん。ちゃんとたべれてえらいでしゅね! よしよし」



 とどめは頭を撫で撫で。


 うきゃきゃきゃきゃ。どうだ、食べ物の恨みは恐ろしかろ?



 ……あっ、そうだ!



「ほんとうはおじしゃまたちをおとすようにつくったあなだったんでしゅけど、やくにたちました」

「えー? 俺達だったのか?」

「あい。きのうのおかしをたべられたうらみでしゅ」

「おー怖い怖い」

「良かったなぁ、俺達。助かったぜ」



 うんうん。おじさん達も私の意図を正しく汲み取ってくれて話を合わせてくれた。


 ちなみにおじさん達の名誉?のために言っておこう。おじさん達は私に昨日お菓子をわけてくれた側です。



 こちらに向かって歩いてくる綾芽達、とりわけ夏生さんに向かってサムズアップ。


 ボス! ちゃんと神力を使ってやったわけじゃないってことアピールしました!


 だから私に神力があること、バレないよー。


 ほめてほめてー。



 歩み寄ってきた綾芽の膝に思いっきりダイブしたけど、綾芽はびくともせず、逆にウリウリと頭を撫でてくれた。



「さんぷんまもれてた?」

「これくらいなら三分でなくても良かったわ」

「バカ言え。帝の前だぞ。これくらいで丁度いい」



 ムフフ。よかった。


 夏生さん的には及第点だったようです。



「こっちにもおいで~」

「綾芽さん、僕達にも抱っこさせてください」



 抱っことな?


 抱っこしてくれる人は嫌いじゃないよ!



「だっこなの~」

「なんでだろう? 僕、涙でてきたんだけど」

「疲れてんだよ。疲れたんだよ」



 私を抱っこしてる茜さんの肩にポンと手を置いてうんうんと頷く葵さん。


 妙に既視感を覚えるのは……あぁ、仕事終わりにビールを持っていった時のおじさん達に似てるからか。


 ビール、いる? 今は持ってないけど。



「……何をしているんだ?」



 ん? この声は……。



「「鳳さん!」」



 声を揃える葵さんと茜さんは何故か嬉しそうに鳳さんに駆け寄った。


 んん? 鳳さんって西の大将さんじゃないの? それなのに親し気?


 どういうこと?



「まだ南に戻れそうにないんですか?」

「俺達、早く鳳さんの下に戻りたいんですけど!」

「交代できうる人材が揃えばいつでも戻る。まだ到底できそうにないことくらい、お前らも実感しただろう?」

「「……あぁ」」



 そう言って首だけになっている西のおじさん達を見下ろした二人。


 すごーく心のこもったお声ですね。



 ……おっと。



「おおとりしゃんって、みなみのひと? にしのたいしょうさんじゃないんでしゅか?」

「今は臨時で西の大将だけど、元々はうちの大将なんだよ」

「西の大将が更迭こうてつ……辞めさせられたんだ」

「ふぅーん」



 元々は南の大将さんだったのかぁ。


 でもでも、夏生さんに送ってきた手紙はこの人が書いたんだよね?


 ならやっぱりこの人は……良くない人?



「おい、鳳。その様子じゃ、うみを絞り出すのはまだそうだな」

「うるさい。長年詰みあげて腐敗した内部を一朝一夕に戻せるものか」

「俺のところにもお前の名前で手紙がきてたぞ。お前が俺に抗議文なんて送るわけないことを知らないどっかの馬鹿がやらかしてくれたな」

「なに? そうか。悪いな」

「いや? それよりも、上手くやってくれよ? お前がダメなら次は俺の番だ。俺はこいつらのお守りで手一杯なんだからな」

「ふん。誰にものを言っている」



 んんんん? これは仲が悪いというより……良い?


 むしろ親友……悪友?



「な、なつきしゃん。おおとりしゃんとおともだち?」

「あ? 友達っていうか……」

「腐れ縁だ」



 あっ、腐れ縁っていう名のお友達なのね。


 うわぁ~私の早とちり!



「おおとりしゃん、まちがってごめんしゃい! おおとりしゃんがおてがみおくってきたかとおもって、わるいひとだとおもってたの」

「ふん。気にしてなどおらん。どうせそこの二人の影響だろう」



 鳳さんが顎でしゃくって見せたのは綾芽と海斗さん。


 確かに二人が夏生さんと鳳さんが親友同士だってことを知らないはずがない。


 なのになんであんな険悪な雰囲気だすかなぁ~?



「そう睨まんといてくださいよ。だってほら、面倒かけられた身としては一言言っておきたいですやん。まだ入りたての頃の合同訓練中に滅茶苦茶しごかれた時の恨みやなんてことないですわ」

「右に同じく。あの頃の恨みだなんてこと、ないない」



 ……完全に恨んでますやん。


 どんなしごき方したのさ、鳳さん。



 でも、たまぁ~にしか見せてくれないから分からないけど、この二人は東の人達の中でも指折りの強さを持っている。


 そんな二人がしごかれるなんて……恐るべし、鳳さんの強さ。



「あっ、そうだ。鳳さんもこの子抱っこします?」

「せんわ。それ以上寄るな」

「えぇ~。ほら、一回だけでも」

「えぇい! 寄るな! 葵! 弟をなんとかしろ!」

「無理ですね。茜、けしからん、もっとやれ」

「がってん!」



 鬼が茜さんで、追いかけ回される鳳さん。


 そして鬼の茜さんに抱っこされている私。


 ……なんで鬼ごっこしてるんだろうと思わなくもないけど、楽しいからいいっか~!



 鳳さんも善戦してたけど、段々走るスピードが落ちてきて、終いには葵さんと茜さんの挟み撃ちで捕まってしまった。



「なんなんだ、お前らは!」

「だって、鳳さん、可愛いもの好きなのに、子供はすぐ泣くからダメだって言ってたじゃないですか。この子はそうじゃないみたいだから一回抱っこしてみてくださいよ」

「温かくて柔らかくてチマチマしてますよ?」

「ちなみにそいつの腹時計は時計よりも正確だぞ」

「んなっ!」



 そ、それは褒めて……ないよねっ!?


 しかも今、それ関係ないよねっ!?



「い、一回だけだからな?」



 ……つ、釣られた、だと?



 恐る恐るといった感じがもろに伝わってくる抱き方に、ちょっと心配になってきちゃう。



「か、軽すぎる。おい、ちゃんと食べさせてるのか?」

「当たり前だ。こちとらこいつの身柄を親から預かってるんだからな。こいつに何かあったらそれこそ何が起こるか分かったもんじゃねぇ」



 アノ人が御面倒をおかけしているようで。


 うんうん。だいぶ抱き心地ならぬ抱かれ心地に慣れてきた。



「おおとりしゃん。おしょくじしましたか?」

「いや、まだだが」

「どれもとーってもおいしいの。たべなきゃそんそん!」



 そうそう。まだお仕置き実行してたから全部制覇してないんだった。


 まだ残ってるかなぁ~?



 グギュルルルルルルゥ



 ほら、お腹の虫も主張し始めたよ。



「葵、茜。皿の追加をしろ。遊んだ分、働くがいい」

「はぁーい」

「みやびちゃん、なにが食べたい?」

「んーとね、えーっとね、ぜーんぶちょこっとずつ。だめでしゅか?」

「ダメなわけないよ! すぐ持ってくるから!」

「待っててね!」



 そう言って、葵さんと茜さんは人混みの中へ紛れて行った。



「もうそろそろその子、返してもらえます?」

「あぁ、早く受け取れ」

「言われんでも。ほら、こっち来ぃ」



 綾芽に伸ばされた腕を掴み、私の定位置に戻ってまいりました。


 うーん、やっぱりここが落ち着くなぁ。


 綾芽も保護者がすっかり板についてるよ。



「みやび、のむ?」

「のむ! りゅー、ありがとぉ」



 いつのまにかどこかへ行っていた劉さんが飲み物を片手に戻ってきていた。


 トレイの上にはさすができる男。全員分の飲み物が乗っている。



「サンキュ」

「おおきに。君、こぼさんと飲んでや」

「はーい」



 両手で持ってるから大丈夫。


 といいつつ、先日手を滑らせてコップ一つ割ったのは何を隠そうこの私です。



「ちょっと、なに自分達だけ和気藹々(わきあいあい)としてるわけ?」



 溢さないように顔だけ斜めを向けて、綾芽の後ろに立つ人物を見た。


 そこには我らが料理長、薫くんのお姿。しかも何やらご機嫌斜めのご様子。


 ……どうしたんだろう?



「いい加減にしてくれる? 西の料理人。僕とか他の料理人に難癖つけてくるんだけど。もうホントにいい迷惑」

「しめちゃってぇ」

「……ちょっと、チビにまた変な言葉教えた?」

「俺じゃねぇよ。なんで俺を見るんだよ」

「この中で一番教えそうでしょ。チビ、いい? 誰に聞いたか知らないけど、そんな言葉忘れな」

「えぇ~」

「おやつ抜き」

「わすれた!」

「うん、お利口お利口」



 おやつ抜きだなんて耐えられぬ!



「まったく。厄介事しか起こさぬ輩共め」

「お前、ナメられてるんじゃねぇのか?」

「ほぉ。奇遇だな。俺もそう思っていた」

「はいはーい。チビは目と耳塞ごうか」

「それよりも劉に任せた方が早いだろ。ほれ、タッチ」

「わかった。みやび、しばらく、むこう、いく」

「うん。いこー」



 大人の話は怖いと身をもって学んで数時間しか経ってないのに、またもやですか。


 うーん。しかも、今度は鳳さんと夏生さんまで。


 綾芽と海斗さんはウォーミングアップまで始めたぞ?


 ここで何かは……しないよね?


 忘れてないよね? 偉い人、いるんだよ?


 去り際に見た皆の目が肉食獣のソレにしか見えなくて、思わず劉さんの懐深くまでもぐりこんだのは内緒だ。



「りゅー、あおいしゃんとあかねしゃんがおかわりもってきてくれるって。だからあんまりはなれたら、わからなくなっちゃう」

「わかった。ここ、まつ」



 劉さんが歩みを止めたのは皆がいるところからそう離れてはいない所。


 姿は見えるけど、声までは聞こえないベストポジション。


 うん、これなら二人が戻ってきてもすぐ分かる。さすが劉さん!



 それにしても、劉さんだけ私のお守りで仲間外れみたいになっちゃってる。


 どうしよう。すごく申し訳ないんだけど。



「りゅー、みんなといっしょじゃなくてごめんね」

「みやび、いっしょ。いや?」

「いやじゃないよ!」



 嫌なわけありますか!


 私がそう言うと、劉さんはニコリと笑って頭を撫でてくれた。



「だいじょうぶ。みやび、はなす、たのしい」

「……わたしもたのしい!」



 なんだか色んな気持ちがごちゃ混ぜになってしまって、自分の気持ちが分からなくなってしまった。


 だから、せめてとばかりに劉さんをぎゅーっと抱きしめた。




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