負けず嫌いは勝利の秘訣―3
「さぁ、はじめましょー」
「はじめましょー」
劉さんとお仕事合間のお勉強の時間。
いつものように縁側で膝に乗っけてもらい、私が本を持つ。
日曜の親子スタイルでやらせていただいております。
本当の親子より親子らしい? むふふ。嬉しい事言ってくれるじゃないの。
劉さんが掛け声に乗ってくれたところで、私は本のページを開いた。
「りゅー、まずよんで」
今日の教科書という名の絵本はズバリ、“桃太郎”です。
最近、桃太郎って本当は鬼と変わらないくらいやらかしちゃってるんじゃ疑惑が私の中でモクモクと浮かんでおる物語でございますが、まぁ、昔話とか童話って裏にあるお話は結構残酷だったり、えげつなかったりするからね。
そこんところは今回スルーで純粋にお話しを楽しみましょう。
「むかしむかし……ある、ところ、におじーさんと、おばーさんが、すんで、おりました」
「ちょっといい?」
「う?」
背後から声をかけられ、劉さんが振り返るのに合わせ、私も身を乗り出して後ろを見た。
「かおるおにーちゃ、どうしたの?」
「今からチビ達に手伝ってほしいことがあるんだけど」
手伝ってほしいこと、とな?
「ほら、早く動く」
「あい!」
パンっと手を打ち鳴らされ、腕を取られる私と劉さん。
私もだけど、劉さんも何をさせられようとしているのか分かってない。
ただ一つ、分かることと言えば、今の薫くんに逆らっちゃダメなオーラが出てたってことくらい。
大人しくドナドナされるしかないだろう。
そしてその判断が一部正しくも多分に誤りだと知るのは、目的地であった厨房に到着してから中を覗き込んだ時。
今にも魂でも飛ばしそうなおじさん達のしかば……疲れ切った姿を見た時だった。
「まずは手を洗って」
「あい」
手を洗うってことは料理かぁ。
んん? 前はダメって言ってたけど、いいの? やるよ? やっちゃうよ?
むふふん。許可、おりましたー!!
薫くんに言われたとおり、流しで手を洗おうとした時にようやく思い出した。
ここの流しは一般的なものよりちょっと高め。
つまり必然的に……
「……とどかにゃい」
「あー。誰か台持ってきて」
一番近くにいたおじさんが台を持ってきてくれるよりも先に、劉さんが脇を抱えてくれて手を洗うことができた。
「台、いるかな?」
「あい。いりましゅ。ありがとうございましゅ」
これからお料理するならやっぱり台は欲しいよね。二人とも、ありがとう。
「それで、だよ。君達にはこれを見て、ここにある食材なにを使ってもいいからこういうのを作ってもらいたいんだ」
「う?」
準備万端に整えた私と劉さんに薫くんが見せてくれたのは、一枚の紙に書かれた何か、だ。
正直、何が書かれているかが分からない。でも何かの絵っていうことは分かる。
……うん。これはいわゆる……画伯、というやつですね?
なんだか碁盤みたいなものに雲? 未確認生物? え? 違う?
「……」
「かおるおにーちゃま、これ、なぁに?」
劉さんが聞きにくそうに口を開いては閉じるを繰り返していたから代わりに聞いてあげた。
まぁ、幼児の言うこと。そう角は立つまい。
「え? 分からないの?」
「あい。ごめんしゃい」
「……まぁ、いいけど。チビは十二星座って知ってる?」
「しってましゅ。わたし、さそりー」
「ふぅん。やっぱり女の子だね。で、その十二星座のモチーフを色んな素材を使ってこの十二画に分けた箱に敷き詰めて完成ってしようと思うんだけど。どう思う?」
「ぜんぜんわか……むぐぐ」
おっと、危ない危ない。口塞いでくれてありがとう、劉さん。
思わず本音が……その完成予想図がこれだとしたら、やっぱり画伯だよ、薫くん。
「いい、と、思う」
「そう?」
劉さんの言葉に、私もコクコクと頷いて賛同の意を表した。
それにしても、なんで私達?
それこそ、この屍と化しちゃっている人達でなんとかならなかったのかなぁ?
「まったく。この絵を見てとりあえずどんなものか作ってみてってやらせたらこのザマだよ。君達は思考が柔軟だからね。期待してるよ」
「……がんばりましゅ」
あー……みなさん、ご愁傷様です。
きっと脳みそ働かせて頑張ったんだろうけど、薫くんの求めていたものとは違うものだった、と。
それで薫くんのことだから徹底的にダメ出しをしちゃったんだろう。
それでこの地獄絵図になったんだねぇ。
そしてなにより、薫くんの口から発表された絵の正体を聞かされた時の顔。
それがあなた達の今の気持ちを全て表現しているよ。
とりあえず、私、四季杯が終わったら薫くんを私の絵のお勉強にお招きすることを決めました。