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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
雨降って地固まる
305/310

雨降って地固まる―10

□ □ □ □



 都に戻ったのは、僅かばかり私達の方が早かった。

 腕を組んで仁王立ちして待ち構えていた私に、皆は驚いて目を白黒させ、その場に立ちすくんだ。



「……どうしてここに」

「どうしてって、置いていかれたからに決まってるじゃん」

「……」



 最初は予想外のことに驚き呆れるしかできず。それでもだんだん状況も理解できてくる。そんな時に皆の口から出てくる私を叱り飛ばす言葉の数々ったら、いやもうすごいのなんの。

 当たり前のように、私の反抗心もむくむくと巨大化していく。



「貴女には島の皆さんをお守りするというお役目をさしあげますから」

「おぉ、めちゃくちゃ重要じゃないか。良かったな、チビ……じゃあ、ないか、今は。まぁ、ほら、な。すぐ島に戻れ。な?」



 見かねた巳鶴さんと綾芽の部下である白戸さんが、普段の私ならば渋々とはいえ魅力的にも感じる言葉をかけてくる。

 でも、今ばかりはそんな甘言にのるわけにはいかなかった。



「こっちの方が危ないでしょ? だからこそ、私がいるんだよ」



 邪魔はしないし、なんなら、今すぐ姿を消しておくから。


 そう言って、鬼の形相の夏生さんに向かい、べーっと舌を出して姿を消した。それでもずっと、戻れだの帰れだのと言われ続けているけれど、聞こえないフリだフリ。


 だって、対・人外相手なら、絶対に一緒にいた方がいい。

 奏様は相手は真実味方だって言ってたけど、もし、状況が変わってこちらを害するようなことがあれば? それが意図せずであっても、そういう状況になってしまえば?

 人外の気まぐれさはよーっく知ってる。遠くにいたら何もできない。何もできずに失うかもしれないのと、何かはできた上で失うかもしれないの。この二つは結果は同じだけど、雲泥の差がある。


 膠着(こうちゃく)状態がしばらく続いた後、一番先に折れてくれたのは巳鶴さんだった。



「……それで、これからどうします?」

「まずは情報を集めなおそう。これだけじゃ、どうにも判断材料に欠ける」

「そうですね。とりあえず、南と北には私が連絡を」

「あぁ、頼んだ。綾芽、海斗、お前らは下の奴らを連れて、市中に異常がないか見回ってこい。なんでもいい。どんな些細(ささい)なことでもすぐに知らせろ」



 軽く頷いた二人が素早く立ち上がり、足早に部屋を出て行った。

 帰ってきてすぐではあるけれど、皆もいつでも出られるように準備をしていたのか、部屋の外が俄かに慌ただしくなる。

 巳鶴さんも手元に取り出したスマホをいじり始めた。


 ……どうしよう。リュミエール様と奏様が言ってたこと、まだ報告できてない。

 皆が口を挟ませない勢いで怒るから、言うタイミングを逃しちゃった。もうだいぶ冷めてきたけど、私もかなり意固地になってたし。それに、あのタイミングで言ったとしても、残りたいがための出任せと取られかねなかった。


 ……でも、今さらだけど、黙ったままでいる方が大問題だ。



「……ねぇ、あのね」

「あ゛?」



 姿を現して話しかけると、案の定、夏生さんの低い声が返ってくる。

 とっとと戻れ、さっさと戻れ、今すぐ戻れの視線をするっと無視し、リュミエール様達が言っていた言葉を教えてあげた。

 すると、それまで私に対する怒りが大半だったのに、みるみるうちにその割合がリュミエール様達の方へ傾いていく。舌を突き出したことなんて、もうすっかり忘れられていそうだ。



「西の奴らだけでも頭が痛いってのに、そんな大物の情報まで元老院は今まで秘匿していやがったのか」

「今までに何度か彼らは失態をおかしています。その事実を挽回するため、彼らも躍起になっているのでしょう。彼らの本質は人間と人外の調停機関ですから、その彼らが人間に借りばかり作るというのも彼らの沽券(こけん)にかかわるのかと」

「に、したってなぁ」



 私が伝えた後、巳鶴さんが連絡をとった南も北も、言い方は違えど、どちらも元老院に対する苦言が絶えなかったらしい。

 一応立場を慮る言葉を重ねる巳鶴さんも、その言い方には決して小さく細かくはない棘があった。



「あ、あとね、物事は誰が起こしたかよりも、何故起きたかの方に重きを置かなければ真相が見えてこないってこともあるものよ、って奏様が言ってた」

「……おーまーえー」

「ひぇっ」



 小出しについてはごめんなさい! 

 でも、本当は他にも橘さんにしか聞こえなかった何かがあったんだけど。


 橘さんも、それを心配してか、私の方を見てくる。

 だけど、それについては何も言わなかった。


 しーっと人差し指を唇に当て、もう一回姿を消した。



「今分かっているのは、皇彼方が寄こしてきた紙に書かれた奴らが揃って心臓を粉砕され、奴ら自身以外の血を周囲に撒かれていたってこと、裏で糸を引いている連中の中に、人外の奴がいるってこと、か」

「何故、起きたのか……何故……」

「……よし、心臓粉砕と人外の件を考えるのは後だ、後。何故、血をばら撒く必要がある?」

「えぇ、そこなんです。しかも故意に……っ!?」



 一瞬、空気が震えた気がして、その次の瞬間、どんっと下から突き上げるような揺れが襲ってきた。バランスを崩した皆はそれぞれ手近なものに掴まり、周囲の様子を伺うしかない。

 しばらくその状態のままでいたけれど、どうやら揺れはその一度だけで収まったらしい。とりあえずの、ほっと一息が口をついて出た。


 けれど、安心できたのはそこまでだった。



「おい! ありゃなんだ!?」



 屋敷の外を通りがかったと思しき人の叫び声が、部屋の中にも聞こえてくる。

 先に私が。その後すぐに夏生さん達も庭に駆け降りて、屋敷の門の外まで出ていこうとした矢先。夏生さん達はその声が示すものに気づいたようで、ばっと勢いよく空を見上げた。その表情がみるみるうちに驚愕の、それから焦りのそれに忙しなく変わっていく。


 振り返って夏生さん達の方を見ていた私も、夏生さん達の視線の先を追った。



「……なに? あれ」



 東の屋敷の庭から見える四方の空。

 その空に一本ずつ、天まで届くほどの巨大な光の柱が立ち昇っていた。

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