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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
雨降って地固まる
302/310

雨降って地固まる―7

 ◆ ◆ ◆ ◆



 橘さんに連れられて薫くんのところに行き、多少のお小言を言われつつも美味しい軽食を食べた後、お手伝いとして巳鶴さんと一緒に薬草園にやってきましたよーっと。



「はーい、ふたりとも、じゅんびはいいですか?」

「あ、あぁ」



 自己紹介後のお兄さんは、最初の感じの悪さはどこへやら。今までにない程体調が良いことで気が(たかぶ)ってか、子供姿の私にも存外素直な反応をしてくれる。


 けれど、一緒についてきた櫻宮様は何かが面白くないらしい。

 汚れないようにって服を着替えさせられたんだけど、その服がお気に召さなかったのかなぁ? 「まさかあの(・・)櫻宮様がやるって言いだすとは思わなかったから、作業服を持ってきてない!」って、おじさんが慌てて予備の服を出してきてくれたやつ。

 見慣れないから変な感じがするのは確かだけど、不機嫌になるほど似合ってなくはないと思うけどなぁ。


 ちなみに私のはね、東でお手伝いする時用に買ってもらったやつ。親子セットで売ってたやつだから、綾芽とお揃いなんだよねぇ。綾芽もそれを着てたっけ。


 ……あっ、そっか!



「みやさま」



 櫻宮様の両手をしっかと握り、目を合わせる。



「……なに?」

「こんど、いっしょにおかいものいこ? そんで、おそろいのやつ、いっぱいかおーね」

「……そんなに言うなら、いいわ。一緒に行ってあげる」



 櫻宮様はふんっと鼻を鳴らして、つんとそっぽを向いてしまった。


 もー素直じゃないなぁ。ほんとは嬉しいくせに。

 仕方ないから、私が綾芽と櫻宮様にぴったりのお揃い見つけてあげるからね! あ、帝様にもね!

 なにがいいかなぁ。綾芽ってば、本当にアレだから。アレ、えっと……そう! ミニマリスト! それだから、あんまり持ち物を増やしたくない派みたいなんだよねぇ。って言っても、今は綾芽の部屋、私の物で溢れかえってるんだけどね。



「ほら、お喋りはそこまでにして。私の話を聞いてくださいね」

「はいはーい!」

「はい、は一回」

「はーい」



 一通り薬草園の中を見回っていた巳鶴さんが戻ってきて、私達は巳鶴さんの前に横並びで並んだ。



「いいですか? 見たところ、そのまま使える薬草も何種類かありました。それら以外は一度全て処分して育てなおした方が良さそうです。なので、貴方達には雑草を含め、それらの処分すべき薬草を全て抜いていただきます」

「す、全て?」



 簡単そうに言う巳鶴さんに、辺りを見渡す櫻宮様の口元がひくついた。

 さもありなん。草むしりなんて人生で一度もやったことがないだろう仕事にくわえ、この薬草園は結構な広さがある。

 敷地に限りがある東の薬草園だってそこそこの広さがあるけど、ここはその倍近く。もしかしたら、ついてきたことを早くも後悔しているかもしれない。


 意外だったのは、それを聞いても狼狽(うろた)えず、むしろその場に座り込み、これは何とかっていう薬草で、こっちは雑草、とお兄さんが見分けてみせたことだ。



「詳しいんですね」

「あぁ、少しでもいいから効くものがないかと、体調がそこそこの日に自分でも調べたりしていたから」

「……へぇ。なるほど」



 それからは私と櫻宮様そっちのけで二人で何か話しこんでしまった。


 ただでさえ広いのに、ぼーっとしていても勝手に終わるわけではないから、とりあえず今いる場所から草むしりを始めとこう。



「みやさま、あのね、くさむしりはね、ねっこからとらなきゃだめなんだよ?」

「ふーん」

「あっ! きょうそう! きょうそうしよっか!」

「きょうそう?」

「うん! どっちがいっぱいとれるか、きょうそうしよ!」

「競争ねぇ」



 櫻宮様はあんまり気乗りしないみたいだったけど、この広さをもう一度見渡した後、渋々応じてくれた。


 競争と言っても、それは至極穏やかなものだ。お喋りしながら、自分の周りに生えている草を片っ端から抜いていき、山積みにしていくというスタンス。元々汚れる前提の服を着ているから、途中でお尻をつけて座ってやっても全然平気。


 その競争は、こちらの様子に巳鶴さん達が気づくまで続いた。



「二人とも、一旦手を止めてください」

「……ん?」

「今すぐに、だ」



 なんだか巳鶴さんもお兄さんも顔が怖い。


 二人は私と櫻宮様が作り上げた草の山を一つ一つ検分し始めると、二人で手分けしてさらに二つの山に仕分け始めた。


 そこまで来ると、さすがの私達でも分かる。



「……みやさま、あのね、ぜったいにいいわけしちゃだめだからね?」



 言い出しっぺの自覚があるからなおのこと、怒られる時の秘策を先に教えておかなければ。


 けれど、その必要はなかった。



「二人の自主性は素晴らしい。とても偉いですよ」

「ほんと? ふひっ」



 軍手をはめているから頭は撫でられなかったけど、予想外に笑顔で褒められ、ついつい変な声が出た。


 けれど、巳鶴さんの言葉は「ただ」と続けられた。

 そこからはまぁ、あれだ。先に抜いてもいいものなのかどうか聞くようにという至極当たり前の注意が続く。



「ほら、二人とも。ここなら全て抜いても大丈夫ですよ」

「はぁーい」



 私はともかく、櫻宮様はさっきの注意で一気にやる気が削がれてしまったみたい。明らかにさっきまでと違い、草を抜くのも酷くゆっくりだ。



「そういえば」



 そんな様子を黙って見ていた巳鶴さんが口を開いた。



「あとで陛下と橘さんがここへ立ち寄るとおっしゃっていましたよ?」

「……え? 兄様が?」

「この薬草園はこれからここで暮らしていくにあたって、皆の大事な薬の元を作る場ですからね。様子を気にされているのでしょう。綾芽さんも、一緒にではないかもしれませんが、いらっしゃるでしょうね」

「みやさま、みやさま! がんばってるよーってとこ、みせられるね!」

「……ふん」



 宮様はくるりと背を向け、止めていた手を動かし、草むしりを再開し始めた。


 宮様ってば、ほーんと素直じゃない。


 その証拠に、競争の時以上の草の山が、もの凄い勢いで櫻宮様の横にそびえたち始めていた。

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