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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
人は見た目によらない
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人は見た目によらない―1

 





 ぐ~ぎゅるるるぅぅ~



「……おにゃかへった」



 私がそう小声で呟いた途端、周囲に爆笑が沸き起こった。



 まったくもう、失礼な! 祟るぞコラ!


 誰だ、鶏が絞め殺される前みたいな断末魔のような笑い声を高らかにあげているのは。まぁ、実際聞いたことはないけどね!



 キッと鋭い視線を辺りに巡らせると、皆は誤魔化すように視線を散らした。



「くっくっくっ……あぁー笑うたわ。堪忍なぁ。神様でもお腹空くんやねぇ」

「おい! そろそろ昼飯にするぞ!」



 私達が今いる大広間の襖を開けて顔を覗かせた夏生さんの鶴の一声に、今度は雄叫びが部屋の中に響いた。



 ちょっと待て。お腹減ってるの私だけじゃないではないか!



 腹へったーだの、飯ーだのいいながら食堂に駆けていくのを見てると、なんだか理不尽な気持ちになる。



「ほな、行こか」

「……うん」



 すっと差し伸べられた手を私は握った。



 あの日、私を拾ってくれた彼は綾芽っていう名前だった。


 綾芽はなんだかんだと私の世話を焼いてくれ、すっかり私のお世話係りという役目持ちになっている。



 うん、とっても感謝してるよ?


 でもね、そんなお腹をよじるくらい笑わなくてもいいと思うんですが!







「いただきましゅ!」



 ……また噛んだ。


 どうも身体が小さくなって思うように呂律が回らなくなってしまったみたい。


 まぁ、誰も気にしてないみたいだからいっか。



 それにしてもご飯が美味しい!


 どんな人が作ってるんだろう?



 今日のお昼の献立はお子様大好きナポリタン。


 しかも、お店のやつみたいに国旗の旗がついてるやつ。


 分かります。完全に私仕様ですね? いいでしょう。喜びましょうとも。


 ワーイ、オハタガツイテルヨ。



 そんなやさぐれた私の心のうちなど、誰も露知らず。


 みんなは味わって食べているのかと聞きたくなるくらい夢中になって口にかきこんでいる。



 綾芽に聞いたんだけど、ここは江戸時代とはちょっと違うらしい。


 どんな風に違うのかというと…



「あ、もしもし? 俺だけど。……え? オレオレ詐欺じゃないって!」



 携帯もあれば



「おい、見ろよ。あの芸能人、ヤクで捕まったらしいぜ?」

「マジかよ?! 俺、ファンだったのに!」



 テレビもあれば



「誰だか知らんが昨日風呂場の電気が付けっ放しだったぞ! 気をつけろ!」



 電気もある。


 その他諸々が現代と変わらない。


 ただ、腰に刀。たまに銃。たまーに……バズーカ(小声)。バズーカの使用はここでもホントはダメらしい。でも、昨日大事そうにバズーカ磨いてる人見た。怖かったです、まる。


 だから別に生活水準には困ってない。


 困るとすれば……



「ほら、もっと食え!」

「大きくなれよー」

「……これもやろう」



 みんなが甘やかしてくることと、今までできていたことをやるのが難しいったらありゃしない。


 手が小さくなって、持ち運ぶ物も少しだけ。


 お箸でご飯が食べにくい。


 子供用のフォークとスプーンを次の日に用意されていたのは、イイ思い出です。


 あげくに高い所に手が届かない。


 もわんもわんとした日々を過ごしております。



「もうおなかいっぱいなの」

「みんな甘やかしはりますなぁ。この子のお腹はちきれますやろ」



 綾芽グッジョブ。


 美味しいのに、美味しいのにっ!


 あー恨めしい、この小さい体と小さい胃袋。



「もうお腹いっぱい?」

「いっぱーい」



 ん? 今の声、誰の声?



 声がした方を振り向くと



「ふおぉっ!」



 子供が大好きどでかいパフェではないですかっ!色んな味のアイスにフルーツ、クリームにコーンフレーク。ちゃんとポッキーもどきも刺さってる!


 子供扱いバンザイ! 子供扱い最高!



「せっかく君のために作ったんだけどなー」

「……じゅる」



 コック服を着た私とそう変わらないだろう歳に見える男の子が、お店で見るような大きな器に入ったパフェを持って立っていた。


 自分が作った料理には絶対の自信があるのか、その顔は、目は、このパフェ美味しそうでしょ? と私に訴えかけている。



 た、食べたいっ!


 こんなに美味しそうなものをみすみす逃していいものか、いや、いいわけがない。


 絶対によくない!



 伸ばしかけた手をふんわりと包み込んだのは、隣に座っている綾芽の手だった。



「もうお腹いっぱいなんやろ? それ以上無理したらあかん」

「で、でもぉ……」 



 デザートは別腹っていうよね?


 だからちょっとくらい……ダメ?


 ……ダメですね、はい。



「……綾芽が保護者してる。マジウケるんですけど。《《悪魔》》って言われてる綾芽が」

「薫。この子にあんまり変なこと教えんといて。小さい子ぉは何でもかんでもすぐ吸収するんやから」


「かおる? おにーちゃ、かおるっていうの?」



 パフェを持ってきてくれた少年は薫という名前らしい。


 ジャニーズにいそうな顔立ち、身長の方はまだまだ発展途中ということにしておこう。


 コック服、決まってますね!



「そう。ここの料理長」

「ふおぅっ!」



 ……見た目によらず、偉い人でした。


 人を見た目で判断しちゃいけないののいい例だった。



 椅子からストンと降りた私を見て、彼は僅かに目を見開いた。


 年はあんまり変わらないような気がするけど、この体だから薫お兄ちゃんと呼ばせていただこう。


 そして心の中では、君付けで!



「いつもおいしいごはん、ありがとうございましゅ。ここのごはん、とーってもしゅきっ!」

「……そう」



 あらら。そっぽを向かれてしまった。



 すると、上からクスクスと笑う声が聞こえてきた。


 顔を上げると、綾芽が口元に手を当てて笑っている。



「ほんま素直やないなぁ。薫は普段は礼を言われるようなことないから、照れてるんよ」

「ふぅーん。じゃあ、あしたからまいにちわたしがおれいいいましゅ!」

「……っ」

「あらら。これじゃあさっきと立場が逆なったわ。ほら、薫。えぇ子やろ?」



 ご飯を作ってくれる人にお礼を言うのは当然だと思うんだけどなぁ。


 だって餓死するよ? いや、笑えないって。



 とりあえず、今は食べれないパフェをもう一度作ってもらうために、幼児の無償の笑顔を振りまいておこうと思います!



「……またおやつの時間においで」

「あいっ!」



 おやつの時間! その手があったか!



 あのパフェは冷蔵庫の中にしまって置かれるらしい。


 その容器で入るのかは分からないけど。



「じゃあお散歩いこか」

「はーい」



 定番となりつつある食後のお散歩、その後お昼寝、それからおやつ。


 完璧な幼児のタイムスケジュールでございますがなにか?



「かおるおにーちゃ、またあとでね」

「ん。気をつけて行くんだよ」

「あい」



 なんだかまた保護者が一人増えた予感です。


 同じくらいの歳だろうに。とほほ。


 でもまぁ嫌な気はもちろんしないけどね。



 というわけで、綾芽と一緒にお散歩いってきます。




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