奥底に眠る記憶の残骸―9
『だいじょうぶ?』
『……うん』
小さな男の子が、さらに小さな男の子に手を差し出している。
気のせいか、その二人は帝様と綾芽にどことなく似ていた。
◇◆◇◆
「……お、起きたな」
目を開けると、海斗さんが夏生さんと向かい合って何か紙に書きつけていたところだった。
寝たまま視線を彷徨わせた。
けれど、一緒に戻ってきたはずの姿がどこにも見当たらない。
「あやめっ!?」
かけられてた毛布をはねのけて飛び起きた。
「どうどう。あいつなら今」
「なんや。やっと起きたん?」
向こう側から襖が開けられるのと、私が開けようと手を伸ばすのと、ほぼほぼ同時だった。
部屋に入ってきた綾芽は手に盆を持っている。その盆の上には美味しそうな俵型のおむすびがこんもりと乗せられていた。海苔の良い香りも鼻をくすぐっていく。
「めちゃくちゃお腹の虫さん鳴ってたで」
「ありゃ虫じゃなくて、もはや猛獣だよな」
「これは自分からのご褒美や。……ほんまおぉきに」
美人が放つ本気の微笑みに、どう反応して良いかとっさの判断ができなかった私の背を、綾芽に続いて入ってきた薫くんが押し入ってきた。そして、薫くんに続いて巳鶴さんに劉さんも。
「食べないの? 珍しくそこのやる気なし人間が自ら厨房に立ってたみたいだけど?」
「た、たべるっ! たべるよっ!?」
薫くんが一つおむすびを摘んで口に運んだ。塩加減がどうのと綾芽に文句を言っている。
慌てて綾芽と夏生さんの横に座った。それから、私もおむすびを一つ手にとって、周りに座る人達の表情を見た。
……うん、うん。みんな笑顔。良いことです。
催促してくるお腹の虫に、私は褒美と称されたおむすびを満足するまで提供し続けた。