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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
プロローグ
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プロローグ―2


 結果、それ以上深く考えるのを諦めた。


 いや、それだとちょっと違う、かな。諦めが肝心とは言うけれど、それはその場の言い訳のようなもので。

 そう、受け入れたんだ。受け入れたんだよ、私は。だってどうしようもないんだもの。


 私こと、(やなぎ)(みやび)。十六歳。体が推定年齢三から五歳児くらいになってました。

 いやぁ、何の冗談なんでしょね。笑えるね。


 ……いや、(うそ)。嘘々。正直、全く笑えない。


 気づいたらさ、戦場で戦闘に巻き込まれ中、なぁんて、バトル漫画やアニメの主人公じゃないんだから。ちょっとどころじゃなく、もう二度とご勘弁願いたい。



 なかなか有能な腹時計の具合からして、大体小一時間ほどが経っただろう頃。


 ぼろ泣きしていた私もお兄さんのおかげですっかり気分を持ち直せていた。いつものテンションに近い状態にまでもっていけてる。


 そう。気分は持ち直せた。あくまでも、気分は、ね。


 あれから下りたいとは言い出せず、和風美人なお兄さんに抱っこされたまま。着いた先は、どでかい日本家屋の平屋建て。入る人を選ぶかのようにデンとそびえ立つ大きな木造門。周りを囲む塀の長さからいっても、これはもはやお屋敷といっても過言ではない。

 

 伯父さんの友達の家がこれと似たような家の造りだけど、あそこは物心ついた頃から出入りする勝手知ったる我が家も同然。よく知らない所とは大違いだから、残念だけど比較対象にはなりえない。


 というわけで、どうしたらいい? 丸坊主頭で頬に傷があって身体にオエカキしてる人が奥から出てきたら。そんでもって、あ゛ぁんとドスのきいた口調で見下ろされたら。


 ……いい子にしてよう。うん、それが一番いい。数学で言う最適解ってやつだ。


 体が縮んでる私からすれば、目の前の門は見上げる程もある。その門がギギィっと音を立ててゆっくりと開かれていく。


 すると、門の向こうには二列で向かい合って並ぶ強面のオニイサン達が……いなかった。

 代わりにいたのは眉間に皺を寄せた鬼、もとい男の人だった。黒の着流しを着て、腕を組んで両方の(たもと)の中に通し、肩には紺色の羽織りをかけている。切れ長の釣り目で、時代劇とかで若手イケメン強面俳優さんが子分達に“若頭っ!”と呼びかけられるような容貌(ようぼう)そのものだ。



「おやまぁ、夏生(なつき)さん自らお出迎えしてくれはるやなんて。悪いもんでも食べたんちゃいます?」

「ぬかせ。……お前、膝をついたらしいじゃねぇか」



 強面(こわもて)の男の人は抱っこしてくれているお兄さんの皮肉を軽くいなしてしまう。かと思えば、二言目には地の底から()うような低い声で(にら)みをきかせてきた。


 お兄さんてば、男の人がだいぶ、いや、かーなーり怒ってるって分からないわけないだろうに。そんな余計に怒らせるようなこと言っちゃって、大丈夫なのかなぁ?


 自分のことじゃないけれど、お兄さんがとっても心配になって顔を見上げる。


 今までのはまだ序の口だったらしく、さらに般若(はんにゃ)の面へと変貌(へんぼう)をとげた男の人。そんな男の人とは対照的に、お兄さんはニコニコとイイ笑顔をしていた。


 うん。なんとなくだけど、二人の関係性が分かった気がする。


 私の口からは、とてもじゃないけど言えない。鬼に見えた男の人が、一瞬でただの苦労人に見えてきただなんて。えぇ、言えませんとも。絶対に。



「膝をついたなんて大袈裟(おおげさ)やなぁ。あれは相手を油断させるための罠やったんですよ。それとこの子、今日からしばらくうちで預かりましょ」

「は? はぁ!? うちは託児所じゃねぇよ!」



 いきなりの怒鳴り声に、思わず体がビクッと震える。それを目ざとく見つけ、抱っこの手が今までよりもほんの少し強くなった。


 あービックリした。

 あ、もう大丈夫です。背中ポンポン、ノーセンキューです。



「この子が(おび)えてるやないですか。もぉちょい、声、抑えてくれません?」

「なっ! ……す、すまなかったな」



 怯えるほどではなかったけれど、その謝罪は私の目を見てきちんと行われた。なので、コクリと頷いておく。


 男の人は言葉遣いがちょっと荒い。

 だけど、想像していたよりずっと善い人みたいで良かった。小さな子供相手でも自分の非を認めてきちんと謝れる大人って、実際のところなかなかいないもの。大人の面子ってものが邪魔をしちゃうんだろうね。



 ――それはそうと。


 とりあえず、私はどうなるんだろう? 



「この子、親御さんが神さんらしいですわ」

「は?」

「いや、自分でそう言わはったんで。確かです」

「ほっ?」



 これには自分の無意識下での言動を覚えておらず、私も目を()いた。



「その後も、私、神様に何かしたっけ? 怒っちゃった? 怒っちゃったの? 怒っちゃったのねー!? 的なことを舌足らずな口調で」

「あーーーーー!」



 誰彼構わず吹聴(ふいちょう)したら駄目なやつ!


 一緒に帰って来たもう一人――あの場でお兄さんと話し込んでいた男の人の言葉を、私はあらん限りの大声で封じた。


 本当は口を(ふさ)いでしまいたかったけれど、(うら)めしきはこのおチビな身の丈。それになにより、今、私の身柄はお兄さんに確保されている。どうしたって男の人に手が届きそうにない。


 どうやら困ったことに、お兄さん達との間に大きな誤解が生まれてしまっているらしい。


 当然だけど、私は神様の子供じゃないし、ちゃんと人間の家族もいる。

 代々神職として奉仕している一族で、その神社の神様から見守ってもらえてる子ってことならあながち間違いじゃないかもだけど。お兄さん達の言っている意味はそうじゃなくて、本当の親子関係ってことでしょう? だから違うのよ。



「とりあえず、中入らへん? (のど)乾いたわ」

「あぁ、そうだな」



 眉間に皺を寄せた男の人――夏生さんは私の方をちらりと見た後、玄関の戸を開け、先に中へと入っていった。

 

 抱っこしてくれてるお兄さんもそれに続いて玄関の敷居を(また)いだとき。



「いらっしゃい。小さな僕らの神さん」



 そんな声が、ふわりと風に乗って聞こえてきた。気がした。


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