うちはうち よそはよそー1
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「雅、実家には戻らなくていいのか?」
机で何か書き物をしていた夏生さんが手を止め、綾芽の膝の上でボーっとしている私の方を見てきた。
「ん? んー。もうちょっとだけぇー」
「……おい、どうした?」
「んー」
美味しいお節料理にお餅はお腹いっぱいに食べたし、優しいオジサン達にはお年玉代わりにとお菓子をもらえた。ちなみに瑠衣さんからは大量の洋服和服問わず服が送られ、それを持ってきてくれた黒木さんからはお店の無料券をたくさん頂いてしまった。ちなみのちなみに無料券はたまたま傍にいた薫くんが羨ましそうに見てきたから、何枚か一緒に行こうという意味合いで分けっこしてあげた。
そんなわけで、一年のうち忙しい中にも嬉しさもあるのがこの正月明けるまでの日々なのに。
なんだか最近夢見が悪いのだ。その上、しっかりと睡眠時間を取っているはずなのに、異様に眠たい時がある。そういう時には決まって同じような夢を見ている。起きた時にはあまりはっきりとは思い出せないけど、女の人がいた、気がする。
そんな妙に居心地が悪い気分も相まって、私はいつも以上に誰かにべっとりと張り付いていた。
今も膝の上で無意味にゴロゴロする私の額に後ろから綾芽のひんやりとした手が伸びてきた。
「熱はないみたいやなぁ」
「んー」
熱じゃないんだよなぁ。そもそも、私そんなに体調崩すとかいったことないし。元気なのが取り柄だってひぃおばあちゃんが言ってたくらい。
「巳鶴さんに診てもらうか?」
「だいじょーぶ」
巳鶴さん、実家のお手伝いで忙しそうだから。私も神社の家の子だからよく分かる。年末年始の忙しさ半端ない。この国の宗教観念について、皆と膝詰めして話し合いたいくらいの忙しさだもん。
「どないしたん? まさか、どっかで拾い食いでもしてへんやろなぁ?」
「してないよぅ」
いつもだったら失礼な発言をしてきた綾芽の胸をボコボコと叩いてやるところだけど、その気力も起きない。
そんな私に不審げな二人分の視線が飛んでくる。
「なにか心当たりはあんのか?」
「んー。……ゆめに、おんなのひとがでてくるんです」
「夢に女?」
「あい」
なんだろう。
口にした瞬間、今までぼやけていた姿が妙にはっきりと思い出されてきた。
「おんなのひとが、ないてて。たくさんきものきたひとで。あいしていたのって」
「……なんや穏やかな話じゃなくなりそうやなぁ」
「茶化すな。それで? その女はどうしたんだ?」
「わたしがいえばいいよっていったら……もうおそいのよっていって、きえちゃった」
不思議なのは女の人がどう見てもアッチ系の存在なのに、全然怖いという感じがしなかったこと。通常時の私なら即失神ものだというのは否めないのにも関わらず、あまつさえ言葉まで交わしている。
ぼぅっとその時のことを話す私とは対照的に、二人の顔がみるみるうちに強張っていく。
「怖いって感情を持たなかったなら、完全に悪いもんじゃねーんだろうが……良くはねぇな」
「今は平気いうても、今後どうなるかなんて分からへんし。夏生はん、どないします?」
「どうするったって……こいつの父親に出てきてもらうのが一番だろ」
「そやなぁ」
私の与り知らぬところで、アノ人を呼びつける算段が着々と取り付けられていっていた。