天才とは何かと何かの紙一重―6
大広間に急いで布団が敷かれ、運ばれてきたおじさん達が次々に寝かされていく。
あっという間に大広間は怪我をしているおじさん達の治療室へと成り代わった。
着物の袖をたすき掛けした巳鶴さんを始めとして、医療の知識が多少なりともある人は皆バタバタと忙しなく動き回っている。
私も元の姿であればきっとタオルをしぼるとか、傷口を消毒するとかくらいなら手伝えたんだろうけど……。
今の自分ではこの場にいても邪魔な存在にしかならない。
部屋に戻って大人しくしてよう。
ちびっこにできるこんな時の最大のお手伝いは、邪魔にならないよう大人しくしていることだ。
「うぅっ」
寝かされるまでの傷ではないものの、腕を怪我をしているおじさんが、私が部屋を出るまでの動線に座って手当の順番を待っていた。
応急処置として巻かれている布にも血が滲んでいるのが分かる。
きっと効かないだろうけど、気休めでも……。
「いたいのいたいのとんでけー」
傷口に障らないように注意しながら手をかざし、みんなが知ってる魔法の言葉を言ってみた。
すると、痛みに顔をしかめていたおじさんが目を丸くして、自分の腕をジッと見つめた。
「……痛くない」
「えっ!?」
止血していた布をおじさんが取り払うと、その言葉通り傷は跡形もなく消えていた。
「……い、いたいのいたいのとんでけー!!」
私は寝ている人達に片っ端から言って回った。
最後の一人に魔法の言葉を唱え終わった時、急激な……食欲に襲われた。
こんな時、みんなのピンチを救ったヒーローとかは気絶するのがセオリーだし、何よりなんだか格好いい。
なのに、私はお腹にきた。
……しょ、食欲も大事な三大欲求だもんね!!
グギュルルルルルルゥオォォォォン
……ちょっと。お腹の虫さん、あなたちょっと自己主張しすぎ。
ギュルゥン
え!? 今の返事!? 返事なの!?
「……誰か薫さんを起こして、この子に食事をお願いしてください。詳しい話は後にしましょう」
おぅ。またお話しかぁ。嫌だなぁ。
私も分からないんだけどなー。
それに何より、巳鶴さんの目がちびっこを見る微笑ましいものから、完全に実験体を見つけた科学者みたいになっている。
幽霊もおばけも怖いけど……今は一番巳鶴さんが怖い。