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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
修行は本場の土地で
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修行は本場の土地で―6





 建物に入ると、入り口でもたくさんの人が話し込んでいた。


 そういえば、カミーユ様達がどこかから帰ってきたばかりだったっけ?


 そのせいか、たくさんの人とすれ違う。おまけにすれ違う人すれ違う人全員が私達を二度見だ。



 分かってる。


 天下の第五課長さんになんてことさせてんだって視線でしょう。


 分かってる。



「あら? 雅ちゃん?」



 名前を呼ばれ、そちらを向くと、廊下の向こうから何やら大きな箱を抱えた都槻さんがこちらへ歩いてきた。



「つづきさん?」

「ンフフ。雅ちゃんてば、強者ね。元気にしてた?」

「あぅ。し、しかたなくなんですっ! ……げんきいっぱいでしたよ。つづきさんもげんきそうでなによりです」



 都槻さんとはあの病院の一件以来会っていなかった。


 潮様や奏様から元気にしているとは聞いていたけど、やっぱり実際に会って確認する方がいい。



 持っていた箱は側にいる人にポイっとして選手交代。手を伸ばされたので、すかさず伸ばし返して脱・レオン様に成功!


 ありがとうありがとう。本当にありがとう。



「丁度良かった。君に用があったんだよ」

「私に? どのような用件ですか?」

「この子にこの映像を見せたくて。水鏡を宝物庫から出して欲しいんだ」

「分かりました。……って、それは」



 都槻さんはレオン様が掲げた本に目を見開いた。



「大丈夫だよ。逆にこれくらい見せておかないと」

「……分かりました。少しお待ちください」



 ……なに。そんなにヤバイものなの?


 怖いやつ? 怖いやつなの?



 都槻さんは用意をしてくるからと私を下ろし、受け取った本を持ってどこかへ行ってしまった。



 だ、大丈夫なのかなぁ?


 千早様、どこにも行かないでね。今は貴方だけが頼りです。



 クワッと眠そうに欠伸を噛み殺す千早様。こっちから手を繋ぐと無理に離されそうだから、サササッと後ろに回るだけに留めておいた。



 玄関ホールに置いてあるソファーに腰掛けて待っておくことにした私はレオン様が皆からどう思われているかの縮図を見た。


 次から次へと人が帰ってくるのに、皆レオン様を見た瞬間、ギョッとしてさあっと蜘蛛の子を散らしたみたいに避けていく。


 それをレオン様は気にした様子もなく、あまつさえ通りかかった他課の人にお茶を持ってくるよう言いつけ、その人はダッシュでどこかへ消えていく。大方厨房かどこかへ行ったのかもしれない。


 その後、その人は見事五分足らずで戻ってきた。十分及第点だと思うのに、レオン様に言わせるなら、茶葉が開いてない、だそうだ。そんなの知らねーよという顔をしていた持ってきてくれた人は続くレオン様の笑顔にその顔を一瞬で引っ込めた。



「おい。あいつ、新人か?」

「あぁ。レオン様が出張されている間に入ってきた奴だ。まだ会ったことはなかったはず」

「だろうな。……詰んだな」

「な。元老院三大魔王をカミーユ様、セレイル様、星鈴だと未だに勘違いしている者もいるくらいだからな。あの方が一番ヤバイのに」



 レオン様は獲物を仕留めにかかっているからと、少し離れた所ではなかなかなことを言われている。


 でもね、私思うんだよ。


 人間の聖徳太子ですら何人も同時に話が聞けたんだよ?


 人外のレオン様ができないわけ……あ。



 ソファーの背もたれに腕を回し、体を(ひね)るレオン様。



「ネズミならネズミらしく静かに情報収集してなよ」



 終わりだね、というレオン様の言葉に反応する人達。一斉におしゃべりしていた二人組のうち片方を取り囲み、体を地面に押さえ込んだ。



「君は後で僕が直々に尋問するから、待っててよ」



 その一言だけで、男の人は絶望の表情に変わり、他の人は可哀想なものを見る目で連れていかれる男の人の後ろ姿を見送っている。



 んーネズミってなんなんだろう?


 よく分からないけれど、あんまり良くないものなのは確かだよなぁ。



 レオン様はいつの間にか新しく持って来させていた紅茶の匂いを嗅ぎ、満足気に口に運んでいた。



 これまた別の人が気を利かせてくれて、私にオレンジジュースを持ってきてくれた。


 ありがとうとお礼を言って受け取ると、どこからかパシャパシャというシャッター音のようなものが聞こえてくる。



「この子は潮付きだよ。ちゃんと潮に許可は取ってあるんだろうね」



 レオン様がどこかに視線をやることはせず、そのまま紅茶を楽しみながら誰かに問いかけた。



「もちろんですっ」

「次の回は次週配布になります!」

「そう」



 どこからか声が返ってくるけれど、その声の主の居場所が分からないからついキョロキョロと辺りを見回してしまう。でも、レオン様はそれが気にならないのか、はたまた既にどこにいるか分かっているのか、それについては何も聞かない。千早様も同様だ。



 次の回? 次週配布? 


 今のって、もしかして写真? もしそうなら、他でもなく私の許可をとるって意識はいずこへ?


 まぁ、有名人になったみたいで気分は悪くないからいいけどもさ。



 ……もっと笑顔の写真、いります?



 暇だからメチャクチャ被写体になってみた。


 テンション上がっちゃって調子に乗ってしまった私を止めたのは、冷ややかな笑顔を浮かべて見下ろすレオン様と、またどこから出したのかハリセンの準備運動をし始めた千早様だった。



 大人しくジュースを飲むこと、しばらく。



「お待たせしました。別室を用意させましたので、そちらで」

「ありがとう」

「ありがとうございます」



 テーブルに飲み干したグラスを置いて、先頭に立つ都槻さんの後ろをついていった。



 今日はよく歩く日だ。


 足が疲れて、ちょっとふくらはぎが痛くなってきた。


 あんまり使っちゃいけないと言われてるけど、不可抗力だもの。ムフフッ。



 ズルしてプカプカ宙に浮いてついて行く。


 すかさず千早様がパンッパンッと自分の肩をハリセンで叩きながらこっちを見てきた。



 えー。……ダメ?




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