本当は怖い賑やかなお祭り―15
「じゃあ、土地神様はここに残ってくれるってことで。はい、夏生さん、どーぞ!」
「お、おぉ」
ふぅ。神様も町の人達も説得したし、私の役目はこれで終わりだよ。
なんかやっぱり計画通りとはいかなかったけど、最終着地点が一緒ならいいよね。
それに緊張が解けたからか、いつもならスヤスヤ夢の中な時間に起きてたからなのか……眠くなってきたし。
さっきから目がしょぼしょぼする。
「さて、と。神さん側はそれで手打ちだろうが、こっち側はそうはいかねぇ。てめぇらに捕らわれてた男の拉致監禁。しっかり償ってもらうからな」
「あ。あと、休暇中に自分ら働かせた件についても追加で頼みます」
「思いっきり地獄めぐり楽しんでた奴の言うセリフか」
「それとこれとは別ですやんかー」
ブーブーと文句を言う綾芽を夏生さんはスパッと無視し始めた。
綾芽ってば、子供みたい。
「……あ。夏生さん、お祭りはどうするんですか?」
「祭り? んなもん、中止だろ」
「なんだ? お前、祭り見たかったのか?」
「んー? んー」
海斗さんにそう聞かれ、考えてみた。
人柱のことを切り離して純粋にお祭りのみだってことを考えれば、楽しみにしてる人もいるだろう。
でも、人柱になった人の事を考えれば、このお祭りは中止すべきだ。
「今年の祭りは中止します。それから、私達が拉致したあの方への謝罪もします」
「中止はいいかもしれませんが、謝罪はやめておいた方がいいかと。あの方のここでの記憶を呼び起こすことになり、精神状態を悪化させてしまう。罪を償っているということを風の噂程度に聞いているのが一番いいでしょう」
「……それでも、私達は謝罪を」
巳鶴さんの言葉を聞き、町長さんは一瞬考えるも、頭を横に振った。
《他者が望まぬ謝意は果ては自己満足のためであり、傲慢なものでしかあらぬわ》
『……』
……ん? 私、今なんか口が勝手に。
居心地が悪くなるほどたくさんの人達に目を向けられた。
しかも、さっき私の口から出た声はどう聞こえても私の声なんかじゃなく、アノ人でさえ、びっみょーに眉を顰めている。
うーむ。これはまたやらかしちゃった系かなぁ?
「おい、チビ。今、何があったんだ?」
「えっと……分かんない」
やだ。そんな困った顔しないでよ。
私だって全く分からなくて困ってる。
「今の声……」
「知ってるの?」
「……んー。私も大分前に聞いたっきりだからよく覚えてないんだけど、似てた気がするのよねぇ」
現・黄泉の国主宰神、伊邪那美命の声に。
力無く笑うオネェさんが発した名前に、周囲はシーンと静まり返った。
皆して顔が引きつってる。
ど、どーしてそんな遥か高みの神籍を持つような方が、こんなちんちくりんの小娘の口を借りたんでしょーねぇ。
あはは。あはははは。
……気まぐれですように、気まぐれですように、気まぐれですようにっ!!
「大丈夫や」
綾芽の大きな掌がポンと頭の上に乗った。
顔をあげると、綾芽が優しい目で私を見下ろしている。
……うん。そうだね。皆いるし。
オネェさんも。都に戻れば千早様も、奏様達もいる。
あと、ついでにアノ人も。
「と、とりあえず、もうじき夜が明けます。色々手配を進めるのはそれからに。薫さん、すみませんが、人数分の朝食をお願いできますか? ここの宿の料理人さん達には申し訳ないのですが、薬を盛られないよう用心のためです」
「分かったよ。別にいつもと変わらないしね」
巳鶴さんと薫くんが話している声が段々遠退いて聞こえてくる。
今の今まで興奮して眠気なんか吹っ飛んだと思ってたのに、そうじゃなかったらしい。
安心できたせいか、一気にぶわっと来た。眠気が。
「……っとと」
一瞬意識がフッと抜けて、前のめりになったところを綾芽が受け止めてくれた。
でも、もう目を開けてるのも辛い。
「こちらに」
「はぁ。別にえぇですけど」
背中と膝裏に手を当てられ、抱きかかえられた。
……あ、お母さんの好きな花の匂いだ。
ってことは、これ、アノ人? やだなー。
でも……ねむい。もういっか。だれでも。おふとんつれてってくれるなら。
「……重いな」
ほんと、あとでおかあさんにいいつけてやる。
眠りの神様がいるのであれば、私はとうとうその神様に白旗をあげた。
朝ご飯だと起こされるまで、まさかのアノ人によるお座り抱っこでグースカピーピーと眠ることになった。