本当は怖い賑やかなお祭り―10
※ 海斗 side ※
チビの父親が指した場所に着いた俺達は、早々に人柱にされかけている男を見つけていた。
ぐったりとしているものの、意識はちゃんとはっきりとしている男をここにいる中で一番の力自慢の穂積が背負った。
ありがとうございますありがとうございますと繰り返し言い続ける男の肩は小刻みに震えている。
助けが来るかどうか分からない絶望的な状況で、今日までよく気狂いにならなかったもんだ。
普段なら野郎相手には絶対ごめんだが、男の肩をポンと安心させてやれるように叩いた。
「よし。お前はこのまま街外れにあった看板のところで待機だ。黒木と瑠衣を今から向かわせるから一緒に都に戻れ。おい、あと四、五人ついとけ」
「「はっ」」
夏生さんから指示を受けた穂積とその他数人が指示された場所に散っていく。
こうなっちまったら温泉旅行どころじゃねーからなぁ。
巳鶴さんから来た情報じゃ、代わりとばかりにあの二人を狙う可能性もなくはないし。
……チビはすんげ―楽しみにしてたから怒ってんだろーな。
でかくなってもちびっちゃくても怒る時はいっちょ前に怒るチビの姿を想像できて、こんな時だってのにほんの少し笑みが漏れちまった。
それを不思議そうに見てくる俺の部下達。
笑った理由を言うと、皆、あーと同意してくれた。
今のところ、まだ町の奴らに気づかれた様子はない。
……っとぉー?
「……へっへへ。おいでなすったぜ?」
ガラ悪そーな奴から一見普通のおっさんまでわらわらと集まって来て、悪役よろしく鉄パイプやらバットやら持ってやがる。
さて、こいつらにはちーっとばかり灸を据えてやんねーとな。
「夏生さん、こいつらの相手していーのか?」
「「始末書は?」」
おっと、綾芽と考えてることがかぶった。
そりゃそーだよな。
もしこいつらに危害を加えたってことで始末書書かされるんなら少し考えねぇといけねーからな。
せっかくの休暇中に余計な仕事を増やしたくもねーよ。
「……俺は今から橘に現状報告を三分いれる。その間に起きたことは見てねーし聞いてねーよ。じゃあ、かけるからな?」
おっし! ウルトラ三分タイム来た!
この間なら多少は何しても許される夢の時間ってことで。
「うちの子、今回の旅行えろう楽しみにしたはったんですわ。不機嫌になるんやないかって、自分の心痛どーしてくれはりますの?」
「ひいっ!」
おー。
綾芽のヤツ、早速手近にいた男に襲いかかってやがる。
人間が“悪魔”に敵うわけねーよなぁ。
「海斗さん!」
……っとと。
へへっ。
鉄パイプ振り下ろされてきたんだ。
一般人でも正当防衛って言えるよなぁ?
三分?
不機嫌さMAXの綾芽がこの場にいるからして、そんな時間必要ねーと思うぜ?
※ 海斗 side end ※