天才とは何かと何かの紙一重―4
十数分経ってようやく終えられた巳鶴さんの海斗さんへのお叱りの後、私達は再び薬草園に戻ってきていた。
「これはなぁに?」
「これは即効性のある睡眠薬になる薬草ですよ」
「へ、へぇ」
巳鶴さんは満面の笑みでそう教えてくれた。
いつ使うのかは聞かないでおこうかな?
だって、巳鶴さんの笑顔の後ろで、海斗さんが無言で首を振ってるもの。
巳鶴さんは日光にあたると肌がすぐに赤くなってしまうらしく、日傘を差している。
それでも外にでないとは言わずに、私の隣にしゃがみ、色々教えてくれた。
「……ふぅ」
巳鶴さんから薬草がどれなのか教えてもらえたおかげで、最初とは大違いに作業がはかどっていった。
最初は雑草と薬草の区別が分からなかったからとんでもなく多く感じたけど、薬草の方が少し多いくらいだったんだねぇ。
そういえば、先週もしてもらったって言ってたっけ?
それなのにもうこんなに雑草がはびこっているとは……雑草パワー恐るべし。
うんせ、どっこいしょっと、なかなかにしつこい雑草の根を引っ張り抜こうとしていた時だった。
「……ぎゃあぁぁぁ!! くさいぃぃぃぃ!!!」
力を溜めるために大きく深呼吸した時にその凶行は行われた。
なんぞ!? これはなんぞ!?
鼻にくる嫌な臭い。
臭いの元から顔を全力で反らして、薄ーく目を開いて臭いの正体を確かめた。
むっ。なんか見たことあるぞ。
確か……ドクダミ?
元の世界の家の庭に生えてた。
可愛い花をつけるけど、決して触っちゃいけない、触ると臭いが手につくからって、庭を世話してくれてたおっちゃんが言ってたっけ。
「確かに、嗅ぎ慣れないと臭く感じるかもしれないですね」
「さっきの仕返しだ」
「まったく、大人気ない」
顔だけじゃなく上体まで反らしていた私を巳鶴さんが後ろから支えてくれながら、困ったように溜息をついて私達の横に立つ海斗さんを見上げた。
へへっと笑う海斗さんに、そんなにさっきのお説教は応えたのか、と反省……するのは寝る前に綾芽に今日あった出来事話す時で十分じゃ!
海斗さんの脛、弁慶の泣き所を目がけて目いっぱい手刀をお見舞いした。
「痛っ!! ちょ、タンマ!! そこはダメ!!」
「たんまって、しらないことばでしゅな」
脛を庇って地面に倒れ込んだ海斗さん。
身長のハンデがなくなり、こうなってしまえば後はこちらのものだ。
「まっ……あっ、くっさっ!!」
逃げないようにマウントポジションをとり、ドクダミを海斗さんの鼻にこすりつけた。
報復? 当然です。
「二人とも。仲がいいのは分かりましたから、そこらでおやめなさい」
「えー」
「あなたならまだしも、海斗さんみたいに図体がでかい人がここでのたうち回ったら周りの薬草が傷つくでしょう?」
「俺の心配はっ!?」
「薬草の二の次です」
「……俺の扱い酷すぎんだろぉ」
……そんなこともあるさ。男の子だもん、泣いちゃダメ。
私はそっと海斗さんから降りて、何事もなかったかのように草むしりに戻った。