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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
湯けむり道中は珍道中
134/310

湯けむり道中は珍道中―1





■□■□




 南のお屋敷に戻って来れて一週間後、綾芽達が都に帰ってきたという知らせが届いた。


 どうやら何事もなく確認を終了できたようで、予定よりも一週間早い帰還となったらしい。



「あぁ、来たね来たね」



 綾芽達が南のお屋敷に到着するのを門の前で千早様と待っていると、後ろから無駄に良い声が降ってきた。


 その声の主は私の肩に手をのせ……逃げられないようにしっかりと掴んでいる。



「ち、ちはやさまぁ」



 なんとも情けない声を上げるも、千早様はさっきからこちらをチラッとも見てくれない。


 それどころか、私の存在を認識しようとしているのかすら危うい。



 酷い。酷すぎる。


 師匠に裏切られる弟子の図を見た。



「あぁ、楽しみ過ぎて」

「縦と横。お望みの方法で斬ってさしあげますが?」

「フフン。いいのかい? 僕はこれからここでしばらく監視任務が入るんだけど」

「……チッ」



 私の背後に立つ人のさらに背後に立ち、喉元に刃を()わせたのは奏様だ。


 奏様は不満たっぷり、というか不満しかないといった感じで舌打ちを一度打ち鳴らして刀を引いた。



「酷いなぁ。ねぇ、君もそう思わないかい?」



 そう聞かれはしたものの、私はそれどころじゃない。


 ゾワリと総身が(あわ)立つ感じがする。


 鳥肌がバンバン立ちまくっているのが服の上からでも分かる。



「は、はなしてくだしゃい」

「うん?」

「あなたの気が彼女には強すぎるんですよ。ここに来る前に祭りに行ってきたでしょう?」

「フッフフフ。ここに来る前の準備運動だよ」

「せめてシャワーは浴びてきてくださいよ。あなた、全身から……なんですか? これ……獣? 獣臭いですよ」

「あぁ、退治たのは土蜘蛛(つちぐも)だからねぇ。その返り血を浴びたから、その匂いかな? 顔とかはぬぐったんだけどなぁ」

「その子から今すぐ手を離してください。とっとと、さっさと、今すぐ!」



 奏様の背に(かば)ってもらい、ようやく逃れることができた。


 それでも気持ち悪さは抜けない。


 奏様の服の裾をぎゅっと握った。





 つい先程南のお屋敷に来たこの人は奏様達の上役にあたるっていうだいさんか?のかちょーさんなんだそう。


 目を見た瞬間分かった。


 この人は近づいちゃいけない人だって。


 皇彼方もヤバかったけど、この人はそれに輪をかけてヤバい。



 奏様も誰も私の反応を(とが)めないからこうしててもきっと問題ないんだろう。


 無理せず奏様の背中にべったりとくっついて回ることにしよう。



「そう怖がらないでくれるかい? おかしいな。子供には嫌われないはずなんだけどね」

「それ、比較対象が元から限られているうえに、あの子が特殊なんです。普通はこれですよ」

「えー。納得いかないなぁ」



 どこにどう自信があったのか分からないけれど、その後も彼、カミーユ様は私にちょっかいをかけてきては奏様に怒られるのを繰り返した。



「ちょっと。うるさいんだけど」

「ご、ごめんなさい」

「おやおや。童神は()ねておいでかな? よし、君も構ってあげよう」

「はぁ!? 頭沸いてんじゃないの?」



 一応謝ったけれど、千早様の声の方がうるさい気がする。



 フリではなく本気で嫌がる千早様を、カミーユ様はその怜悧(れいり)な片目を覆うモノクルを不敵な笑みを浮かべつつ押し上げた。



「あ、雅ちゃん。本当に来たみたいよ?」

「えっ?」



 奏様が指差す方を見ると、確かに見覚えのある車がこちらに向かって走ってくる。


 あれは……劉さんの車だ!



 車は駐車場に入ると、やがてエンジン音が途絶えた。


 駆け寄って、一番初めに出てきた海斗さんに飛びついた。



「おかえりなさーい」

「はいはい、ただいまですよーっと。それよりも、お前、またやらかしやがったなっ?」

「ぎゃーっ」



 海斗さんはワシワシと大きな手で私の頭をかき混ぜた。


 せっかく奏様にポニーテールに編み込み入れてもらってお洒落(おしゃれ)してたのに台無しだ。



「海斗、そこら辺にしとけ」

「へーい」



 あぁ、この感じ、久し振りだなぁ。


 一ヶ月も離れていないし、たまには電話もしてたのに、この感じはやっぱり生じゃないと。



「なつきさん、おかえりなさい!」

「あぁ。雅」

「……はい」



 腕組みをして私を見下ろす夏生さんの背後にズモモモと黒い雲が立ち込めている、気がする。


 大人しく……海斗さんの手を引っ張っていく。



「まずは俺達がいない間、陛下と都をよく守った。褒めてやる」

「ほっ。……ありがたやー」

「だが、奴らに捕まるたぁーどういうことだ! またお前、菓子に目が眩んだんじゃあるまいな!?」

「や、やですよぅ。そんなしっぱい、いちどでじゅーぶんです」

「ったく。お前といい、綾芽といい、どーして無茶なことばっかするんだか。誰かそんなこたぁない……奴がいねぇ」



 ……そうだね、いないね。


 みんなのこと、よぉく分かってる夏生さん、好き。



「えー。夏生はん、なんで自分もその(くく)りなんですの?」

「ほぉーん? 自覚がない奴が一番タチが悪いんだよ」

「言いますけど、それ、夏生はんも充分その括りに入ってますやんか」

「俺のはお前らのやらかした分の後片付けも入ってんだよ! そう思うなら、ちったぁ労われ!」

「そや。はい、お土産」

「わっ」

「話を聞け!」



 綾芽が可愛い瓶に入ったカラフルな金平糖をくれた。


 これは食べ終わった後も何かの入れ物に使えそうだ。



「あやめ、ありがとー」

「かまへんよー。でも、その代わりやあらへんけど、君のパパさん、きつーく怒っといてや? 彼のおかげで大変やったんやから」

「えっ!?」



 ちょっとちょっと。


 また何かしたんですか、アノ人は!



 今はお母さんのところに行っているのか、アノ人の姿はない。


 もしかしたらまた姿を消してとかかもしれないけれど、最近では千早様との特訓のせいもあってか、だいぶ分かるようになってきた。



 これはもう、お母さんにちゃーんとしっかり怒ってもらわねばなるまいね。



「りょーかいです!」



 それから劉さんも車の鍵をかけてこちらにやって来た。


 久々の肩車は格別でした。まる。





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