起こしてはならぬモノ―12
※ 橘 side ※
「さて」
あの子と同じように子供の形をとっているとしても、こちらは、千早様はやはり私達よりも何倍も神として生きてこられた分威厳というか、そういった雰囲気を醸し出すのに長けている。
普段はあの子が傍にいるせいか、少々、いやかなり達観している子供といった風が否めないが、今はそういった感じは風に吹かれた霧のように立ち消えていた。
「あの子は奪還した。しかも拍子抜けするほど易々と。手引きがあったって言うけど、あの皇彼方は己が望まぬ結果を内に抱えるほど甘い男ではないよ」
「ここまでもあの男の策の内、というわけですか?」
「と、思うね。でもま、今の段階でとりあえず龍脈が無事なら、ここでは本当にあの一族の事情で僕達を振り回したかっただけだと思う」
「それでは、東と西の龍脈の確認が終わればこの一件は終息すると?」
「そうだね。さっきも言った通り、第三課がこちらの事情に目をつけて出張るタイミングを見計らってて、ようやくそれの許可が下りそうだから」
「ですが、その第三課の方々が来られても完全には安心できないのでは?」
「それは大丈夫。それよりも……」
千早様が鳳さんの方へチラリと視線を投げた。
その視線は彼が怪我を負った足に向けられている。
「内々の問題を解決する方が先じゃない? ここ、しばらくいたけど、二心持つものが多すぎるよ。それが人間だって言われたらそうだけど、この都は酷すぎる」
「面目次第もございません」
「陛下。やはり、例の件、事を進めるのを急ぎましょう」
「あぁ。丁度雅達を湯治に行かせる約束をしている。夏生達には悪いが、また一仕事してもらわねば」
「我ら城下四部隊はそのための存在ですから、そのような事、お気になさいませぬよう」
「あぁ、だが、雅にはなぁ……悪いことをする」
「夏生が申しておりました。アレも東の隊員。ガキ扱いをするのは平時のみと」
「ふ、フフッ。そうか。それは頼もしいな」
陛下は僅かに笑い声を上げた後、部屋に差し込む夕日を目で追った。
「平穏というのが一番難しいとは、よく言ったものだなぁ」
窓の向こう、沈みゆく夕日を見つめる陛下が漏らした一言が、返る言葉もなく、皆の胸の内に消えた。
※ 橘 side end ※