起こしてはならぬモノ―10
目を覚ますと、身体全体を巻くように毛布がかけられていた。
今、ここにいるのは私が知っている限り私と、皇彼方と、あのお兄さんだけ。
他に誰もいないとすると、必然的にどちらかということになるけど……どちらがやってくれたにしろ意外だ。
「……ん?」
部屋の机の上に一枚の折り鶴が折って置いてある。
私が眠りに落ちるまでは確かになかったはず。
立ち上がってその折り鶴を手に取り、角度を変えて眺めてみる。
すると、元々紙が薄いのか、裏に何か書いてあるのが透けて見えた。
なんて書いてあるんだろう?
書き損じた紙で手慰みに折ったのか。
もしかすると、何か重要なことが書いてあるかもしれない。
上手くいけば、夏生さん達に褒めてもらえるかも!
「……あ、地図だ」
開いた紙にはこの屋敷の見取り図と思われる地図と。
それと、もう一筆。
“勝手に覗かないで 変態”
へ、変態だとぉ!?
過去のことなら、あれは完全に不可抗力だったよね!? どー考えても!!
……ま、まぁ落ち着こう。
この地図、罠じゃなければここからの出方が書いてある。
分かりやすいようにご丁寧に赤い矢印で出口って書いてあるところまで引っ張ってるんだもの。
薫くんが傷ついた原因を作った人だ。
絶対に許せないし、あんまり信用できない。
でも、今はこれ以外手がかりがない。
……えーい! 私らしくない!!
思い立ったら即行動!
死ぬ時以外の後悔は後でもできる!!
地図を握りしめ、襖を開け、ソロリソロリと部屋を後にした。
正直、襖を開けたら一面に蛇がいるくらいの嫌がらせに近い罠は受けると思ってた。
けれど、全くそんなことはなく。
気づいたら外に出られていた。
見渡す限り、赤い彼岸花が一面に咲いている。
「……よくわかんないけど、けっかおーらいってやつでいいんだよね?」
返ってこない問いが虚しく辺りに響いた。
でも、何事もなく出られたのなら、それにこしたことはない。
あと私にできるのは、この場からすたこらさっさと立ち去ることだ。
ただ、ここがどこだか分からない。
看板立てといてよ、看板!
そう、あれみたいな……看板?
このちみっこい身体では遥か上にある木でできた看板。
見間違いじゃなければ、書かれているのは有名な場所だ。
“三途の川”
目をゴシゴシこすってみても、その文字面は変わらない。
そりゃそうだ。
私は目はすこぶる良いもの。
なにせ体育館のステージに置いてあるホワイトボードに書かれた文字が一番後ろからでもバッチリ見えちゃうくらいだ。
「ここにいたか」
「……探してくれたの?」
「当然だ。アレが教えてくれた」
アレ?
彼岸花畑の向こう、大きな川の向こう岸に、こちらに背を向けて立っている墨染の狩衣を着た恐らく男の人の後ろ姿が見えた。
誰だろう?
コノ人の知り合いかなぁ?
「帰るぞ」
「みんなのところにね!」
「む」
帰りはするけれど、実家の方だったっていう前科持ちのコノ人。
それでも悪くはないけれど、それだとお母さんが急に帰ってきて何かあったのかって心配しちゃう。
それに、帝様達にちゃんと無事ですよって報告しなきゃ。
釘を刺さなければ間違いなく家に帰っていただろう返事をしてきたけれど、ちゃんと私の意は汲んでくれたらしい。
フッと辺りの景色が変わったかと思えば、そこは南のお屋敷。
なんとあれから一週間も経っていた。