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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
天才とは何かと何かの紙一重
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天才とは何かと何かの紙一重―2

 


 頭には麦わら帽子。


 手には軍手。


 足には長靴。


 肩には冷たいお茶が入った水筒。



「準備はいいかー」

「おー!」



 天高く拳を突き上げる二人。


 今日の薬草園の草むしり当番は、私ちびっこと、頼れるアニキ海斗さんで務めさせていただきます。



 薬草園は屋敷の離れ側の庭にあった。


 あんまりこっちには来た事がなかったから全然分からなかったけど、この薬草園、意外と大きい。


 部屋三つ……いや、四つ分はある。


 んーと、ビニールハウスの苺栽培みたいな感じを想像してもらえれば一番近いかな?



 草むしりというだけあって、プランターじゃなく、直に地面から草?が生えていた。


 でもこれ、雑草と薬草?の区別がつかない……。



「かいとー」

「んぁ? なんだ?」

「これー、ぬいていいのー?」

「んー……ダメだな。そりゃ薬草だ」

「これはー」

「んー………それもダメだ」

「むぅ。むずかしいね」

「だろうな。俺も分かんねぇもん」



 海斗さんがどこからか取り出した冊子を見ながら一つ一つ答えてくれた。


 飛び出た衝撃発言に、思わず海斗さんの方を見ると、へラッと笑われた。



 ……ダメじゃね? この面子。



 なんとも不安しか残らない今日の草むしり当番。


 この編成を決めた人はその時睡眠不足で頭が働いていなかったか、虫の居所が悪かったか、はたまた好物を私か海斗さんに盗られた恨みかのどれかだったんだろう。



 一言言っておくと、私は盗ってない。盗られた側だ。


 大事なことなので、もう一回言っておこうかな?


 盗られた側だ。



 とりあえず、海斗さんが持ってきた冊子と実物を見比べながらやってみること十五分。


 もうすでに疲れてきた。



「ちょっと休憩しようぜ」

「かいとー、それさっきもいってたよ?」

「さっきはさっき。今は今だろ? ほら、飴ちゃんだ」

「……うはっ! あまーい」

「うまいか?」

「うまーい」



 ……ハッ、いかん!


 食べ物に釣られるとろくなことにならないんだってば。



「んー。こんなんじゃいつまで経っても終わる気しねぇしなぁ。おい、チビ。そこの離れの玄関行って、巳鶴さん呼んでこい」

「みつるさん?」

「なんだ? まだ会ったことなかったか?」

「うん」

「とりあえず、入り口で名前叫べば出てきてくれる……はず」



 ねぇ。今、小さな声でなんか心許ないものつけたでしょ。



 本当に大丈夫なのかなぁ。


 まぁ、行くけどね! 行っちゃうけどね!



 離れの玄関は薬草園とは反対側、母屋に面した側にある。


 私はぐるっと回り、離れの玄関の戸の前に立った。



 インターホンは……ないよね、やっぱり。


 ドンドンドン


 親しき仲にもなんとやらとは言ったものだ。


 インターホンの代わりに戸を三回ノックして、横開きの扉をカラカラと音をさせながら開いた。



「たーのーもー……じゃなかった。すいませーん」



 いけね。


 つい、この間見た時代劇の道場破りのセリフがでてしまった。


 結構面白かったんだよねー。


 だけど、綾芽から時代劇ごっこは当分禁止やって言われてたのに……ばれなきゃいっか。



「みーつーるーさぁーん」

「なんですか? 騒々しい」

「んぎゃっ!」



 てっきり中から出てくると思っていたところに、まさかの後ろから。


 肩がビクッと飛び跳ねた。



 後ろを振り返ると男の人が立っていた。


 うーん。なんとなくだけど、この人が巳鶴さんのような気がする。



「あの、みやびでしゅ」

「あぁ。君が綾芽さんが預かっているっていう子ですね?」

「あい」

「私は巳鶴といいます。よろしく」

「よろしくおねがいしましゅ」



 ぺこりと一礼。



 巳鶴さんは白い髪、白い肌、色付きの眼鏡をかけている。


 いわゆるアルビノと言われる人達が持つ特徴と一致していた。


 昔、アルビノのモデルさんを見たことがあったけど、綺麗だったよなぁ。


 綺麗な人は綾芽やアノ人だけで十分見飽きてるけど、巳鶴さんは……なんというか、儚げ美人?


 ただ、見た目と中身は必ずしも一致しないことを二人でよーく分かっているから、余計な先入観はご法度だ。



 じーっと見られた後、すっと脇に手を入れられたかと思うと、ひょいっと抱え上げられた。



 むふーん。


 最近抱えられクセがついちゃって、もう。


 みんなして抱っこしてくれるもんだから、自分で歩くのを嫌がる我儘な子になったらどうしよう、とか自分で自分を心配してみる。


 あ、やっぱりないや。夏生さん、怖い。



「軽いですね。ちゃんと食べていますか?」

「たべてましゅ。すごーくおいしーのいーっぱい」



 両手をめいっぱい広げて美味しさの範囲を表現してみました。


 食べてる量のことじゃないからね?



「確かに。薫さんの作るご飯が美味しいのは間違いないですね」

「あい」



 んー、本当はこれじゃあ足りない。


 誰か、誰でもいい。腕をかしてくれぇい!


 ……物理的にもぎ取って送ってくるのは無しの方向でお願いします。


 確実に泣く。



 私を抱き上げる方の手とは逆の方の手で玄関の戸を閉め、巳鶴さんはそのまま奥の部屋へと足を進めた。




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