起こしてはならぬモノ―6
※ 焔寿 side ※
こちらへ来る時に、千早様から渡された鈴。
それを二度鳴らす。
それが帰還に合図となるらしい。
「……」
言われた通りにやったというのに、何も起きないとはどういうことだ?
「陛下。それ、貸してもろてもえぇですか?」
「あぁ」
持っていた鈴を綾芽に渡すと、綾芽は鈴を回したり覗き込んだりして隈なく調べ始めた。
そして綾芽も二度、鈴を揺らした。
しかし、来る時に現れた赤い大門はやはり現れない。
「……謀られた?」
「千早にか?」
「遅くなりました。少々出るのに手間取ってしまって」
雅の母親が家の方から駆けてきた。
だが、遅くなるもなにも帰るための術がない今、確実に立ち往生だ。
「どうされたんですか?」
「その鈴を鳴らせば帰れると聞いたが、効果がない」
「呪具の一種ですね。私に貸していただけますか?」
「あぁ。綾芽」
「どうぞ」
「ありがとうございます」
雅の母親は鈴を両手で包み込むようにして持った。
しばらくして、鈴の紐を持った彼女は僅かにその鈴を振った。
リィーン
明らかに私達が鳴らした時とは音の響きが違う。
そして、フッと先程までこの場にいなかったはずの影が現れた。
「優姫」
雅の父神が彼女の背に手を伸ばし、抱きしめた。
いや、正確には抱きしめかけた、と言った方が正しい。
「陛下」
「む」
綾芽に腕を引っ張られ、近くにあった木陰まで連れて行かれた。
そしてそのまま綾芽は二人の方へ視線を投げた。
これはここで黙って見ていようということか。
なんだか不穏な感じがするが……まぁ、綾芽がそうしたいのならそうさせておこう。
私も綾芽の隣で黙って二人の様子を見ていることにした。
※ 焔寿 side end ※