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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
起こしてはならぬモノ
123/310

起こしてはならぬモノ―2





■□■□





「……」

「……」



 ただいま絶賛睨み合い中でございます。



 蛇にグルグルと身体に巻きつかれ、逃げること叶わず。


 あれよあれよという間に連れてこられてしまったよく分からない場所。


 そこで待っていたのは腕組みをして超絶不機嫌そうなもう一人のお兄さんだった。あのスーパーで初めて会った時の爽やか好青年の影は木っ端微塵に立ち消えている。


 別人ですかこのやろー。


 蛇とマングース並みに睨み合う私達をお兄さんが窓の所に腰かけて呆れた顔で見てくる。



「……」

「……」



「……子供みたいなことしてないで」

「子供扱いしないで!」

「みぎにおなじくっ!!」



 かぶった!



「ほんっと奏お姉ちゃんもこんなちんちくりんのどこが良いんだか」

「かなでさまとわたしはそーしそーあいのなかだもんね!」

「はぁ? そんなの勝手な思い込みでしょ」

「ちがうもんね!」



 奏様、女子供大好きって言ってたし。


 私、女子供だし。



 子供扱い?


 それはそれ、これはこれ。


 要はこの人に負けたくない!



「そういえば、僕達ちゃんと挨拶してなかったよね?」



 お兄さんが持っていた煙管を煙管箱にかけ、着ている羽織の中に両手をしまって軽快な足取りで私達がいるところまで歩いてきた。


 相変わらず笑顔なのに笑顔じゃない人。まるで能面のように笑みが張り付いているのかもしれないけれど、その下にあるのは何も映さない無の感情だ。



「僕は皇彼方(すめらぎかなた)。よろしくね、柳雅ちゃん」

「なんでわたしのみょーじまでしってるのとかはおいといて。……よろしくしたくないので、みんなのところにかえして!」

「酷いなぁ。君、前から何か誤解してるみたいだけど、僕達は別に悪者なんかじゃないよ?」

「しょーこは」

「証拠? 君を無理矢理操ることなく自由にさせてるだろう? それに、もし僕が完全な悪役に徹するならあの城の火事の時、城だけじゃなくてこの街、この国全体を焼かせてるよ。そっちの方が手っ取り早いからね」



 ……それが証拠って言いはるつもりなら、弁護士さんもびっくりだろうよ。


 それに、手っ取り早いってなに。手っ取り早いって。


 あの時の火事でたくさんの人が火傷したし、中には……。


 絶対に許せん!



「うーん。まぁ、いいか。それでね、今日君を招待したのには理由があって」

「これはしょーたいじゃなくってりっぱなゆーかいよ!」

「じゅあ誘拐でいいよ。そこ重要じゃないし」



 そこ“も”重要だよね!?


 もう私は帰る。帰ります!



「ちはやさまー!!」



 天に向かって大声で叫んだ。



「あぁ、無駄だよ。彼より僕の方が力があるからね。君の父上やその友神もここには気づかないと思うよ? 色んな仕掛けをしたから」

「なんですとっ!」



 ちょっとちょっと。


 状況が違ってきたよ?


 千早様か、一万歩くらい譲ってアノ人を呼べば大丈夫だと思ってたから悠長に話してたのに!



「さて、自分が置かれてる状況を理解してくれたところで本題に入るよ?」



 理解せざるを得ない状況を作ったのはそっちのくせに、随分勝手な言い分だ。



 でも、ここは一応今後のためにこの人の言う本題とやらを大人しく聞いておいた方が良いかもね。


 たぶんこういう手合いの人は自分の思い通りに進んでいるうちは手荒な真似はしない、と、思う。思いたい。



「正直言って、この世界には何の興味もないんだ。この世界が栄えようと逆に混沌に包まれようと僕には関係ない」



 ……確かに。


 この人はこの世界、というより、他のほとんど全てのものに興味を持ちそうにない。


 この人が興味を持つとするならそれは。



「でもね。君がこの世界に来たことで少し事情が変わったんだ」

「……かなでさまがわたしにやさしくしてくれるから?」

「やっぱり。君はそういう勘だけは働くみたいだね」



 そういう勘だけとはなんだ!


 もっとちゃんと色んなところ働かせてるよ!!



「そう。僕の目的は、奏が約束を忘れないよう定期的にけしかけること。……奏は一度懐に入れた者への情が深い。君が関係することなら、奏はきっと尽力するために僕でもさすがに侵入が楽ではない元老院から出てくるだろう? ほら、この間みたいに。そのためなら手段は問わない。だから興が乗った時は使えそうなのに手を貸したり、君みたいなのがいれば逆に派手に立ち回らせたり」

「……やくそくって?」

「それは君は知らなくてもいいことだよ」



 質問をバサリと切られてしまった。



 たぶんこれは横にいるお兄さんも知らないことなんだろう。


 私と同じように眉間に皺を寄せている。



「わたしはあなたにつごうのいいえさ、っていうわけですか」

「餌だなんてそんな。君はいつも通りにしていてくれればいいんだから」



 なんて白々しいこと言う人なんですかね。


 結局それで奏様がげんろーいん?ってところから出てこなくちゃいけない事態になるなら同じことでしょう?



「わたし、かなでさまにはおねがいしない!」

「大丈夫だよ。君が望む望まない関わらず、奏は必ず君に手を貸す。言っただろう? 奏は一度懐に入れた者への情が深い。これは鬼の(さが)だからね」



 待って。ちょっと待って!


 鬼っ!?


 奏様って鬼だったの!?



 人じゃないってのは知ってたけど、あんな綺麗な人が……あ、でも夏生さん達もわりかし鬼もどきになるや。


 私の中の鬼のイメージは能の般若の面。


 それでいくと奏様よりも怒った時の夏生さん達の方がイメージにぴったりだけど、綺麗で強くて優しい鬼っていうのも全然アリだ。



「……君には本当に感謝しているよ」



 お兄さん……もう呼び捨てにしちゃおう。


 皇彼方はニコニコと嬉しそうに笑っている。



 悔しい。本当に悔しい。


 大人しくしていてもこの人がもたらす何かに巻き込まれ、進んで騒ぎの渦中に飛び込もうものならそれこそこの人の思うつぼ。


 ……これはなんてフラグですか。


 叩き折れる感が全くしないんですが。





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