天才とは何かと何かの紙一重ー1
いっちに、さんし。
みなさん、おはようございます。
ただいま私、屋敷のお庭で朝のラジオ体操中ですので、しばしお待ちを。
「……すぅーはぁー、すぅーはぁー」
……よし、今日も元気に神様修行と勉強とお子様生活いってみよー。
しっかり体操を終えて満足した私がクルリと振り返ると、欠伸をかみ殺している真っ最中の綾芽と目が合った。
美形は何しても美形にしか見えないって本当なんだなぁって思う。
タタタっと綾芽がいる縁側に駆け寄り、踏み石で靴を脱いで私も縁側へ上がった。
「髪の毛くしゃくしゃしてるやん。動かんといてな?」
体操したせいで若干乱れた髪の毛を、綾芽が優しく手すきで直してくれた。
二人でほのぼのとした時間を過ごしていると、キョロキョロと周囲を見わたしながら歩く薫くんが廊下の角から現れた。
「あぁ、いたいた。綾芽、ちび。朝食できたよ」
「きょうのごはんは?」
「さわらの西京焼きにほうれん草のお浸し、玉葱の卵とじ……って、ちび、よだれ」
「はっ! えへへぇ~」
いかんいかん。想像したら、よだれが勝手に。
これだから食い意地が張っていると言われるんだろうなぁ。
服の袖でごしごし拭って、呆れかえっている薫くんにニコッと笑っておこう。
手を洗って、気分はルンルン。
朝ご飯が待ってる食堂へと足取りは軽い軽い。今だったら空も飛べる気がする。
……飛べる、のかな?
「おはよーごじゃいましゅ」
「おはよー」
「おはようさん」
「おはようございます」
今日も今日とておかず戦争が勃発している危険地帯……もとい食堂の中へと私は足を踏み入れた。
たまに醤油瓶とかソース入れとかが飛んでくることもあるから、ホント危ないんだよねぇ。
「薫、頼むわ」
「オッケー。これと、これね」
カウンターの向こうにいる薫くんから、綾芽が二人分の朝ご飯が乗ったトレイを受け取った。
私は両方の手の平を上に掲げてスタンバイ。
のせてのせてー。
「いや、無理やろ? 君はこれな」
「お、おしぼり」
不満そうな顔をしてたら、もう一本追加された。
そういうことじゃないんだけどなー。
釈然としない気持ちのまま、私も綾芽の後をついて行く。
綾芽は私をひょいっと抱え、特等席に座らせてくれた。
幼児用椅子だから特等席なのも当たり前なんだけどさ。
「いっただきまーしゅ!」
まずはさわらの西京焼きを一口。
……はうぁあぁぁっ!!
口に含んだ瞬間、さわらに染み込んだ味噌とかみりんとかの味がぶわぁっと広がった。
けれど、決して調味料の味だけじゃなく、さわら自身の旨味をこれでもかと引き立たせる側に回っている。
おいしぃよぅ。
これはご飯がとまらんですなぁ。
「そんな慌てたように食べへんくても、誰も君から盗ったりせぇへんよ」
「ふぁって、ふぉいしーの」
「口に入れたまま喋ったらあかん」
「……あい」
ごくりとそれまで食べていたものを飲みこみ、素直に返事をした。
でも、私は覚えている。
私から誰も盗らないと言いつつ、この間のパフェ、綾芽が手伝いと称して結局大半を食べたことを。
決して忘れぬぞ!
玉葱の卵とじに箸をつけた時、どこからか視線を感じた。
でも、ここではかなり異端な存在である私に注目がくるのは日常茶飯事だ。
それよりも、今は目の前のご飯が大事!!
それからはあっという間に大半を平らげた。
皆お酒は飲みに行くけど、ご飯は帰ってきてから食べるわけだ。
だってこんなに美味しいんだから。
ふっと厨房の方を見ると、丁度薫くんもこちらを見ていた。
今日もかなり美味しかったです!
グッとサムズアップして視線に応えると、薫くんは肩を竦めて洗い物に戻って行った。
「おごちそーさまでしたー」
両方の掌を合わせ、ペコリと一礼。
ふぃー。
満腹、満腹。
綾芽が私を椅子から降ろし、トレイを持ってカウンターへと歩いていく。
私は両腕を上げながら、その後ろについていった。
か、片付けるんだから、軽いはずなのにっ!
なぜ持たせてくれんのか!
そのまましれっとカウンターにトレイを置き、私を見下ろしてきた。
むぅ。
「今日は何する日なん?」
「ん? えっとねー」
食堂の壁に掛けられている当番表。
壁に打ち付けられた各当番名の板の横にあるフックに、自分の名前が書かれた板が掛けられたらその人が本日のその当番になる仕組みだ。
その当番表によると……んん? 薬草園の草むしり、とな?
薬草園なんてここにあったっけ?
つい先日、綾芽がご飯の買い出し係だったので、私も自分の名前を紙に書いてその横に貼ってたら、綾芽が準備してくれて晴れて私用の板が完成したというわけだ。
といっても、やっぱり簡単なものしか割り振られない。
だけどまぁ、何もしないでグータラ過ごす日々よりかは断然マシなので黙々とお仕事しております。
働かざる者食うべからずってね!
「……」
「……あー、薬草園な」
私が黙った理由が漢字が読めないからだと思ったらしい綾芽が一文字ずつ指差しながら教えてくれる。
側で同じように今日の当番を確認していた男の人がチラッと綾芽に視線を向けられ、コクリと頷いてどこかへ消えていった。
うん、あの、ごめんなさい。
読めてます。読めてるんです。ごめんなさい。
「やくそうえん?」
「あぁ、君、まだあの人に会ったことないんやった?」
「あのひと?」
ダメだ。頭の上に?マークが飛び交っておる。
誰か説明をギブミー!
「さ、薬草園に行くなら準備せなあかんやろ。おいで」
「あ、あい」
そんなに大変なのか? 草むしり。
……が、頑張ります。