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ひよっこ神様異世界謳歌記  作者: 綾織 茅
怒るのも仕事のうち
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怒るのも仕事のうち―5

 



 ただいま、劉さんに抱っこされたまま、こっそりと門の近くの植木の後ろに隠れております。



 もうそろそろ……


 あ、来た!!



「あー……なんや、そう気ぃ落とさんで」

「嫌われた。嫌われてしまった」

「聞こえてねぇぞ、こいつ」

「おい、綾芽。お前が拾ってきたチビが拾ってきた保護者だぞ。お前がなんとかしやがれ」

「えー。それ、僕、あんまり関係ないですやんか」



 見送りに出てきた綾芽と夏生さん、海斗さんがそれぞれを小突きあっている。


 それを全く気にした様子もなく、絶賛落ち込み中のあの人。


 相変わらず落ち込んでいると分かるのは、言葉だけだけど。



「あー……まぁ、神さんなんやし、お仕事忙しかったんですやろ。これから交流していけばえぇと違います?」

「ん?」

「あ?」



 頭に疑問符が浮かんでいる夏生さんと海斗さん。


 それに対して綾芽も首を傾げた。



 あ、綾芽さんや。


 あなた、もしかして、まだ、あの初日の……。


 ここに初めて来た時の誤解。


 まだそういえば解いてなかった。



 私の独り言からの、神様の子ども疑惑!!



 やーめーてー!


 出て行って否定したいけど、今は無理だ!



「なんだ。我が妻は何も教えていないと思っていたが、我が神だということだけは教えていたのだな」

「えぇ。ちゃあんと自分の親は神さんやって言ってましたよ? なぁ、海斗」

「あ、お、おぅ」



 海斗さんは戸惑いつつも綾芽の言葉に頷いた。


 きっと今、私達の気持ちは一つになれたと思う。



 そんな馬鹿なっ!!



 向こうの世界で暮らす母よ。


 あなた、一切大事な話を私にしてませんね!?



 例のアノ人は帰り際にとんでもない置き土産を残して帰って行った。





 あーうー。……視線が痛い。


 アノ人が帰ったあと、私は再びお座敷に連行された。



「お前、本当に神の子供だったんだな」

「自分、最初からそう言ってましたやん。信じてもらえてなかったんです?」

「お前はこいつの父親と似て、訳分からねぇ行動なり言動なりしやがるからな。信憑性は半減だ」

「酷いわぁ。そう思わん?」

「えーっと、アハハ」



 そこで私に聞かないで欲しい。


 笑うしかないじゃないか。


 決して否定しないというところで察してくれ。



「でもよ、本当に父親と暮らさなくていいのか?」

「あい。わたし、ここでみんなのおやくにたってみせましゅ」

「役にってなぁ」

「いいじゃないですか。こんなに可愛らしゅう頑張る言うてるんですから」

「だからうちは託児所じゃねぇって」



 夏生さんがハァっと溜息をついた。



 じゃあ、何か実際に役に立つところを見せられればいいんだ?



 ……そういえば、あの人と会った時、私、宙に浮いたんだっけ?


 あの人の言動が突飛すぎて、そのことが頭からすっかり抜けてたよ。



 私にも、何かできるのかな?



 ……あっ! そうだ!



 縁側から庭に出て、目指すは薫くんの家庭菜園。


 みんなも私がなにをしだすのかと縁側まで出てきた。



「んーっ、ばっ!! ……ぎゃっ!!」



 巨大なふわふわ生物が出てくる某アニメの少女の真似をしてみました。


 私としては、理想は菜園に実っている野菜が通常のやつよりも大きくなること。



 だけど、理想と現実はいつも同じとは限らないとは上手くいったもので。



「……ちょっと、どうなってるの?」



 夕食分の野菜を取りに来た薫くんが、超巨大化して最早お化け野菜に成り果てたそれらを見て、ピクリと眉を動かすのはそれからすぐのことだった。





 夏生さんに首根っこ掴まれて、本日三度目のお座敷へ。


 先程までとは違い、ピリッとした緊張感が漂っている。



「おい」

「あい」

「さっきみてぇなことしたの、今回が初めてか?」

「はじめて」

「そうか。ならいい。……いいか? 世の中には他人の力を利用としようしやがるヤツがごまんといる。そんな輩からしてみれば、お前は喉から手が出るほど欲しい存在なんだぞ」



 隣に座ってくれている劉さんの方を見ると、コクリと頷かれた。



 今日の声かけ事案は偶々《たまたま》あの人だっただけで。


 私が持ってた力を知らなかっただけで。



 これからこの力を他所に知られるようになれば、事件に巻き込まれることもありえないことではない。


 そういうことを夏生さんは危惧しているんだろう。


 夏生さんが思う役に立つと、私が想像した役に立つはベクトルが違ったんだ。



 それでも、それでもね。



「あのね、わたしね」



 正座した膝の上の拳をギュッと握った。



「あのとき、あやめにたすけてもらったの、すごくすごーくうれしかった。もうしんじゃうっておもったのに、しななかったの」



 夏生さんも綾芽も、海斗さんも劉も黙って私の言うことに耳を傾けてくれている。


 だから私も、夏生さんの目をしっかりと見た。



「だからね、こんなだけど、みーんなのやくにたてるなにかがあってうれしーの。だからね、そのね」



 なんて言っていいか分からずに言いよどんでいると、綾芽がチョイチョイと手招きしてきた。


 なぁに? 今、大事なところなのに。



 劉さんが私の脇下から抱え上げ、綾芽の方へポンと軽く放った。


 なんなく綾芽の腕の中へダイブした私。



 し、心臓がバクバク言ってる。



「なにを心配してるかと思えば、力があるから追い出されるんないかとか考えてるのと違う? それか、今よりも力をつけるなとか言われるんやないかとか?」



 ……むぅ。それもある。


 ここを追い出されたら私に行く当ては……ない。


 当然ながら、あの人の元というのは選択肢から端から除外だ。



「そんなことするわけないやん。むしろ、逆や」

「ぎゃく?」

「そう、逆。そんな輩がいるから僕達が守ったる。やから安心して神様修行したらえぇ」



  神様修行……ここで、みんなと一緒にいながら。



「……あい。がんばりましゅ」



 あれ? なんか、安心したら涙が。


 涙がボロッボロと出てくるなんて、今日は涙腺が緩みきっているみたい。



「……ったく、ガキのくせに、他人の思考深読みしてんじゃねーよ」

「夏生さん、頑張る子ぉは嫌いやあらへんもんね?」

「うるせぇ」



 言葉はぶっきらぼうでも、怖くても。


 怒らせたらいけない人でも。


 本当は優しいって知ってる。



 ここの人達はみんな優しくて、温かい人達ばっかりだ。



 お母さん、私、ここで精一杯頑張ります。




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