十八話 VS筋翼人
四方から飛来する筋翼人達が高台や岩場などに次々と降り立ってくる。
それらの大半が着地し終わる頃、先ほどブレイバス達と対話をし鐘を鳴らした筋翼人がまたも大声で叫んだ。
「我が名はバド! 翼人王親衛隊隊長にしてこの南門を預かる者!! 人間共よ! 降伏するならこれが最後のチャンスだ!! 武器を捨て誠意を示せッ!!」
その一言を合図により鋭い視線を投げかけてくる筋翼人達。
それによりわずかではあるがざわつき怯むユニバール軍。
「親衛隊なのに門番なんかやってんのかよ」
「人間と筋翼人でこういう所の常識も違うのかもねっ」
「いや『親衛隊』ってようは直属護衛隊のことだから常識も何も……」
「二人共ォ! そんな事考えてる場合じゃないッスよ!?」
ざわめく隊の中で唯一冷静に、いや、気楽な態度で会話をしているブレイバスとリールにシュンツは焦りながら呼びかける。
その横をジークアッドがゆっくりと歩きながら、剣を抜き上空のバドを見上げ、叫んだ。
「対話を望む我らに対し、武力を行使せんとするその態度ッ! 我らユニバールへの侮辱とみなす!! ユニバール王国【四天将軍】次席、【忠真騎士】ジークアッド・フリージアル! 私の権限の元、お前達のその宣戦布告、剣を持ってして答えようッ!!」
ジークアッドの一言に、ユニバール軍もまた筋翼人を正式に敵とみなし武器を構えだす。
「おいおい、穏やかじゃねーな、いいのかコレ」
「いやー不味いでしょー、戦争しに来たわけじゃあるまいし」
「二人共ッ! 引き金引いたの多分お二人ッスよ?!?」
シュンツの決死の訴えも虚しく筋翼人達の内、弓矢や石弓を持っている者達はその武器を構えだした。槍や斧など接近戦用武器を持っている者はそのまま武器を構えて待機している。
その筋翼人達が、飛び道具を放つより早くジークアッドが長剣を空に向け掲げ叫んだ。
「【王道聖剣】ッ!!」
呪文と共にジークアッドの持つ剣が眩い光を放った。
それにより多少飛び道具の命中精度を下げる効果もあったかもしれない。しかし、次の瞬間には『標的を狙い打つ』というより『弾幕を張る』といった勢いで石や矢が部隊に降り注いだ。
しかしジークアッド隊も無力な獲物ではなく強固な兜や鎧を身にまとっている。
部隊は更に一斉に盾を上空に掲げ、個々ではなく一体となって凶弾の雨を防いだ。
「ふんッ!!」
「うおッ!?」
「ひやぁあああッ!!」
「よっ」
盾を構えていないのは四人。
ジークアッドはある程度の飛び道具は鎧で受け、致命傷になりそうな軌道のものは光り輝く剣で撃ち落とす。
ブレイバスもまた大剣を前に突き出し顔を隠す事で大雑把な盾として使うことでそれらを防いだ。
シュンツは絶叫しながら身体を異常な動きでくねらせる事で、なんと自身に迫る矢をすべて回避する事に成功する。
一方リールはその小柄な身体をいち早く盾を構えるユニバール隊の中にねじ込む事で、当たらない位置に移動した。
ユニバール側へ飛び道具の効果が薄いと認識するや否や、残りの筋翼人達が接近戦のため飛来してくる。
「あぁクソあぶねえな! 【破壊魔剣】!!」
凶器の雨を間一髪しのいだブレイバスは、今度は叫ぶ事で自身の魔法を展開した。今しがた盾代わりに使った大剣が一瞬で黒い氣に覆われる。
それと同時にブレイバスは前方に駆けた。
「まずは地形の有利、崩させてもらうぜッ! 【破壊滅斬】ッ!!」
駆けた先にあるのは筋翼人達が住む街へ続くと思われる巨大な門。
10メートルはありそうなその門に、ブレイバスは躊躇うことなく渾身のジャンプ斬りを放った。
破壊の力を纏ったその大剣の一撃は、何トンもありそうな鉄の門に轟音と共に大穴を開ける。
更にはその一撃で門の上の高台の留め具をも破壊し、周囲の岩壁にも振動を与える程のエネルギーを発揮した!
「なにィ!?」
高台の上のバドは崩れる足場に驚愕しながらも翼をはためかせそこから逃れる。
門と隣接する岩壁の上の飛び道具を構えている筋翼人達もその振動に怯み、体制が崩れた。
「上にいりゃあ平気だとでも思ったか? ンなとこからコソコソ弓矢ばっか撃ってくるだけならこのまま全部ぶっ壊させてもらうぜッ!」
その言葉に上空の筋翼人達は皆苦虫を磨り潰したような顔をしながら地上や別の高台に次々と飛び移る。
その半数が壊れた門の内側と外側にそれぞれ降り立ち、ブレイバスを挟み撃ちにするように飛び道具を構えた。
門には大穴は空けたものの、その全てを崩壊させたわけではない。
ブレイバスは門の内側からの攻撃は当たらないよう残った門の陰に隠れ、門の外側を向き直り大剣を地面に突き刺した。
そして、残りの筋翼人が飛び道具を放つのとほぼ同時に叫ぶ。
「【破壊散弾】!!」
突き刺した破壊の魔法剣を勢いをつけて前面に抜き去ることで、その地面を大きく掘り起こしそれが筋翼人達の方向へ散弾のように、いや土砂の津波となって襲い掛かる!
「な!?」
「うおおッ!?」
「そんな!?」
筋翼人が放った矢や石弾など大きな波紋が小さな波紋を飲み込むようにかき消され、ブレイバスからの飛び道具を全く予想していなかった筋翼人達を飲み込んだ!
◇
一方、ジークアッド達のほうには槍や槌などを構えた筋翼人達が、接近戦をユニバール部隊に仕掛けていた。
その内の二人がジークアッドのほうへ飛翔の勢いをつけたまま接近する。
「はぁッ!!」
ジークアッドは高速で迫るソレらの内、左側の一人に自分から迫り、魔法により光が放っている長剣をすれ違いざまに振るい斬り伏せる。
その自分から踏み込み迎撃する行動により、もう一人へ意表もつく事に成功する。
が、それでも相手も歴戦の筋翼人の兵士、すぐさま体制を立て直し再びジークアッドに迫る。
ジークアッドもまたソレの迎撃体制に入った時、後方から叫び声が聞こえた。
「【愛の弾丸】ォッ!」
叫びと共に光の玉が二発ジークアッドのほうへ高速で飛来する!
ジークアッドはそれに対応しようと動きを止めたが、すぐにその光の玉の軌道は自分に当たらないものだと理解した。
──光の玉の一発はジークアッドが対面している筋翼人にぶち当たり、相手は地面を激しく転がる。
もう一発は、先ほどジークアッドが倒した既に地に伏せている筋翼人に命中! まだ息のあるその相手にトドメを刺さんばかりに激突した。
「む……?」
ジークアッドはすぐに異変に気が付いた。
今の光の玉は自分の部隊のほうから飛来した。そちらに目を向けると数時間前から行動を共にしている緑髪の少女、リールがこちらを見ている様子が目に入る。つまり彼女からの援護射撃だろうという事は予想できる。
だが、その光の玉を喰らった筋翼人の全身が瞬く間に更なる光に包まれ、その光が収まったかと思うと、撃ち落とした筋翼人は勿論、先ほど斬り伏せた筋翼人までもが起き上がり出したのだ。
リールはその様子を見て満足そうにガッツポーズをすると、右手を広げ手のひらを地面にかざす。
そしてその指先一つ一つから、光の雫を合計五つ生み出した。