九話 騎士団入りの条件は
翌朝、ヴィルハルトに指定された場所である兵士の訓練場に三人は向かった。訓練場といっても要するに室外の、広場のような何もない場所だった。
「なんだお前らはッ!!」
そこに着いて浴びせられた第一声がコレである。屈強な兵士達にあっという間に囲まれた三人。
クレイは昨日の疑惑を訂正した。『ヴィルハルトに会うたびに振り回される』のではない。『ヴィルハルトに関わる度に振り回される』のである。
「ああッ!? トンだご挨拶だな! ここに来れば騎士団に加えてもらえるって聞いて来たんだぜ!?」
威圧してくる兵士たちを相手に縮こまるどころか威圧し返すブレイバス。
「お前たちのような者が来るなど、そのような話は聞いておらん! どこの誰だお前たちは!」
取り囲んでいる兵士の先頭の男が言ってくる。本当に何も聞かされていないようだ。
「おいおいマジかよ! 騎士様方は嘘つきだってか? それとも連絡系統もしっかりしてねぇのか!?」
「やめろ! ブレイバス!」
一歩も引かないどころか相手を煽るように暴言を吐くブレイバス。クレイは見かねて反射的にそれを静止した。
「すみませんでした! 突然の訪問に加え今の無礼、どうかお許しください!」
クレイはブレイバスに代わって頭を下げる。今にも斬り合いを始めそうだった雰囲気がほんの少しだけ和らぐ。
しかし、依然兵士たちの目線は鋭いものだった。
「あのっ! 私たち……あ、いや私以外の二人は先日の魔道士枠試験受けた者ですっ。ヴィルハルト将軍に言われてここに来たんですけど……聞いてないです……か?」
リールが弁解するようにそう言った。しかしクレイはその返答も今言っても有利には働かないと考えた。
(おそらく、ヴィルハルト将軍は愉快犯……! 自分の地位を悪用し、こうなる事を事前に予想して、きっとどこか物陰からこの様子を見て楽しんでいる……!)
しかしクレイの予想を裏切り、リールのその言葉により威圧的な態度を見せていた兵士たちの顔が明らかに引きつっていった。
先程までの強気な態度が嘘だったかのように顔色が悪くなる。中には頭を軽く抱えている者もいた。
「……そうか、またあの方の戯れか……」
「あー、嬢ちゃん、疑ってすまなかったな」
「……それならそうと先に言ってくれよ、全く……」
どうも兵士たちも日ごろから振り回されているようである。この代わり様には怒り心頭のブレイバスも毒気を抜かれてしまったようだ。バツの悪そうな顔をしている。
「君たちの話はわかった。だが、隊長から直接は聞いていない。それが本当か確認する必要があるからな、少し待っていてくれないか」
最初に怒鳴りつけてきた兵士がそう言った。断る理由もなく首を縦に振る三人。
そうした所でまた一人の男がこちらに近づいてきた。
「……何の騒ぎだ?」
すると話していた兵士が急に姿勢を正し、その男のほうへ向いた。
「リガーヴ将軍! お疲れ様です!」
クレイはリガーヴと呼ばれたその男のほうへ目をやった。
ヴィルハルトとは対照的で、全体的に黒い。漆黒の髪は適当な長さで適当に整えられつつも全体的に上を向いており、まだ若い顔立ちだがその眼光は鋭い。手に持つ槍は柄が真っ黒であり、銀色に光る先端の刃が闇夜に浮かぶ松明のように輝いている。着る鎧は深緑ではあるが、髪や槍の色に加え男自体の暗い雰囲気が何故か鎧までも黒く見せていた。そしてその鎧の左胸には王冠をかぶった竜の紋章が型どられている。
リガーヴが兵士を睨み付ける。すると兵士は顔をこわばらせすぐに続けた。
「ハッ! ヴィルハルト将軍に招待されたという者たちが、ここを訪ねてきました! そのような話を伝えられていない私どもは、情報の真偽を確認するためにこの者たちに問いただしていた所です!」
「……」
リガーヴは返事をせずにこちらを向き、三人を頭から足先まで一通り見ると口を開いた。
「……俺が兄者から話は聞いている。『コイツらの力を見て、戦力に足るなら今回の進軍に同行させろ』だそうだ」
「力を見て……?」
クレイは反射的に聞き返す。
ここには訓練のためのカカシ等は存在しない。当然、敵対勢力というものもいない。と言う事は────
「……俺が取り仕切る。オーラン! カイル!」
「はっ!」
「ここに!」
リガーヴがそう言うと先ほど主体になって話をしていた兵士と、その後ろの大柄な兵士が返事をした。
「……貴様ら、この二人から一本取ってみせろ。それが条件だ」
────自然と決闘で実力を測る、と言う意味になる。