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五話 事前準備

 レアフレアの依頼を受けた翌日、リールはレアフレアの依頼の事を酒場の雇い主であるマスターに話す。

 他種族とは言え人命に関わる事を重く見たマスターは、既に数日先までウェイトレスの仕事の予定が入っていたリールの予定を全てキャンセルし、翌日からリールが出発出来るように手配してくれた。


 その日の内にクレイとブレイバスは酒場の傭兵仲間や冒険者等から筋翼人(バーディアン)に関する情報を集める。とは言ったものの鎖国的な筋翼人(バーディアン)について深く知ってるものは少なく、集めた情報はクレイ達も知る一般的な物が殆どであった。


「…っか~! 情報集めったって大したことはできねえな! 結局のところ『翼の生えた人』『野蛮な種族』『実際には見た事ない』ばっかじゃねーか」


「予想はしていたけど仕方がないね、夜狼人(ウェアウルフ)の住む森同様筋翼人(バーディアン)が住む鉱山なんて、特に目的が無ければ誰もいかないだろうし……目撃情報も少しはあったけど、どれも会話は殆どしていないね。『空飛んでいるのを偶々見かけた』『傭兵の依頼中相手取った事がある』位か……」


 酒場の椅子に腰を掛けすっかり暮れてしまった夜空を窓際の席から眺めながら、クレイとブレイバスは一日の収穫をため息交じりに話し合っていた。


「まーしょうがねえわな、こりゃ極端な面倒事が無い事を祈って現地解決してくしかねーか」


「そうだね、後はレアフレアさんから直接色々聞いてみよう……昨日の夜もう少し聞いておけばよかったね……って、あれは……」


 そこでクレイは頭の先まで黒いコードで覆われた人影が、酒場の入り口から入ってくるのを発見する。

 フードからは少しだけ金色の髪の毛が飛び出しており、昨日見たばかりの体格と一致した事から、クレイはその相手に向かって手を振り名を呼んだ。


「レアフレアさん! こっちこっち!」


 黒ずくめはその声に気付くとすぐに早足でこっちに向かってき、空いた席に座るとフードを取った。

 そこから顔を出したのは予想通り昨日見たばかりの綺麗な金髪と褐色肌、昨日よりも明らかに生気に満ちたクリクリとした可愛らしい瞳が目に入る。


「クレイさん! ブレイバスさん! すみません、私ったら昨日は落ち合う場所も決めずに帰っちゃって!」


「お気になさらずに、どうせココか僕らの宿に顔を出すと思っていましたから」


「おう! それでリールの奴明日から酒場休み貰えるそうだ、俺達も準備できてるし明日から向かえるぜ」


 ブレイバスのその言葉に、若干慌てていたレアフレアの顔つきが一気に明るくなる。


「本当ですか! 急に無理言ったのにありがとうございますです!」


「それで、え~っとレアフレア……さん、っつったか、俺らは筋翼人(バーディアン)の事はあまり知らねぇんだ、色々教えて貰ってもいいか?」


「え? えぇ勿論いいですけども、え~っと……」


 率直に本題に入ろうとするブレイバスに、レアフレアは冷や汗を垂らしクレイのほうへおどおどと目配せする。

 レアフレアにとって多くの人間に正体がバレてしまうことは好ましくない。そのため人が多く集まるこの酒場であまり話をしたくないのは本音である。

 その真意に気付いたクレイはすかさずフォローを入れた。


「この場ですぐにというのもなんですから、明日現地に向かいながら話しましょうか。この紙に集合場所と時間も書いておいたので、そこで落ち合いましょう」


「え、えぇ! 色々決めて頂きありがとうございますです!」


 クレイとレアフレアのやり取りを見て、自分の失態に気がついたブレイバスはバツの悪そうな顔をして黙り混む。

 その場はテキトーな雑談だけで済ませ、三人はその場を後にした。


◇◇◇◇◇


 翌朝、レアフレアに伝えた集合場所に向かうクレイ、ブレイバス、リールの三人。

 ある程度歩いた所で、二日前のレアフレアと同じように突然物陰から三人を遮るように一人の人間が飛び出してきた。


「待つッス! リールさん、酒場空けるってどういう事ッスか?!」


 クレイは現れたその男の全身をざっと見やった。

 レアフレアよりは薄いが髪の毛金色がかかっており、短いながらもどこかボサボサで大した手入れをしていない事がわかる。動きやすそうな布地の服に腰にはクレイの物よりやや細身な長剣を携えていた。


「クレイ、コイツは確か……」


 ブレイバスがクレイに問いかける。そう、この男にはクレイもブレイバスもよく見た事があった。


「あぁ、よく酒場に客として来ていてリールによく話し掛けてた人だね」


「ええそうッスよ! オレの名前はシュンツ・オードウィン! リールさんには何度も名乗ったッスよね!? なんか危険な山に行くって聞いたッスよ!? どーいう事ッスか?!?」


 聞いてもいないのに自己紹介をしやかましく響く声で叫ぶその男に、ブレイバスはやや顔をしかめる。

 その隣でリールは呆気にとられた顔をしながら答えた。


「あ、え~っと、おはようございますシュンツさん、昨日の話聞いてたんですか?」


「ええ! 酒場でリールさんの事なら何でも聞いてるッス!」


 その言葉にブレイバスに続きクレイもやや顔をしかめ、話に割って入った。


「それなら聞いての通りさ、リールの元に依頼が入ったから酒場は休みを貰って鉱山に向かう。わかりやすいと思うけど、何が疑問なんだい?」


「あの鉱山は筋翼人(バーディアン)の国じゃあないッスか! オレ、冒険者ッスから奴らと戦った事もあるッスけどメチャクチャ野蛮人ッスよ!? そんな所にいくなんて無謀ッス! 無謀!」


「だから僕らがその護衛さ」


 シュンツの言い分にストレートに返すクレイ。

 その言葉にシュンツは一歩前に出てクレイを睨み付けるように迫る。

 そしてタンカを切ってくるかとクレイが予想した所で、シュンツは頭を下げ目の前で勢いよく手を合わせた。


「それならオレも連れていって欲しいッス! こう見えても腕は立つし、筋翼人(バーディアン)相手なら遅れを取らないッスよ!」


 今まで大した会話はしていなかった相手ではあるが、それでも知らない相手ではない。

 そう言ってくる可能性も予測していたクレイは、やや挑発口調で聞き返した。


「……嫌だと言ったら?」


 そこでシュンツは顔をあげ、再びクレイを睨み付けるように真っ直ぐみた。


「クレイさん、って名前だったッスよね? オレの力、筋翼人(バーディアン)相手に足りるかどうか、アンタに試して欲しいッス」

 ここ数話分のレアフレアの口調を少し修正しました。

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