四話 依頼への返事
「リール、どうする? 僕は引き受けてもいいと思うよ? 君が酒場の仕事の折り合いをつけてくれるから僕らが護衛しよう」
「うーん、私もいいはいいんだけど……」
クレイの肯定的な考えにリールは曖昧な返事をしながら目配せをする。
『キズナ☆オレ』は別としても、リールの【愛の癒し手】はあくまで『傷を癒す魔法』であり『病を治す魔法』ではない。
つまりレアフレアの依頼を引き受け現地に向かっても依頼を達成する事は出来ない。
それはリールは勿論クレイにも当然わかっている事である。
「ブレイバス、君もそれでいいかい?」
「……あぁ、構わねーよ」
同じようにブレイバスにも確認をとるクレイ。
ブレイバスもクレイの真意が読みきれず、多少躊躇いながらも返事をする。
しかし直感的な行動を主とするブレイバスとリールは、基本的に物事の取り決めに関しては思慮深いタイプであるクレイに従う。
自分達では思いもよらない考えがクレイにはあり、それにより事態が好転することが多いからだ。
「あ、ありがとうございますです!」
3人の肯定を得てレアフレアの顔を一気に明るくなり深く頭を下げた。
そこからは話は早かった。
リールが仕事の休暇を取るために明日酒場マスターと話をすること。話をしてみるまで正確な事はわからないが、恐らく2-3日後程から鉱山へ向かえるだろうということ。
それらを告げると「ではまたこちらから連絡しにきますね!」とレアフレアは笑顔で窓から飛び立つ。
今までは正体を隠すために翼を隠していたのにそれも忘れてしまうほど嬉しかったのだろうか、深くは気にせずクレイ達は闇夜に融けていく白い翼を見送った。
「わ~、本当に空を飛べるんだ~! いいな~! でも寒くないのかな?」
消えてゆくレアフレアを眺め、楽観的に素直な感想と疑問をを口にするリール。その隣では対照的に神妙な顔をしたブレイバスが腕を組みながらクレイに質問を投げかけた。
「……で、どうするつもりだクレイ」
ブレイバスの言っているのは勿論レアフレアの依頼の事である。その質問にクレイも口を開く。
「あぁ、リールの魔法じゃあ病は治せない。……でもそれは『通常の場合』さ、レアフレアさんの話を聞いただろう? 彼女は実際に『キズナ☆オレ』で風邪と骨折を完治させている。野性的な種族の筋翼人は思い込みの効果が人よりも遥かに高いのも知れない」
クレイの言葉に今度はリールがやや心配そうに割って入る。
「でも……あくまで『かも』でしょ? 私、病気を癒せる自信はあんまりないよ?」
窓を閉めながら言ってくるリールのほうに笑かけながらクレイは再び口を開いた。
「そうだね、でも治らなくても彼女に恩を売ることは出来るんじゃないかな? レアフレアさん自体はきっと貧しい家庭の一人娘か何かだと思うけど、筋翼人と言う種族自体と友好を持てるのなら悪くはない。夜狼人のミザー達もそうだったけど、【亜人】の人達は仁義を重く受け取る傾向にある、結果よりも過程が響くかも知れない」
「確かに今は俺らの生活にも余裕はあるしやってもいいけどよ……」
クレイの言葉にブレイバスはガシガシと頭を掻き、半眼でクレイをみやる。
「お前……たまに少し黒いよな」
ブレイバスの言葉にクレイはやや遠くを見るように視線を上げた。
「別に悪いことをしているわけじゃないだろう? それに、僕らは裏切られ過ぎた、それに対する力をつけなくちゃいけない」
クレイのその一言に今度はブレイバスとリールの顔つきが先ほどとは別の意味で神妙な物に変わる。
クレイ達は過去に、自分達が所属する部隊に紛れていた悪魔の正体を見抜けず全滅しかけた事がある。
更に、今現在故郷を捨て亡命せざるを得ない事になったのも国そのものからの裏切りからくるものだった。
「鉱山を旅することも、今回の立ち回りも全ては経験だ。筋翼人との交流を持つことが出来ればそれは実績だ。……今、僕らの孤児院の皆がどうなっているのかわからない、きっとゼイゲアス先生が悪くならないようにしてくれているとは思うけど、いつまでも遊んでるわけにもいかないだろう?」
そう、亡命したのちクレイ達が考えていた事は、故郷であるラムフェスに、いや拾われ育てられた孤児院に帰ることであった。
「あぁ……そう、だな」
「うんっ、ゴメンねクレイ、私ちょっと後ろ向きだったかも知れない、3人でがんばろっ!」
先程とは別の意味で頭をガシガシ掻くブレイバスに無理矢理元気を出して見せるリール。
そんな二人を見てクレイはフッと笑うと前のめりになり更に口を開いた。
「じゃあ起こりうる事を今の内になるべく想定しておこうか! 筋翼人の事を僕らは知らなさすぎる、さっきはああ言ったけど、治せない事のぬか喜びで逆恨みをかうことだってあるかも知れない! 明日、リールは予定通り仕事の話を酒場のマスターにして、僕とブレイバスは少しでも筋翼人の事を調べよう!」




