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二話 キズナ☆オレ

 奪われた金品を依頼主に、縛り上げた盗賊を自衛官にそれぞれ引き渡したクレイとブレイバスは冒険者や傭兵仲間が集う酒場に足を運んでいた。

 ちなみに二人に酒を呑む習慣はなく、酒場では飲酒よりも食事や集う人々との会話をメインに楽しんでいる。

 いつものように適当な椅子に腰を掛けると、忙しなく働きまわっている緑髪の小柄なウェイトレスに目を向けた。

 そのウェイトレスは、冒険者と思われる男達が数人座るのテーブルに受けたオーダーを置いている所だった。


 二人に酒を呑む習慣はないとは言ったがそもそもこの酒場では酒の売り上げはあまり良くはない。しかしそれは酒の質が悪いのではなく、とあるドリンクメニューがオーダーの大半を占めているのだ。その商品が──


「はいおまたせっ! 仕事疲れにコレ一杯! 元気が出れば皆笑顔に! 心も身体も癒されちゃう! 貴方と人とを紡ぐ素敵なドリンク『キズナ☆オレ』三つお持ちしました~っ!」


「リールさんありがとッス! 今日もとっても可愛いッスね!」

「おおコレコレ! 俺、リールちゃん特製の『キズナ☆オレ』のおかげで最近身体の調子もいいんだぜ!」

「お前はコレにハマってから酒呑まなくなったもんな! そりゃ体調も良くなるぜ!」


 この『キズナ☆オレ』である。濃厚な香りを放つ豆を磨り潰し液体にしたモノにミルクや甘味を入れ、最後にとある『隠し味』を施したこの商品、実に酒場ドリンク売り上げの7割を占めていた。


 和気あいあいと客と話すそのウェイトレス、クレイとブレイバスの幼馴染であるリールの動きを観察しながら二人は呟く。


「リールの奴、すっかりこの酒場の看板娘になってるみてーだな、スタイル足りてねーけど」


「しっ、聞こえるぞブレイバス。元々器量は良くてあの元気だ、なるべくしてなったんだろう。リールがここで日々安定した小銭を稼いでくれてるおかげで僕ら安心して自分達の事できてるしね」


「そんで、俺らが時たま入った大きな仕事でガッポリ稼ぐ! ここに来て一年ほど立つが、大分いい感じになってきたんじゃねーか?」


 そんな会話をしている所で群がる男達から解放されたリールがこちらに気付き、ルンルンな笑顔で近づいてきた。


「へいっ! お待たせしました~っ! ご注文はお決まりですかお二人さんっ!」


「おお、俺達にも『キズナ☆オレ』くれ、二つな」


「お腹も空いたし日替わりの定食も貰おうかな、今日はちょっとまとまったお金が入ったから、特盛りで」


「はいよっ! 承りましたっ! しばしお待ちを~!」


 見慣れたどころか見飽きたであろう顔に、なぜかビシッと敬礼のポーズを決め笑顔で注文を受けるリール。

 そこで踵を返そうとした所、別のウェイトレスが二つのコップを持って来、クレイ達の前にそれぞれ置いた。


「お二人ならきっと注文されると思いました! リール先輩、マスターからですが今回は厨房ではなくここで『アレ』お願いします、との事です!」


 ウェイトレスのその言葉に酒場の緯線を一斉にリールの方へ向き、「おおっ!」と言う声が上がる。

 その様子にリールは少しはにかんだ笑顔をし軽く頭を掻くと、置かれたドリンクの一つに両手を添えた。


「それじゃ~いきま~す! 【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】!」


 呪文と共にリールの手が淡く光ったかと思うとその光はそのままコップを包み込んだ。その様子に更に周りのギャラリーは盛り上がる。


「おおー! 今日はアッチか! おれも目の前でやってもらいたかったぜ!」

「綺麗……」

「流石リールさんッス! すげーッス!」


 少しすると手の光は収まり、ソレと同時にリールは再び口を開いた。


「はいっ! 愛と癒しがたっぷり詰まったスペシャルドリンク『キズナ☆オレ』完成で~す!」


 その言葉に更に盛り上がる周囲。

 そう、『キズナ☆オレ』の隠し味とはリールの回復魔法【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】を飲み物にかける事である。

 元々傷を治す効果の【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】であったが、珍しい光を放つそれを客の目の前でドリンクにかけるというパフォーマンスが非常にウケ、リールが働き出してからあっという間に看板メニューまで上り詰めた商品なのである。

 ちなみにそれで『ドリンクの味やにおいが変わる』『ケガや病気が治る』と言った効果はない──はずであったが呑む人間への心理効果なのかリールの魔法の成長なのか最近では「実際に明らかに美味しい」「体調が良くなった」という声が次々と出てきている。

 噂が噂を呼び、酒場を訪れる者は多くはこの『キズナ☆オレ』の効果を実感しようと注文をしていたのだ。


 しかし【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】自体リール以外には出来ない事であり、かつ体力と集中力を消耗する。看板娘でもあるリールに全オーダーそれをさせては体力が持たないからと、一日数回だけ客の前でパフォーマンスしてみせ、他のドリンクは『厨房でかけている』という振れ込みの元、実際多くのオーダーはそのまま出しているのは内部事情を知る者達だけの内緒である。


「あ、そうだ二人とも、何かよさげな仕事あるみたいだよ? ほらコレ」


 リールはそう言って一つのチラシを二人の前に差し出した。

 クレイとブレイバスはつられるままにその紙に目をやる。


「あぁん? 何々、『ユニバール王国の戦力増強のため、筋翼人(バーディアン)を我が国の戦力に加えるべく鉱山へ赴く! 勇気ある者我ら騎士団の元に来たれ!』、か」


 ブレイバスが見出しの一文を読み上げると、それに続くように今度はクレイがその詳細に目を通し口を開いた。


「要はこの国が筋翼人(バーディアン)を説得したいからその護衛や戦力水増しに傭兵も駆り出そうって企画か」


 ────筋翼人(バーディアン)

 ユニバール王国辺境の鉱山に住む【亜人】。

 人に良く似た姿をしており、名の通りその背中には大きな翼を持ち空を飛ぶ。

 一人一人が人間以上の運動能力を持つが個体数の関係から総合力では劣り、過去に人間に迫害されてきた歴史を持つ。数十年前に温厚なユニバール王と和解し、鉱山を境に国境を取決めそこを種族の国としている。


「あー、【亜人】を言いくるめて国に引き込もうってか。ラムフェスもユニバールも考える事は一緒だな。嫌な思い出しかねえけど報酬は高いな……クレイ、やってみるか?」


 元々クレイ達三人は、北の軍事国家『ラムフェス』にて暮らしていた。それが一年前、【亜人】が絡んだある出来事がきっかけで南の王国『ユニバール』にまで亡命し、そして傭兵稼業や酒場のアルバイトを行い生計を立てていたのだ。


「いや、最近は他の仕事も十分あるしそこまで危険を冒さなくてもいいでしょ」


 そのためクレイも乗り気ではない。頬杖をつきながら受け取ったチラシを眺め更に口を開く。


筋翼人バーディアンと言えば非常に気性の荒い種族で有名だ、一触即発になった事を考えると危険もありそうだね。もしそうなったらまず前線で戦うのは僕ら傭兵で、偉い騎士団の皆さんは最悪傭兵を囮に撤退、なんてことも予想できるしね」


「そんじゃあ却下だな、わりぃなリール、せっかくチラシとって置いて貰ったのに」


「ううん、気にしないでっ! いちおー伝えといたほうがいいかなって思っただけだからっ! じゃあごゆっくりっ!」


 リールはそう言うと今度こそ踵を返し厨房の奥へ足を運んでいった。

 その後ろ姿を見送りクレイは呟く。


「じゃあ今日はリールの仕事が終わるまでここで待って三人で帰ろうか」


 その日残りの予定を決めるクレイ。この時はまだ、自分達を観察する二つの視線にまだ気がついていなかった。

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