一話 仕事
太陽が完全に沈み涼しい風が辺りを支配し出す頃、小さな小屋の中では男達の下卑た笑い声が響き渡っていた。
「相当な金額だ! これで当分遊んでくらせるな!」
「ああ! チンケな屋敷かと思っていたら大当たりだ!」
「女がいねーのがちょいと物足りねーがな! それは次の町まで待ってやるか!」
男達は古びた服から軽鎧、重さのみを追求したような厚手の鎧など格好に統一性はなく、それぞれ剣や斧、鎚等の凶器も身に付けている。
そんな男達が皆口角をあげながら積み上げられた金貨や芸術品と思われる壷等を愛でながら笑いあっていたのだ。
つまりは盗賊達がつい先日大きな仕事を終え、その収入を数えていた、という所だったのだ。
────突如、小屋の入り口が爆発し、何かが男たちの方へ吹っ飛んできた。
「な、なんだぁ!?」
「お、おいコイツは見張りじゃねえか!」
「コイツが吹っ飛ばされてきたのか!?」
飛んできたモノは現在小屋の入り口で見張りをしていた仲間。そのボロボロになった仲間が飛ばされてきた方向へ目をやると、見知らぬ男が立っていた。
男は大振りの武器──入り口に入りきっていないためよく見えないがおそらく大剣だろう──を携えながらつまらない物でも見るかのような目をしている。短髪黒髪を尖らせ身体は筋肉隆々、それでいてどこかあどけなさが残る辺り年はまだ成人前だろう。
「なんだテメェはッ!!」
こちらの問いに男はあくびをしながら答えた。
「ブレイバス・ブレイサー。てめえらが奪った金品を取り返してくれと依頼された傭兵だ」
ブレイバスが名乗ると同時に盗賊達は各々の武器を手に取ると雄たけびを上げながらブレイバスに突撃した。
「【破壊魔剣】!!」
盗賊達からは殆ど見えないが、ブレイバスが唱えると同時手持ちの大剣が一瞬で黒い氣に覆われる。
そしてその大剣を振るう事で入り口扉に接している木の壁が粉砕され、それが散弾となって盗賊たちを襲う。
「うおおッ!?」
予想外の攻撃に盗賊は怯んだ。その隙を見逃さずブレイバスは踏み込みながら一番近くの盗賊に斬りこんだ。
ブレイバスの持つ大剣は、触れる物全てを粉砕する破壊の魔法剣。それを直撃しては人間の肉体など防具ごと木の壁のように粉々に砕いてしまうだろう。
そこでブレイバスは盗賊の足元に大剣を振り下ろした。
「ぐおおぉッ!!」
それにより床が爆発を起こし飛び散る破片をもろに食らいながら、かすっただけで足が潰された盗賊は地面に転げまわった。
「あー、やっぱ強すぎるな」
ブレイバスは呟くと同時に大剣に纏われていた黒い氣を解いた。そしてそのまま更に踏み込み近くの盗賊を薙ぎ払う。
相手は金属の厚手の鎧を身に纏ってはいたが、それでもブレイバスの大剣の一撃を胴に食らうと大きなヒビをつくりながら吹き飛んだ。
「や、野郎ッ!」
後方の盗賊数人がそこで石弓を構えた。接近戦では分が悪すぎると判断しての事だろう。しかし瞬時に仲間数人が倒された動揺から構えるのに時間がかかってしまう。
その中でももっともはやく構えが終わった盗賊が今まさにブレイバスに石弓を発射しようとするその瞬間、叫び声が聞こえた。
「【結界光刃】!」
窓から茶髪の少年がガラスを破りながら飛び込んできたかと思えば、手に持った長剣から衝撃波のような物を放ったのだ。その疑似衝撃波により、ブレイバスに発射しようとしていた石弓は側面から真っ二つに切り裂かれる。
「な!?」
更に茶髪の少年は男に素早く接近すると、顔面を長剣の峰で殴打し気絶させる。
その様子を見たブレイバスが嬉しそうに口を開いた。
「お、ナイスだクレイ」
その様子をみた他の盗賊は、ブレイバスから突如現れたクレイに石弓を照準を変える。
勢いよく飛び込んだクレイだったが、位置は若干悪かった。今倒した男が中央付近にいたため、他の盗賊に挟まれるような形になってしまったのだ。
「ふざけんなガキ共! 死ねッ!!」
左右から必殺の弾丸がクレイを襲う。そこでクレイは長剣を瞬時に床に突き立て、左右から迫る弾丸に対してまるで弾丸を受け止めんとするかのような動作で、それぞれ両の手を真っ直ぐにのばし手の平を開いた。
「【結界障壁】ッ!」
クレイの叫びと共に両手からそれぞれ半透明の障壁が展開される。
石弓から発射された弾丸は、その障壁にぶち当たると僅かに跡をつけるだけで跳弾し地面に転がった。
「なっ……!」
盗賊が絶句している間にブレイバスがその片方に接近し薙ぎ倒す。
残った一人はすぐさま背を向け裏口の方へ走り出す。が────
「【結界曲鞭】!」
クレイが今度は何も持たない左手でボールか何かをサイドスローするように振るった。
ソレと同時にクレイの左手から半透明のロープが出現し、その先端が逃げる盗賊の左足に巻きつく。
【結界曲鞭】を巻きつけられた盗賊はその場でバランスを崩し、受け身も取れず頭から地面に叩きつけられた。
「……ふぅ、これで全員だね。ブレイバス、殺してない?」
「おう、全員生きてると思うぜ? 多分」
ブレイバスの返答に満足したクレイは【結界曲鞭】を解除し、散らかった辺りを見渡した。
「じゃ、テキトーに全員縛り上げて報告に戻ろうか」




