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三十八話 少年少女は歩き出す

 クレイ達は国境を目指して歩を進めていた。

 本来であれば、『エブゼーンを撃退したのち、ヴィルハルト達と口裏を合わせ、表向きには今回の夜狼人(ウェアウルフ)襲撃を完全にエブゼーン独断の凶行だった事にし、クレイ達をハメようとした国の上層部を黙らせながら次の対策を練る』といった事を予定していたのだが、クーニャの参戦により状況が変わってしまった。

 クーニャの魔法【紅針大暴走(ラブアンドカース)】が何キロ先にも届く強い光を放ちながら獣神の聖域森林(フェンリルウッズ)の大半を破壊した事により、この話はすぐに人づてに国全体に広まってしまうだろう。

 国がどう情報を歪曲しようが夜狼人(ウェアウルフ)に対してなんらかのアクションを取らざるを得ない事は必至であり、それに深くかかわったクレイ達も、元々ハメられようとしていた事を含め、良い方向に転ぶとは到底思えない。


 そこで孤児院の他のメンバーの事もありこの国を離れるわけにはいかないゼイゲアスが国に出頭。自分の人脈をフルに使い、孤児院にはなるべく悪くない方向に事を運ぶように進める方向に。

 元々夜狼人(ウェアウルフ)達はラムフェスの更なる攻撃に警戒し、破壊された森を捨て別の拠点に移住する事を決意。


 しかしクレイ、ブレイバス、リールは、最重要人物であるが故にゼイゲアスでもラムフェス王国上層部から守れる保証はない。更に夜狼人(ウェアウルフ)達からは『森に災いを持ってきた人間』としての認識が強く、ミザーやエトゥの力をもってしても同行は危険。

 つまり、自分たちだけで国の外に出る事を強いられていた。


「ああー、結局こうなっちまうのな、ヴィルハルト将軍が最初に『この森を出て国境まで走れ』とか言ってたが、最初からそうしてりゃよかったか?」


「でもでもっ、それじゃ夜狼人(ウェアウルフ)さん達は助けられなかっただろうし、そもそもエブゼーン将軍の包囲網から逃れられる可能性も少なかったと思うよっ、結局これでよかったんだよ。きっと」


「ああ、ヴィルハルト将軍は……立場的にどうなるかわからないけど、それでもゼイゲアス先生が上手くやってくれる。この国に戻ってこれる日も来るさ。多分」


 これから亡命しようというのに、クレイ達三人はまるで寄り道でもするかのような言い草で道を歩いていた。

 生きるために必要な事は孤児院でゼイゲアスに教わってきた。結果的に最小限の犠牲で事を納める事が出来た。一応夜狼人(ウェアウルフ)ともコネが出来るという報酬もあった。そしてなにより死を覚悟した瞬間もあった今回の戦いの事を思えば、この結果は三人にとっては最悪とは程遠い状態だったのだ。


 しばらく歩いたところで道の横にある大岩に背中をもたらせ腕を組みながら立っている男が目に入る。

 深緑鎧を身に纏う長身の男。愛用の黒槍は背中に担ぐように結びつけてあり、当然敵意は全く感じられない。

 クレイはその男に話しかけた。


「リガーヴ将軍……」


「……」


 話しかけられたことで、リガーヴはクレイ達のほうへ向きなおり、そしてこちらに歩いてきた。


「……俺たちが出来るのはここまでだ」


「ええ、僕たちのためにこれほどまでしていただき、お心遣い感謝いたします」


 リガーヴの言葉にクレイは深々と頭を下げる。リガーヴが本気で戦う演技(・・)をしなければ、監視役の黒装束達の目は欺けなかっただろう。


「……お前たちは国を出て、まだ戦いを続けるのか?」


「どうでしょうねー、ま、俺達野生的な生き方しか知らないんで、狩りにしろ傭兵かなにかするにしろ、剣は手放さないでしょうね」 


 リガーヴの問いに今度はブレイバスが答えた。両手を後頭部に回しながらあっけらかんとした口調である。

 その様子にリガーヴは言葉を続けながら三人の横を通り過ぎる。


「ならば次に出会う時があれば、それは本当の敵同士になるだろうな」


「そうならないようにしたいですねー、リガーヴ将軍もお元気でっ!」


 リガーヴの言葉を冗談のように受け取ったリールは、軽く笑いながら横切るリガーヴに返事をする。

 しかし、そのリールにクレイが訂正した。


「いいやリール、将軍はそうは思っていないよ」 


 リールはその言葉にきょとんとした目をクレイに向ける。

 それに対しクレイとブレイバスは真剣な瞳で通り去ろうとしている男の背中を見つめていた。


「ああ、クレイ、ブレイバス、戦場で合いまみえることを楽しみにしているぞ」


 クレイ達からは見えなかったが、その時リガーヴは武人に相応しい狂喜的な目をしながら確かに笑っていた。

 自分たちに恩義を感じていたからこそ、今回助けてくれた。そしてその過程で自分たちの実力を、成長ぶりを、潜在能力をみて、全力で戦える相手だと認識したのだろう。


 そのリガーヴが見えなくなるまで見送った後、クレイは進行方向を向き直り声を上げた。


「さ、行こう。楽じゃあないだろうけど、これはこれで新しい門出の始まりだ」



 ニ章 ~獣人戦姫と遥への決断~、完

 二章ご愛読ありがとうございました!

 これにて本作品全体でみた際のプロローグ終了となります。

 と言うかここまでだとタイトル詐欺もいいところです 笑

 三章はプロットをしっかり練り書き貯めてから投稿開始する予定ですので暫く時間頂きますが御了承お願いいたします。

 また、二章も個人的に上手くいかなかった所がいくつかありまして、もしかしたら三章公開前に大幅に書き直す事もあるかも知れません。


 次話に『二章登場キャラ +イラスト紹介』を挟んで暫くお休みさせて頂きます。

 ではではそんなこんなですが、これからもよろしくお願いいたします。

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