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三十七話 後始末

 主戦場となった場所から何十メートルも離れた深い川、そこから一人の男が身を引きずりながらも這い上がる。


「ぐ……は……」


 豪華な鎧は完全に破壊され、体中から血を流し、自慢の黄土色の髪も萎びたサラダのようにヨレヨレになり、しかしそれでも彼はまだ生きていた。

 先ほどの戦いで崖から落下した【奇竜】エブゼーン・キュルウォンド。

 その悪運の強さは留まるところを知らず、落下先もたまたま深い川であったがために即死は免れ、強靭な身体力も合わさり一命は取り留めていたのだ。


「この……私が……こんな……こんな……!」


 川から這い出たエブゼーンは一先ずは休もうと、近くの大き目の岩に背中を預け座り込む。


(くそ……くそッ! どこで間違った? 足場を把握せずに【美麗幻想天使(マーベラスフォール)】を使った事か? それにまさかあの小娘がこんな超魔法の使い手だとは……! いやそれ以前に獣ごときが【美麗幻想終幕(マーベラスオルヴワー)】を打ち破る事など……!)


 思考が怒りに満ちながらも、事の反省を行うエブゼーン。しかしそこで自身の身体を当てていた日の光が影に隠れてしまった事に気がついた。

 突如現れたその影の方向へ目を向けると、そこにはよく知る灰髪の女騎士が立っていた。その顔を見て、怒りとダメージで凄まじい表情になっているエブゼーンの顔に笑みが浮かぶ。


「エブゼーン将軍、ここにいましたか」


「お……おお……レヴェリア……! よくぞ私を見つけた……さあ手を取れ……王都への戦略的撤退を行うぞ……奴らへ復讐はこの傷を癒してからだ……!」


 言いながらエブゼーンはレヴェリアの方へ手を出した。

 しかし────


「いえ、貴方が向かう先はあの世でございます」


 レヴェリアは自身の剣を一閃、上司であるエブゼーンの喉を躊躇う事無く切り裂いた。


「が……! あ……?」


 クレイ達を裏切り、自らの部下をも捨石のように使う事で状況を有利に進めてきたエブゼーン。

 そんな彼は、自身に起こった事が何一つ理解できないかのような困惑した瞳と声を絞り出し、その場に崩れ落ちた。


「さて、と」


 レヴェリアは目の前に転がった憐れな死体にはそれ以上目をくべる事なく、ある方向へ向かって歩き出した。


◇◇◇◇◇


 崖の上、三人の少年少女が決められた方向に走っていく様子を見下ろしながらヴィルハルトは一人、ワイングラスを揺らしながら悦に浸っていた。


「フッ さあてクレイよリールよブレイバスよ、【悪魔殺し(デーモンスレイヤー)】の英雄達よ、これで賽は投げられた。お前達の行く末どうなるか、お前たちの動きがこの国に、いやこの大陸にどのような影響をもたらすか、楽しく見させてもらうぞ フッ」


 夕日に当てられ黄昏るヴィルハルトの背後に、一つの人影が現れる。ヴィルハルトはそちらに向き直る事なく人影に話しかけた。


「フッ レヴェリアか フッ」


 話しかけられた相手、レヴェリアはそのままヴィルハルトの方へゆっくりと歩み寄りながら口を開いた。


「はい、エブゼーン将軍の始末が完了しましたので報告に上がりました」


 冷静な騎士の瞳のまま淡々と事実を告げ、レヴェリアはそのままヴィルハルトの横に立つ。


「フッ よくやった。あの男が完全に消えた事でクレイ達を深く追う者はいなくなった。これでこの先あの者達が思い通りに動いてくれれば……私の筋書き通りだ。そしてこの国の動きも少しは抑えられるだろう。今はまだ全面戦争には早すぎるからな フッ」


 ヴィルハルトがそういいながら右手で自身の髪をかき上げ、空いた左手でレヴェリアの頭を優しく撫でた。

 それによりレヴェリアの騎士の表情は崩れ、年相応の照れた女性の顔つきに変わる。


「フッ しかしレヴェリア、クレイと直接剣を交えていたようだが、そのまま勝利してしまったらどうするつもりだったのだ? フッ」


「その場合でも殺してしまわないようにはするつもりでしたわ。そういう事態には【全てに融け込む白(アイ・ラブ・ミー)】で何とかしていただく手筈でしょう? それに私が一騎討ちでクレイ殿との交戦を提案しなければ、エブゼーン将軍はクレイ殿を最優先で打ち取ろうとしていたでしょうし」


「フッ そこまでしっかり考えていたのであれば問題ない。喉は大丈夫か? フッ」


 クレイとの戦いで拳の一撃を食らったレヴェリアの喉。そこを抑えながらレヴェリアは答える。


「ギリギリ軌道をずらせました。が、一歩遅ければ完全に潰されていたでしょうし、あの混戦でなければクレイ殿にもバレて止めを刺されていたかも知れませんね。本当に色々ギリギリです」


「フッ 結果としてあの状況で、死ぬことなく殺すことなく上手く立ち回れたという事だな フッ」


 レヴェリアの答えに一通り満足したヴィルハルトは更にレヴェリアの頭を撫で回す。

 そこでレヴェリアはクレイ達には決して見せる事のなかった満身の笑顔をしながら、ヴィルハルトの顔を覗き込むように前に出る。


「ねえエブゼーン将軍の席も空いた事ですし、これで私も十将軍になれるかしら?」


「フッ 【灰竜】レヴェリア・ラズセールと言った所か? お前にはまだ早い フッ」


 しかし予想とは違ったヴィルハルトの返答に、レヴェリアは残念そうに眉を潜め、わかりやすく口を尖らせ呟いた。


「もう、手厳しいのねヴィルお兄様」

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