二十七話 【白竜】の真意
クレイが目を覚ますと、そこは薄暗い洞窟の中だった。
辺りを見渡すと、気を失ったままのブレイバス、リール、ジアン、エトゥが綺麗に並んで寝ている。
「クレイ、目を覚ましたか」
声のする方へ目をやると、獣耳を生やした青緑髪の美女がこちらを見つめていた。
「ミザー」
クレイはその相手、ミザーに返事をし、そこで相手の様子に違和感を持った。
神妙な顔つきで周囲を警戒しながら、クレイの元に近づいてくる。
「ミザー、先に起きていたんだな? 状況を教えてくれ」
「教えろも何も見たままだ。あの白いナニかに呑まれた後、気がついたらここにいた。全員が整列するように寝かされた状態でな」
「……」
「クレイ、奴らは何だ? 黒装束の雑兵共の事じゃあないぞ。お前たちが相手をしていた黒い男と、先ほど白いアレと共に顔を覗かせていた変態、それと助けに来た大男とそこの少年の事だ」
リガーヴとヴィルハルト、そしてゼイゲアスとジアンの事を指しているのだろう。
そこでクレイは少し言葉を詰まらせた。それぞれの関係はやや複雑であり、そして自分が今置かれている状況も正確に把握している訳ではない。
しかし、説明を省略すればミザーは納得しないだろうし、嘘を付くのはもっと意味がない。
「一人づつ順番に話そうか。まずそこのクリーム色の髪の子の名はジアン。僕らと同じ孤児院の仲間だ。助けに来てくれたデカい人は僕らの育ての父でリールの実の父、ゼイゲアス先生。どういう訳かはわからないけど、僕らの窮地を知って駆け付けてくれたみたいだ。理由はジアンが目を覚ましたら聞こう」
そこまではおおよそミザーも予想通りなのだろう。黙って聞いている。
「次に僕らと戦った黒い髪の人はラムフェス王国が誇る【黒竜】リガーヴ・ラズセール将軍。僕らも任務を共にしたことがある。とても武人らしい人で、今回なぜかラムフェスを裏切った事になっている僕らの討伐任務を与えられてここまできた」
「身内、というわけか」
夜狼人であるミザーからすれば『部外者ではあるがとりあえずは信じていたクレイの身内に脅威を晒された』事になる。当然クレイに疑惑を向けるのも当然の事だろう。
「そう言う事になるね、でも」
「ああ、わかっている。お前たち自身がヤツと戦っていたんだ。お前に非があるとせめているわけではない」
クレイの心境を先読みしての事だろう。ミザーはやや複雑な顔をしながらも、クレイの言葉を遮りフォローを入れた。そして更に続ける。
「それで、最後の白い変態は何だ?」
当然、ソレもクレイの身内である。しかし突如現れ自分たちをここに攫ったであろうソレの事も正直に打ち明ける事はやや躊躇した。
少し考え、観念して口を開きかけた時、どこからともなく声が響いた。
「フッ 私の事が気になるようだな フッ」
声と共にミザーとクレイが会話をしている丁度間の地面から、白い生首がにゅるりと顔を出す。
突如現れたソレに対して、ミザーは反射的に太もものベルトに付けていたダガーを投擲した。
白い生首にダガーが命中すると、直撃した部分が白いジェルに変化し、底なし沼に石を投げ込んだように生首はダガーを飲み込んでいく。
ミザーは更にダガーをもう一本抜き取り、生首に素早く接近し刺殺を試みた。
しかし、生首はそれより速く地面に溶けるように姿を消す。
驚愕し動きを止めたミザーの背後から再び音もなく白いジェルが噴き出すのを、クレイは目撃した。
「ミザー! 後ろだ!」
声をかけるが間に合わない。ジェルはすぐにミザーの肢体に纏わりつき自由を奪う。
そしてミザーの左肩辺りのジェルが人の顔の形に変化したと思えば、その顔は息がかかる距離でミザーに話しかけた。
「フッ 御馳走様。お礼に私の事は私自ら説明しよう、夜狼人族長の一人娘ミザー・クウェルフ嬢 フッ」
外界と接触を絶っていたはずの自分の情報が人間に、ましてや訳の分からない変態に漏れているという事実にミザーは背筋を凍らせる。
しかし目の前の変態は瞬く間に自分たちを攫い、今現在ミザーの動きを完全に封じた。更にこの攻防の様子から、物理的攻撃は効かないものと予測できるためミザーからはこれ以上攻めるも逃げるも行う事が出来ない。
そんなミザーの身体も心も完全に掌握しているためか、白い生首は得意げに言葉を続ける。
「フッ 私の名はヴィルハルト・ラズセール。先ほどクレイが紹介していたリガーヴの双子の兄にして【白竜】の異名を預かるラムフェスの将軍の一人だ フッ」
「ヴィルハルト将軍、お止めください! ミザーのした事ならば謝ります! 貴方は僕たちをどうしようというのです?」
そこでクレイが声をあげた。ヴィルハルトがその気になれば自分たち全員を全滅させる事も出来るはず。そうはせずに暗い洞窟で対話を持ちかける。つまり、相手から何かしらの要求があるはずなのだ。
クレイの言葉に、ヴィルハルトはすぐにミザーの拘束を解いた。
ジェルがミザーから剥がれ落ちたと思うと、ソレらはすぐに人の形を成していき、数瞬後には以前行動を共にした時と同じ、輝く白い服装のヴィルハルトが髪をかきあげながら腰に手を当てながら全身を現した。
「フッ 私はな、お前達を助けようとしているのだよクレイ フッ」
「え?」
そして全身を現したヴィルハルトからの返答は、クレイが予想もしないものだった。
つい先ほどまでリガーヴと全力で戦っていたのだ。その兄であり、立場もほぼ変わらないヴィルハルトからのこの答えにクレイは思わず間の抜けた声を上げる。
「フッ 本当はリガーヴがお前たちを崖から突き落とし、私が下でキャッチする手はずだったのだがな、邪魔が入ったとはいえリガーヴにそれをさせないとは、強くなったなクレイ フッ」
ヴィルハルトが人差し指を立てつつウインクをし、目から星を飛ばしながらクレイを称賛する。
クレイはその言葉に、今自分が置かれている状況を推理しだした。




