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二十五話 【黒竜】の前に立つ者

 ────【竜聖十将軍】

 それは大陸最大の軍事力を誇るラムフェス王国の、数十万の兵士達の頂点に立つ存在。一騎当千の実力を持ち、百戦錬磨の実績を誇る最強の称号。

 その称号の一つ、【黒竜】の異名を持つリガーヴであってもこの展開は予想外過ぎた。

 

 先ほどリガーヴの虚をつき、見事な連携攻撃をしてきたクレイとブレイバス。

 それらの迎撃を行ったと思ったら、吹き飛ばしたはずのブレイバスが自分の元に降ってきたのだ。ブレイバスの巨体があり得ない動きをし、その重量がリガーヴに圧し掛かる。

 戦場で土埃をあげて倒れる大の男二人。その隙を逃さず、クレイがリガーヴに斬りかかった。


「……【全てを飲み込む黒(ウロボロス)】!」


 しかし、それでも尚リガーヴの方が早かった。呪文と共にリガーヴの周囲に黒い靄が出現し、その靄から突風が吹き荒れる。


「うわあッ!?」


 接近したクレイは突風により大きく吹き飛ばされ背後の木に激突する。倒れていたブレイバスもその風によってクレイの近くまで転がされていた。

 リガーヴは体勢を立て直すと、素早くクレイに接近。木に激突したばかりで身体が思うように動かないクレイの元に瞬く間に辿り着く。


「見事だったぞ、クレイ、ブレイバス、リール」


 リガーヴはそう言いながら、クレイに向かって黒槍を真横から薙いだ。


(くそ! ここまで来て……!)


 クレイは胸中で毒づいた。

 自分は精いっぱいの事をした。いや、自分だけではない。ブレイバスも、リールも遥か格上のリガーヴを相手に、最善を尽くした。しかし、それでも王国最強【竜聖十将軍】の名は伊達ではなかった。

 自分たちもまた、この男の武勲の一つとなってしまうのか。

 自分たちが何故このような状況に置かれているのかもわからないまま、ここで散ってしまうのか。


「【絶対的安静(キュアプリズン)】ッ!!」


 クレイの思考はそこで中断された。

 聞き慣れた声と呪文が聞こえたかと思うと、そこで自分の全身が緑色の筒に包まれたのだ。

 リガーヴの黒槍は勢いが弱まることなく、クレイが入った緑色の筒を薙ぎ払う。それによりクレイの身体は再び大きく吹き飛ばされ、先ほどとは違う木に激突した。

 槍で薙ぎ払われ、木に激突し、更に地面を転がる。

 それで尚、それらの衝撃は全て自身を覆った緑色の筒が鎧となり、クレイは僅かな痛みも感じる事が無かった。

 

 リガーヴの意識は既にクレイからは外れ、クレイが吹き飛ばされた方向とは逆方向へ目を向けている。

 リガーヴの視線の先、緑髪のボサボサ頭、筋肉隆々の大男が大きく指パッチンをすると、クレイを包んでいた【絶対的安静(キュアプリズン)】がはじけるように消え失せ、クレイの身体が再び自由を効くようになる。


「お、お父さんっ!?」


 やや離れた所からリールがその大男──実父であるゼイゲアスに驚愕の声を上げる。


「ゼイゲアス先生、どうしてここに!?」


 クレイも続けて突如現れた師に問い掛ける。ブレイバスも首を押えながら立ち上がり、声こそはあげないものの同じような心境でゼイゲアスを見つめた。


「いよぉ、待たせたなリール、クレイ、ブレイバス」

 

 ゼイゲアスはニカッと笑い、一瞬だけ三人を見やった。しかし、すぐにその視線をリガーヴの方へ向け直す。


「話は後だ。ここは俺に任せてお前たちは逃げろ」


 睨み合うゼイゲアスとリガーヴ。

 かたや自分達と戦場を駆け、今現在、殺し合いをしていた男。

 かたや自分達と長年生活を共にし、今現在、助けに来た男。

 共通して言える事は、二人ともクレイとブレイバス二人掛かりで挑んでも手も足も出ないほどの実力者だと言う事。

 今からこの最強の二人が戦いを始めるという空前の事実にクレイ達は冷や汗とはまた違った汗を流す。


「皆! こっちこっち!」


 更に違う方向から声が響く。

 クレイはそちらに目を向けると、クリーム色のアホ毛が目立つ少年が、三人に向かって笑顔で手を振っていた。


「ジアンまで!」

 

 クレイは驚愕した。が、すぐに状況を整理する。

 ジアンの魔法【心診真理眼(リサーチアイズ)】は視界を他の場所に置く事が出来る。

 つまりジアンがここにいると言う事は比較的安全な道を確保できている可能性が高い。師であるゼイゲアスが自分たちに迫る敵を食い止め、ジアンが自分たちを安全な場所に誘導する。

 助けに来た二人がなぜこの事態になっている事を知っているのかはわからないが、そう考える納得できた。


「ブレイバス! リール! 行くぞ! ミザーとエトゥさんも着いてきてくれ!」


 その場の仲間全員に声をかけ、クレイはジアンの元に駆けだした。

 エトゥの復帰により、いつの間にか黒装束集団をあらかた片づけていたミザー達も瞬時にそれに続く。


「お父さん……」


 しかし、リールは躊躇した。父が助けに来てくれたのはいいが、その父を置いて自分達だけ逃げて良いものなのか、と。


「リール! 先生なら大丈夫だ! 俺達が心配する方がおこがましい! 行くぞ!」


 そんなリールの気持ちを察し、ブレイバスがリールに声をかけながら腕を引っ張る。


「う、うん、お父さんごめんね! ありがとう!」


 五人はジアンに続き、素早く森の奥に姿を消していった。

 ミザー達を相手していた黒装束軍団の残りも、若干躊躇しながらそれを追うように森の奥へ走る。


「へぇ、テメェは追わねえんだな」


 ゼイゲアスがリガーヴに冗談でも言うような口調で問いかける。


「……貴様を前に奴らを相手に出来ると思うほど、俺は自惚れてはいない」


 リガーヴはその問いかけにわざわざ答え、そして黒槍を構えなおした。

 その様子をみて、ゼイゲアスは両の手甲を打ち付け、大きな金属音を慣らし気合を見せつける。

 

「……それはそうと、俺の子らをボコってくれた礼、させてもらうぜ?」


 怪しく揺れる木々のみを観客とする中、最強のカード同士がぶつかり合おうとしていた。


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