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二十一話 通りすがり

 クレイ達のいる場所から数km離れた場所、そこでもラムフェス軍の人間と夜狼人(ウェアウルフ)の戦士達が乱戦を繰り広げていた。


「薄汚い狼共! だまし討ちを企てるとはな! 覚悟しろ!」

「森を侵す人間共め! 突如現れ偉い言い草だな! 返り討ちにしてくれる!」


 既に互いに死傷者が出ており、その勢いはどちらかが敗走を始めるまで、もしくは全滅するまで止まらない狂気と混沌の渦中。戦とはそういうものであり、この場も例外ではない。


 その二つの勢力の殺し合いの場に、激突するような勢いで近付いて来ている者達がいた。


「ゼイゲアス先生、こっち! でも少し前の方でまた争いがある!」


 クリーム色の髪をした少年ジアンが目を物理的に光らせながら、木々で隠れているはずの百メートル程先で起こっている状況を、同じく走る緑髪の大男に説明する。


「ジアン、先の方まで目が見えてるの?」


 その大男の背中に両手で必死にしがみついたている、赤髪を二つ束ねた幼い少女が疑問を口にした。


「なんかちょっと先の未来が見えたり見えなかったりするみたい、クーニャ、正直な所を言うと、僕もよくわかってないからあんまり聞かないで」


 クーニャの言葉にあまり自信が無さそうに答えるジアン。そして、一呼吸おいて言葉を続ける。


「突然目覚めた新しい力だけど、でもなんだろう、この森に入ってから少しずつ力が高まっているような、研ぎ澄まされていくような、そんな感じがする」


 しかしそこで背中のクーニャと、自身の一歩前を走るジアンのやり取りを遮るようにゼイゲアスが叫んだ。


「ジアン! 今考える事じゃねーだろ!」


 クーニャにされた質問に答えただけなのに、自分を責められやや口をすぼめるジアン。

 そんな気持ちを知ってか知らないでかゼイゲアスは違う話を行う。


「さっきと同じようにまず俺が行く! 降りろクーニャ!」


 そう言うとゼイゲアスは一旦立ち止まって身を屈めると、背中にしがみついているクーニャが飛び降りた。

 自分の背中からクーニャの体重が消えた事を認識すると、そこでゼイゲアスは走り方を短距離走のように切り替えると、前方を立ち止まる事なく走っているジアンを一気に追い抜く。

 そして木々を大きく揺らしながらちょっとした崖の上から跳び出し、人間と夜狼人(ウェアウルフ)両勢力の間に割って入った。


 突如現れた巨体にほんの一瞬だけ両勢力は目を向けるが、直ぐに自分の仲間ではないと判断したようだ。

 そんな不確定要素の排除を優先的事項と考えたであろう、近くの人間と夜狼人(ウェアウルフ)がそれぞれ一人ずつゼイゲアスに襲い掛かる。

 ゼイゲアスは左右から殺意と勢いを持って迫りくる爪と剣を、それぞれ両手につけた手甲で、強めの風で煽られた小枝でも払うかように軽く打ち払った。


「なッ!?」

「にッ?!」


 まるで兄弟か何かでもあるかのように息ピッタリで驚愕する異種族二人を、右足の踏み込みと共に両の剛腕で殴りつける。

 ラムフェス兵が纏う頑丈な鎧には大穴を空け、夜狼人(ウェアウルフ)が着けている鉄の胸当ては粉々に破壊しながら、二人を襲いかかってきた方向へ、襲いかかってきた時以上の勢いでフッ飛ばした。

 そして更に殴りつけるため握りしめていた両拳を開き、自身が得意とする魔法名を叫ぶ。


「【絶対的安静(キュアプリズン)】ッ!!」


 するとフッ飛ばされた二人は空中で、突如現れた緑色の筒に全身を包まれ、そのまま地面に落下した。

 ────否、二人だけではない。ゼイゲアスが手をかざした両方向、つまり人間と夜狼人(ウェアウルフ)両勢力、僅かにでも傷を負っている者全員(・・)が、全身を緑色の筒に捕らえられ完全に静止する。


 両勢力に僅かにいた無傷な者達は【絶対的安静(キュアプリズン)】の対象外であるようで、その者達には全く効果は無かった。

 が、突如として敵味方問わず周囲の殆どが制止したこの状況に、動けるはずの残った誰もが思わず思考も身体も硬直させる。


「ジアン! クーニャ! 今の内だ! 急げ!」


 ゼイゲアスの声に続くようにジアンとクーニャが崖から飛び出し、【絶対的安静(キュアプリズン)】に包まれた、もしくは呆然とする両勢力の者達の真ん中を突っ切るべく駆ける。


 一人、いち早く我にかえった無傷のラムフェス兵がジアンの方へ弓を引き絞った。

 しかし、それを横目でしっかりと見ていたクーニャが叫ぶ。


「【審判紅針(ラヴァーニードル)】!」


 クーニャの燃えるように赤い髪から、その髪に近い色の(オーラ)が現れ、更にそれは針のように尖ったかと思うと曲線を描いて弓を構えた兵士とその周囲を襲う。


「ぐあッ!」


 弓を構えた兵士はその魔法を手を中心に全身に受け、防具で覆っていない部分は血を流す程度のダメージを食らい、思わず弓矢を手から落とした。

 周りの草木や呆然としたままの兵士にもそれは突き刺さったが、それらは一切傷つける事なく何事も無かったかのように魔法は消えていった。


 そして三人は、目指す場所に向かって大して時間ロスする事なくそのまま走り去った。


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