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九話 VSエブゼーン・キュルウォンド

 クレイは『ラムフェス王国最強の一人』と称される【奇竜】エブゼーンの前に木剣を構えて相対した。

 身長自体はさほど変わらない二人だったが、髪型の違いのため全長はエブゼーンの方が頭二つ分ほど高い。

 そしてこの試合を仕切るのは、ブレイバスの治療をある程度終えたリールが行っていた。


 『こちら側ばかりが審判役ではなんだか英雄殿方に申し訳ない、そうだここは一つ【緑癒(りょくりょう)の精霊】リール殿に仕切りをお願いいたしたいのですがどうでしょうか。いや、それがいい、貴殿の愛くるしさがあれば私も後ろのギャラリーもその華やかさに盛り上がるというもの、おっと我々が鼻の下を伸ばしては【悪魔殺し(デーモンスレイヤー)】クレイ殿に失礼でしたかなはっはっは! しかしまあそれはそれでお互い負けられない戦いが出来そうで良いですな、ええ、はい、それがいい、ではお願いいたします』

 といった具合にリールは高速で捲し立てられ、その勢いで引き受けてしまった、という状態である。


 特に意味はないのだが、リールは手を仕切り板のようにチョップした後のような状態で伸ばし、それを勢いよく上にあげながらノリノリで号令を上げた。


「はじめっ!」

 

 クレイとエブゼーンとの距離は十メートル以上。そのまま剣をぶつけ合うには遠い距離である。

 号令と共にクレイはその距離を活かすべく先手必勝と言わんばかりに、左手を木剣の刀身に添え叫んだ。


「【結界光刃(フォースセイバー)】ッ!」


 刀身が光ったと思うと、そこから魔法の刃が高速で発射されエブゼーンを襲う。狙いは相手の胴。


 その刃に対してエブゼーンは右手を広げ、攻撃を受け止めるような形をとる。

 その開いた指を閉じる動作とわずかに右手を後ろに引く動作で、自身に迫る【結界光刃(フォースセイバー)】を、あろうことか指で摘まんだ(・・・・)

 魔法の刃は割れるわけでもなく、相手の手を切り裂くわけでもなく、完全に静止し、さほど時間を置かずに露のようにゆっくりと姿を消した。

 つまり、エブゼーンは【結界光刃(フォースセイバー)】の速度、耐久、性質を完全に見切り、弓矢のように高速で迫りガラスのように簡単に割れる魔法の刃を、傷一つ付く事無く、また傷一つ付ける事無く、指先だけの技量で完全に静止させたことになる。


 クレイにとって、今の攻撃は様子見の一撃だった。相手はラムフェス王国最強の【竜聖十将軍】 自分のこの程度の魔法等効くはずもないのだが、その対応によってそれからの相手の行動を判断する材料になるだろう、と。

 しかし、まさか全く通用しないばかりか、遊ばれるかのように止められる事は全く予想していなかった。


「ふむ、噂に違わぬ良い魔法ですね。これが使い慣れない木剣(ぶき)で、しかも本来の用途でないというのですから、やはり相当なものです」


 エブゼーンの感心しながらも完全に上からの物言い(・・・・・・・・・・)。それに対してクレイは苦笑した。


(全く、リガーヴ将軍といいゼイゲアス先生といい、基礎能力(フィジカル)にここまで圧倒的な差があるなんてね)


「ではこちらからも行きますよ」


 エブゼーンはそう言うと左手で木剣を構えなおし、クレイの方へ駆け出しそのまま斬りかかった。それに対してクレイも木剣で受け止める。

 クレイと体重も変わらない筈のエブゼーンの一撃は、一般的な想像以上の重みをクレイは感じる。そしてその剣捌きもやはり上手く、次々と襲いかかる鮮麗された斬撃にクレイは防戦を強いられることになった。

 が、


(やっぱり強いな! この人も! でも!)


 激しい剣のぶつかり合いが続く中、防戦を強いられていたはずのクレイが少しずつ盛り返し始める。

 エブゼーンの繰り出す斬撃の速度、来る方角及びタイミング、つまりは相手の戦術をクレイは頭脳で予測し、そして身体もまたどう来るかわかっているかのように反射的に動かしていた。

 エブゼーンは、やはり剣術に関しても一流。しかし、その程度はクレイの予想を上回るものではなかった。

 普段から身体能力では上をいかれるブレイバスと模擬戦を行い、野生動物等実践経験は多彩。更には最近【黒竜】リガーヴ、地烈悪魔(ガイアデーモン)、ゼイゲアスといった幾多の強敵を相手取ってきたクレイには、持ち前の頭脳と柔軟性、適応力も合わさり、格上のはずのエブゼーンの実力にも、無意識に対抗できるようになっていたのだ。


 そこでエブゼーンは相手を突き放す様に剣を振るい、やや距離を空けた。かと思うと木剣を両手持ちし、真っ直ぐ『突き』を繰り出した。

 クレイはそれに対して身体は左に避け、突きの側面を弾くように当てるように剣を振るう。

 結果、相手の木剣の軌道は本来の『突き』の軌道から大きくそれる。が、そこでクレイは違和感を感じた。


(手ごたえが弱い!?)


 エブゼーンもまたクレイの動きを予測し、木剣が弾かれる方向に自ら剣を振るったのだ。そのまま片手持ちに切り替え一回転しつつクレイに斬りかかる。


(これは、レヴェリアさんが見せた動きと同じような……!)


 クレイは胸中毒づいた。一般的には大きな隙を生みかねないエブゼーンの行動も、エブゼーン本人の無駄のない素早い身のこなしと予想困難なタイミングでのその動きに、クレイは一瞬対応が遅れる。

 迫りくる回転斬りを間一髪後方に跳んで回避をする事に成功した。


「ふむ、やはり流石ですねクレイ殿」


 相手のその様子をみてクレイは認識を改めた。


 ────やっぱり強いな! この人も! でも! なんとかなるかも知れない(・・・・・・・・)────


 先ほどは確かにそう考えていた。しかし先ほどまでの攻防で、自分は汗を多分にかき神経を尖らせているのに対し、相手は呼吸一つ乱さず先ほどまでとなんら変わらない、まるで午後のティータイムでもあるかのような余裕の声。

 ────相手はまだまだこちらを試しているのに過ぎない。クレイはそう確信した。


(だったら……)


 クレイは木剣を構えなおし、相手に向かって跳躍した。


(やっぱり考え方を変えてその実力差を埋めないとね!)


「【結界飛翔(フォースウイング)】!」


 空中で靴裏に小さな魔法板を生み出した。それを踏み砕く反動を利用して、若干方向転換をしながら更に上に跳ぶ。

 先日ゼイゲアスと闘った時のように高い跳躍をし、エブゼーンへ上空から飛び掛り、更に木剣を横に構えた。


 それをみてエブゼーンは再び【結界光刃(フォースセイバー)】が来ると予想したのだろう。半笑いをしながら先ほどと同じように右手を前に構えた。しかし、クレイの狙いは別にあった。


(イメージするんだ! 僕の魔法は物質を造り出す……! それならば、ソレは刃や障壁のように強度があるものに限らなくてもいい!)


 そこでクレイは叫ぶ。


「【結界曲鞭(フォースウィップ)】!」 


 クレイは何も持たない左手で、棒か何か振るうような動作をした。それと同時にクレイの左手から長細い魔法でつくられた太めのロープのような物が生み出される。

 それは蛇のようにしなり、エブゼーンを横から薙ぎ払うように襲う。


 予想外の事に、エブゼーンはそれを払うように右手をかざした。しかしその魔法のロープはそのままエブゼーンの右手に巻き付く。

 クレイは左手でそのまま【結界曲鞭(フォースウィップ)】を引っ張った。

 相手がそれで体制を崩してくれれば良し、強引に持ちこたえられたとしてもこちらはその力を利用して相手に勢いつけて接近できる。そしてその勢いのまま相手に斬りかかる!


 と、言う事がクレイの頭の中で描いたストーリーだったが、────現実は【結界曲鞭(フォースウィップ)】を引っ張る事により、その魔法は千切れた。

 結果、空中にいるクレイだけがバランスを崩し地面に落下した。


(いった)ッ!)


 クレイはすぐ頭を上げるが、その目前には既にエブゼーンの木剣が突き付けられていた。

 その結果を受け入れて、クレイで苦笑した。


(やっぱり、強度は必要、か)


 そして事実を口にする。


「負けました」


 ブレイバスを初めとしたギャラリーも、相対するエブゼーンも呆気に取られてクレイを見ている。


「そ、そこまで~……」


 周りと同じ気持ちのリールが、試合終了の声をあげた。

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