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七話 任務内容

 孤児院の一番広いリビングの大きめのテーブルを挟んでそれぞれが席に着く、クレイ、リール、ブレイバスに対面するようにエブゼーンが座り、その後ろに合計六人の兵士たちが等間隔で直立している。

 内、五人はいずれもブレイバスにも負けない屈強な兵士であるが、あとの一人はクレイよりも背の低い、小柄な女性の兵士であった。その灰色の髪は短く切りそろえられており、茜色の真っ直ぐな瞳をしている。しかし他の兵士同様、姿勢を崩さず真っ直ぐと前を向いていた。

 クレイは横目で兵士たちの身体的特徴を確認すると、エブゼーンに対して話を切り出した。


「それで、僕ら以外には難しい任務とはどういったものでしょうか」


地烈悪魔(ガイアデーモン)が残した不吉な言葉……その内容を私も聞きました。闇部族(ダークネス)と呼ばれる悪魔の集団がこの人の世に牙を向こうとしているとか」


 ────【闇部族(ダークネス)

 クレイ達が討ち取った地烈悪魔(ガイアデーモン)が残した悪魔の組織を思わせる名称。それが死んでいった悪魔の呪いでもあるかのように、今現在ラムフェス王国の軍事に影響を及ぼしている。


「ええ、確かに悪魔は言いました。『自分の死をきっかけに闇部族(ダークネス)は動き出す』と。……当時の状況を考えると、ハッタリである可能性も考えられますが……」


 クレイはそこで少し言葉を詰まらせた。自分の憶測などは軍事を無駄に混乱させる余計な事なのではないか、という考えが過ったからだ。

 そこで途切れたクレイの言葉を続けるように、エブゼーンは口を開いた。


「決して無視できるものではない、ですね?」


 クレイの失言をカバーするように言葉を紡ぎニコッと笑うと、エブゼーンは声量を上げて更に続けた。


「その脅威に対応するには大陸中が力を合わせる事が不可欠! 他国との! 更には他種族との団結が必要なのです!」


「……団結」


 クレイはその言葉に、地烈悪魔(ガイアデーモン)が残した言葉を更に思い出した。


 ────人間どもを団結させないためにもここで生存者を出すのは好ましくない────


 この言葉に続いて悪魔は周囲を一網打尽にせんとする大爆発を起こした。

 更にそれを利用して、その場から逃れる算段を立ててはいたようだが、やはり悪魔としてはその爆発で自分達を倒しておきたかったのは本音だろう。

 つまりエブゼーンがいう通り、各国が一致団結し対策を立てるのは闇部族(ダークネス)とやらにとっては有効な手のはずなのだ。


「そこで! その悪魔と直に接触し、言葉を交わした英雄方に、交流が困難な相手の一つである、夜狼人(ウェアウルフ)への説得に動向お願いしたいです!」


 ────【夜狼人(ウェアウルフ)

 人と変わらない外見を持つ【亜人】 その最大の特徴は、夜になると二足歩行の狼、すなわち『半獣半人』へと姿を変える。そしてその際は人の知能と獣の力を併せ持つ、生来の戦士と化す。他種族と違い、魔法を使える者は現在発見されていない。

 種族の違いから人間とは仲が悪く、ラムフェス東南の森を小さな国とし、隔離されたその空間で暮らしているという。


 クレイは困惑した。他国との会談の顔に使われるかと思えば、【亜人】の勧誘だったからだ。

 そして、その夜狼人(ウェアウルフ)説得のための、疑問を相手に問い掛ける。


夜狼人(ウェアウルフ)、ですか。彼らは人との関わりを拒むと聞きます。それが僕らに適している、というのはどういう事でしょう?」


 それに対してエブゼーンは嬉しそうな顔をしながら髪の毛のやや垂れている部分を撫でるとそれに答えた。


「流石クレイ殿、【亜人】に対しても博識でおられます。知っての通り夜狼人(ウェアウルフ)達は我々ラムフェス人とは関わらない辺境で生活をしています。しかも、とてもとても偏屈な性格をしておりまして、平時であれば我々と会話をする事すら拒むでしょう」


「……」


 夜狼人(ウェアウルフ)をあまりよく思っていないと思われるエブゼーンの種族説明。そこはクレイも知っている通りである。


「しかし、悪魔の脅威が迫ってきていると知れば、奴らも黙っている訳にはいきませんでしょう。所で、夜狼人(ウェアウルフ)は人の何倍も嗅覚に優れているというのはご存じでしたかな?」


「……! なるほど」


「おお! 流石のみ込みが早い! そう、悪魔と最も長く接した貴方がたならば、夜狼人(ウェアウルフ)は必ず悪魔の臭いを嗅ぎ取り、その存在に興味を示すでしょう。更に直に会話した内容をクレイ殿自身の口から話してくだされば説得力も増すというもの! ……まあ、本当は【双竜】ラズセール兄弟でも出来そうな任務ではあるのですが、貴方がたのほうがより正体を現した悪魔と接している、という点。そしてまぁ、彼らは彼らで多忙なようですので、ね」


 そこまで説明を受けてクレイも納得する。正体を現した悪魔と対峙し、尚生きている人間は六人しかいない。そしてその内の三人がクレイ、ブレイバス、リールである。

 他の三人が立場も相成り、多様な仕事を抱えているのならば自分たちに回ってくるのは自然な流れであろう。


「わかりました。闇部族(ダークネス)の脅威がいつこの国に迫るかわからない以上、全ての行動は早めておきたいというお考えですね」


「おお! わかってくださいますか! 恐縮ながらその通りでございます。ただ……」


 エブゼーンの引っかかりがある言葉にクレイは聞き返した。


「ただ?」


「血の気の多い夜狼人(ウェアウルフ)の事、有無も言わさず飛び掛ってくるやもわかりませぬ。勿論わたくし共も貴方がたを全力で護衛いたしますが、なにせ向かう場所は奴らの庭」


「……」


 危険の高い任務、それを行うのは最低限の実力がいる。それはクレイ達もわかりきっている事だった。

 エブゼーンは再びニコッと笑うと揉み手をしながら続きを口にする。


地烈悪魔(ガイアデーモン)を討ち取った英雄殿にこのような事を提案するのまことに失礼な話ではありますが、その御力、試させて頂いても?」

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