一話 孤児院への帰り道
淡い光が差し込む森の中、二人の少年が走っていた。
二人の前を逃げるように走っているのは全長二メートル近い大きな蜥蜴、森林亜竜蜥蜴である。
一人の茶髪の少年、クレイが右手に持った長剣を横に構え、逆刃に左手を添え、叫んだ。
「【結界光刃】!!」
長剣が光ったと思うと、刀身から衝撃波のようなものが放たれ森林亜竜蜥蜴を襲う。
「ギヤァァァァ!!!!」
擬似衝撃波が大蜥蜴の後ろ足に当たり、叫び声をあげた。それにより逃げる足も止まる。
するともう一人、黒髪大柄の少年が大剣を肩の鞘から抜き叫んだ。
「ナイスだクレイ! 【破壊魔剣】!!」
すると手にした大剣に黒い氣が纏われていく。その剣を上段に構え、森林亜竜蜥蜴に目がけて飛び掛かった。
「くらえッ! 【破壊滅斬】ッ!!」
完全に黒い氣に染まった大剣から繰り出される、派手なジャンプ斬りが森林亜竜蜥蜴に直撃。大蜥蜴の皮膚が爆発したように大きくえぐれ、更に断末魔をあげて動かなくなった。
「ブレイバス! やったか!?」
「ああ! 手ごたえ十分だ!」
先に衝撃波を放ったクレイがもう一人の大柄な少年、ブレイバスに声をかけ、答える。
二人でもう一度、森林亜竜蜥蜴のほうへ目を向け、動かないのを確認するとその場でハイタッチした。
「さ、手土産も出来たし、孤児院までの距離ももうそんなに無いよな?」
「ああ、そうだね。もう一段落だ」
ブレイバスが自身の魔法の効果を解き、仕留めた森林亜竜蜥蜴のほうへ一歩踏み出した時、二人がきた方角から綺麗な緑髪をした少女が姿を見せた。軽鎧を着こんでいる二人とは対照的に、日常と変わらない動きやすい上着に短パン黒タイツというラフな恰好。
「やっと追いついた! 二人とも速いっ!」
「おう、おせーぞリール! 取りあえず今森林亜竜蜥蜴を仕留めたところだ」
ブレイバスが追いついたリールにそう言うと、リールは森林亜竜蜥蜴の亡骸の方へ目を向け、笑顔になり口を開いた。
「お! いいね~! おっきくて脂乗ってそうっ! さっき採ってきた活力茸と付け合せで今夜は決まりかなっ!」
「ああ、そうだ……」
クレイが返事をしかけた時、三人は木々の向こうから何かがこちらに迫ってきている音に気がついた。音はすぐに大きくなっていき、その何かが既に近くまで迫ってきていることがわかる。
そしてそれは物陰から姿を現すと、そのまま三人に飛びかかってきた。
「はッ!」
「よッ!」
「とぉっ!」
三人は各々掛け声を発し、自分たちに襲いかかるそれを、それぞれ別方向に回避する。
一瞬前まで自分たちがいた地面に、通常のサイズの倍はあろう、巨大な森林亜竜蜥蜴の巨体がのし掛かる。
「おお~! コイツは更に大物だ! クレイ仕留めるぞ!」
丁度大蜥蜴を囲むような形になった三人。
実質リールは戦力外ではあるが、森林亜竜蜥蜴からすれば、自分の一撃を回避するほどの戦力が三人いるようにも写っているだろう。
「あぁ! ブレイバス! 連携2だ!」
クレイがそう言うと、すぐに二人は森林亜竜蜥蜴に仕掛けた。
「【破壊魔剣】!!」
ブレイバスが再び自身の魔法を展開した。大剣に氣を纏わせ、そのまま大蜥蜴目がけて突撃していく。クレイも別方面から長剣を構え森林亜竜蜥蜴に仕掛けて行った。
それらに対して、相手は自らの四本足を巧みに動かし、尻尾を横薙ぎに一回転させた。
「うおッ!?」
ブレイバスは急ブレーキをかけつつ上半身を反る事で、その一撃をギリギリかわす。
クレイは振り回される尻尾の下をかいくぐり、森林亜竜蜥蜴の懐に入る事に成功した。
「はあッ!」
懐に入ったクレイの右手に持つ長剣の斬撃が、大蜥蜴の後ろ脚を大きく切り裂く。
「グギャアアアッ!!」
その一撃で発狂した森林亜竜蜥蜴は、その場を逃れようとすぐに走り出そうとした。しかし足を斬られ、思うように動けずその場で暴れるように身体を動かす。このままではその巨体が暴れるだけで隣接しているクレイに被害が及ぶ。そこでクレイは左手を大蜥蜴の方へ広げ、叫ぶ。
「【結界障壁】!!」
クレイの左手から半透明の障壁が展開され、自身に迫る足だの尻尾だのの間に入り、自身を守る盾となる。
「ッ……!」
が、暴れる巨体の力は【結界障壁】の強度を上回り、障壁を砕いた上にクレイの身体を吹き飛ばした。
「クレイっ!」
リールは思わず叫んだ。しかしそれでなにか変わるわけでもなくクレイの身体は地面を転がる。
それでも障壁は多少、攻撃の威力を弱める役割を果たしたのだろう。クレイは回転受け身をとり、すぐに体勢を立て直し、相手の方へ目を向けた。
その間にブレイバスが既に森林亜竜蜥蜴への接近を終わらせていた。先ほどと同じように跳躍し、暴れる大蜥蜴に渾身のジャンプ斬りを放つ。
「【破壊滅斬】ッ!!」
通常以上の大きさである森林亜竜蜥蜴であったが、やはりこの魔法剣の威力には耐え切れず、皮膚を破壊され動かなくなった。
「よっし! 一丁上がり!」
ブレイバスは、その場でガッツポーズをした。そこにクレイも歩いて近づいてくる。
「お疲れさん、上手くいったね」
先ほどの一撃で痛めたのだろう、左肩を右手で押さえながらブレイバスに労いを言うクレイ。そこにリールも駆け寄ってきた。
「もうっ! 無茶してっ! クレイ、肩見せて」
リールはそう言ってクレイのケガをした肩に自分の右手を添える。
「【愛の癒し手】」
するとリールの手が淡い光を放ち、その光がクレイの肩に移る。クレイはその光で肩の痛みが和らいでいくのを感じた。
「でも、大した事はなさそうだね。すぐに癒えるかな」
リールが軽くそう言うとそれにブレイバスも続く。
「んなデカいヘマしねえだろ。しかし、大物が獲れたのはいいがコイツはデカすぎるな。担いでいくのも三人じゃ大変だし、孤児院に着いた後、もしくは明日にでも他の奴らも連れて取りに来ようぜ」
「うん、そうだねっ。他の野生動物に取られなきゃいいけどねっ」
「木に吊るせればいいけど、ロープもないし、木まで運ぶのも難しそうだしね。仕方ないか」
仕留めた得物のその後を決め、クレイの治療もある程度終えると、これから向かう孤児院の方角へ向きなおした。
「さて手土産が出来たのはいいけど、ここからが本番、だね」
クレイのその一言に、他の二人も苦笑いをして同意した。