三十三話 任務結果
『地烈悪魔討伐』
結果:
任務達成。
対象の首回収。肉体は完全消滅。
所要期間:帰還日時含め、十三日
派遣部隊:
【双竜】ラズセール兄弟率いる二個中隊160名
【賢竜】ミーネ・エーネル単身
隊外戦力3名
帰還者:
【黒竜】リガーヴ・ラズセール
【賢竜】ミーネ・エーネル
クレイ・エルファン
ブレイバス・ブレイサー
リール・ケトラ
【白竜】ヴィルハルト・ラズセール
追って帰還の予定
「────中々、物々しい結果になったわね」
王宮の一室、豪華な椅子に腰をかけた紫髪の魔法使い、【竜聖十将軍】の一人ミーネが一人溜め息混じりに呟いた。右手で今回の任務結果報告書をひらひらと振り、左手はブスっと頬杖をついている。
そんな時部屋の扉が開き、緑髪の少女が入ってきた。
「ミーネさんっ! ちゃんと戻ってきたんですねっ!」
ミーネを見つけた途端その少女は笑顔になりパタパタとそちらに向かっていく。
「リールちゃん! 貴女も無事でよかったわ!」
話しかけてきたリールにミーネも笑顔で返しながら立ち上がる。
「あの山でミーネさん、起きたかと思ったら私の魔法も受けずに『少し休んだら自分は転移魔法で帰る』とか言うんですもん! ミーネさんなら絶対大丈夫だと思っていましたけど、でも心配しましたっ! お帰りなさいっ!」
リールはそう言ってミーネに抱きついた。多少身長差があるため、ミーネの胸に顎を乗せるようにし、背中に手を回す。
通常、明らかに身分の違う相手に対しての軽率な行動。ミーネはそれに対しても決して嫌な顔一つせず、ポンポンとリールの頭を叩いた後、両手で脇腹を持ちあげて優しく離れさせた。そしてやはり笑顔で返す。
「フフッ! ええ、ただいま。あの時はリガーヴの治療に貴女の力が必要だったみたいだし、私の事まで貴女達に迷惑かけたくなくて。ごめんなさいね、私の転移魔法は自分にしかかけれないから」
「ううんっ! とんでもないですっ! 今回は本当に色々ありがとうございましたっ! でも、本当に怪我ないんですか?」
「ええ、山でも言ったけど、凶牛魔獣の爆発に対しては、ギリギリ防御魔法が間に合ったわ。それでもふっ飛ばされて気を失っちゃってたわけだけどね」
「……」
ミーネの返事に対しても、リールはまだ少し心配そうに顔を向ける。そんなリールの様子を見てミーネはローブの袖をまくり上げ、拳を握り細い腕に力コブをつくる動作をして見せた。
「ほら! 今はもうこの通り、元気そうでしょう?」
その様子を見てリールは再び笑顔になる。
「……うんっ! 元気そうです!」
リールはそう言うと今度は自身の胸元のペンダントに手をやった。
「あ、ミーネさん、あとコレっ! ミーネさんから貰った『聖魔の首飾り』っ! これなんか魔法増幅効果とかあるんですか!? コレが光ったかと思うとクレイの魔法、とっても固くなって凄かったですっ! 私もなんだかコレ身に着けてから魔法強い気がしますっ!」
高いテンションでリールは説明した。その質問に対してミーネは眉をひそめて返す。
「……らしいわね。私が持っていた時はそんな効果全然なかったんだけど、なにか使い方があるのかしら」
相手もペンダントの効果を知らないという事実に、リールはきょとんとする。そして最後の一言がなんとなく気になり口を開いた。
「使い方?」
「ええ、例えば、近くの人に対して効果がある、とか?」
「ん~、クレイの魔法、ずっと強いわけじゃなかったですよ? 訓練試合の時とかも結構近くにいましたけど、いつも通り簡単に割れてましたし」
そこまで言うとリールは顎に手を当て真剣な顔で更に考え出した。
「私も『強くなった』って感じたのはあの山でクレイやブレイバスの重症を癒している時と、クレイの【結界障壁】殴った時だけでしたし。それにもしそれだったらミーネさんが持っていた時も誰かに効果あったんじゃ?」
リールがそう言うと、ミーネは少し意地悪な顔をした。
「へぇ~、じゃあ、もっと特別な条件下の理由なのかもね。私が持っていた時と、リールちゃんが持っている時の事の違いにヒントがあるとか」
「特別な条件下の理由? 持っている時の事の違い?」
変わらずきょとんとしているリールにミーネはクスッと笑って話しかける。
「あ~そっか~、もしそうだとするなら、リールちゃんは二人に効果発揮したのか~」
「え、えー? なに? なんですか?」
身を乗り出すように聞いてくるリールから目を背け明後日の方を向きながら笑顔で返す。
「あとブレイバス君も効果実感するといいわね~、彼は別の理由で強くなったみたいだけど」
「もー、なにかわかったんですかー? このペンダントについてっ!」
困った顔をしているリールが非常にかわいらしく映り、頭を再びポンポンと叩いた。
「ん~ん、なんにも!」
「えー! ウソっ!」
そんなやり取りをしばらく繰り返していると、リールはハッとした。自分の身に着けている物の価値は、今まで思っていた以上に高いものなのではないだろうか、自分が持っていては悪いのではないだろうか、と。
「これ、そんなに凄いモノなら、やっぱりミーネさんにお返ししますっ。ミーネさんも効果わからず私にくれた物でしたよね?」
言いながらペンダントを外すために急ぎ気味で首裏に手を回す。
「ん~? いいわよ、あげたんだもの。それに貴女のほうが上手に使いこなしているんでしょ? その方がペンダントも幸せよ」
首裏に手を回したままリールは手を止めた。申し訳なさそうな顔をしながら相手に確認する。
「そう、ですか……?」
「その代わり、なくしちゃ駄目よ! 貴女にあげたんだから、ね?」
困惑気味のリールに対して、笑顔を向けながら人差し指を立てて忠告するミーネ。そんな態度を見てリールはいつも以上に笑顔になり、元気よく返事をした。
「……はいっ! ずっと大切にしますっ!」
「ええ! ……ところで、男の子二人はウチで騎士になるのよね? 今回の主役たちだもの、きっとリガーヴ達がいいようにしてくれるわ。でもリールちゃん、貴女はどうするの?」
「あー、うーん、わたしは、やっぱり帰ります。お父さんも心配しているだろうし」
ミーネのからの突然の問いに、リールは少し歯切れを悪くしたが、頭をかきながら笑顔で答えた。
「そうなのね……まぁ、それなら王宮の方で場所も手配させるけど、二人の騎士団入り見て行かないの? 多分、特例儀式をして騎士になると思うんだけど」
「え? そんなのあるんですか?」
ミーネからの意外な言葉に、リールは思わず聞き返した。自分はもう日をおかず孤児院に帰る予定をしていたので、その考えも揺らぐ。
「ええ、リガーヴが手配してくれるでしょう。あ、でもアイツも忙しいから手が回らないようだったら私が推薦しておくわ」
「ありがとうございますっ、それと流石ですっ、偉い将軍さんですもんねー」
その権限の強さと、一般市民以下の立場の自分たちに気を使ってくれている事実に、リールは感謝感激に加え改めて尊敬する。そこでミーネが言ったことの一つが少し気にかかり、深く考えず聞き返した。
「リガーヴ将軍、こんな大変な任務終わったあとなのに、まだお仕事いっぱいあるんですか?」
「いえ、仕事というか……」
リールの質問に、ミーネは目線をそらし少し悲しげな顔をしながら細い指で頬を掻いた。




