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三十二話 決着

 クレイ達と地烈悪魔(ガイアデーモン)の戦いがあった場所から、大きな谷を挟んだ先、流れてきた煙が地面に落ちた。

 落ちた煙は形を成していき、暫くし地烈悪魔(ガイアデーモン)が倒れこむように姿を現した。


(撤退を余儀なくされるとはな……)


 自身を煙に変えることが出来る悪魔の生態(・・)。そして爆発の副作用として煙が発生する【終焉炎槍(ボルカニックエンド)

 それらを利用し、地烈悪魔(ガイアデーモン)は自身が自爆し消滅したとみせかけ、煙に紛れ戦いの場から離脱していた。


(しかし、今死ぬよりはいいだろう……まだ、私にはやるべき事が……)


 悪魔は立ち上がり、おぼつかない足取りで山道を歩いていく。先程消し飛ばされた左手も形をなしてはいたが、その身体の様子は明らかに先程とは違った。歩きながらも、悪魔の身体は少しずつ煙に変わり霧散したり、また肉体に戻したりとしていた。身体を維持出来ないほど弱っているのだ。


(凶牛魔獣(ベヒーモス)の復活はもう無理だな……私の命、残りをどう使うか……)


 やや上り坂である消耗した身には堪える道を、下を向きながら暫く歩いていた悪魔だったが、こちらに伸びる長い影を見つけ足を止めた。頭をあげると十数メートル先に、夕日に照らされた茶髪の少年がこちらを見下ろす様に立っている。地烈悪魔(ガイアデーモン)はその少年を見上げ、相手の名を呼んだ。


「クレイ……」



「やはり生きていたのですね、オーランさん」


 クレイは長剣を片手に、前方の悪魔に話しかけた。相手は苦笑いを浮かべ、返事を返す。


「よくわかったな……しかしわかった所で、君は一体どうやってここまで来た?」


「【結界飛翔(フォースウイング)】を連続で展開することで、崖に落ちることなくこちらまで跳んできました。消耗の少ない魔法とは言え、戦闘後の十数回連続使用は流石に堪えましたよ」


 お互い答え合わせをした所で、クレイは右手を伸ばし長剣の切っ先を相手に向けた。


「貴方を逃がすわけにはいきません。『地烈悪魔(ガイアデーモン)討伐』任務、ここで果たさせてもらいます」


 決意を込め、明らかな攻撃宣言を相手に行う。クレイのその眼の奥は冷静に、しかしハッキリと燃えていた。


「私も消耗しているが、それは君もだろう? クレイ」


 そんなクレイに対し、悪魔が笑いながら警告をする。『戦いになれば分は悪いぞ』、と。

 事実、クレイは傷は治して来たものの、先程までの戦いで失われた血と体力までもが回復したわけではない。


「しかもこの場には君ひとり、今は『聖魔の首飾り(ルシフィックオーブ)』による支援もないぞ」


 更に続く、文字通り悪魔の囁き。先程の戦いで何やら効果を発揮したらしいリールのペンダントについてクレイは答えた。


「既にリールから受け取っているとしたら?」


 これはハッタリである。『聖魔の首飾り(ルシフィックオーブ)』の詳細が解らない以上、どんな副作用があるかもわからない。クレイはペンダントを持ってきてはいない。相手が少しでも動揺してくれれば儲けもの、という考えで言い放った。それに対する悪魔の反応は、苦笑だった。


「……フッ、まさか『聖魔の首飾り(ルシフィックオーブ)』がどんな物かもわかっていなかったとはな」


「……」


 クレイは答えない。相手の言う事は図星なのだが、こちらから仕掛けたハッタリに、こちらが動揺するわけにもいかない。至極無表情を維持し沈黙する。

 少しして、再び悪魔が口を開いた。


「提案がある。見逃してくれないか? ここで私とやり合っても君が勝てるかどうかわからんぞ?」


「……」


 まさかの相手からの明確な停戦提案。これに対してもクレイは無表情を貫いた。悪魔はその様子を好機ととったのか、やや得意げに話を続ける。


「我々【闇部族(ダークネス)】にも事情がある。今回こうしなければならなかった事情がな。説明してもわからんだろうが、仕方がなかったのだ。立場は違えど大義というものがある。それに、満身創痍の君も本当は命の危険を冒してまでこれ以上この場で戦いたくなどないだろう?」


「……オーランさん」


 ブレイバスや他の兵士が聞いたのであれば激昂しそうな言い分。悪魔もおそらく、『言わないよりは試しに言ってみるか』といった心境なのだろう。もしくは敢えて怒りを誘う作戦か。クレイは、それすらも冷静に聞き切り、そして口を開いた。


「貴方には貴方の正義があるでしょう、別にそれを否定するつもりはありません」


 そこまで言うと、クレイは威嚇のように伸ばした長剣を引き臨戦への構えをとった。


「僕は僕の正義を貫きます」


 その様子をみて、悪魔の顔から笑みが消え、真っ直ぐな目に変わる。


「……君は騎士志望だったな」


「……」


 悪魔の突拍子な問いかけ。クレイは答えない。


「認めよう。君たちのような者こそ、真の騎士にふさわしい」


 悪魔はそこまで言うと背筋を伸ばし、自身も剣を構えるように両手の爪を前に出した。人間から見て、多少長かった程度の爪が長剣に近い長さまで伸びる。それだけの行動でも力を使うのだろう。また少し、悪魔の身体が煙となり消える。


「『オーラン・タクトミス』は仮の姿の名。……本当の名を名乗ってはいなかったな……我々【闇部族(ダークネス)】には他種族と違い、ファミリーネームはない」


 そこまで言い、一息をついて、悪魔は名乗った。


「【地烈悪魔(ガイアデーモン)】ベルダーグだ────いざ」


 その言葉に、過去聞いたものと同じ言い回しに、クレイも返す。


「……クレイ・エルファンです────尋常に」


 その時、やや強めの風が吹き、木の葉が舞った。その中の大きな一枚が二人の丁度中間に落ちた時、二人は同時に動いた。


 地烈悪魔(ガイアデーモン)の黒爪による振り下ろしをクレイは長剣の振り上げで返した。金属のような物ががぶつかり合う音が響き渡る。悪魔の爪に、予想ほどの重みはなかった。

 悪魔は力では抑えきれないと見るや否や爪を引き、突きに切り替えた。突剣によるソレとは違う、五又(いつまた)の爪、更に両手で行うことにより、突きの速度は単純に倍。変則な動きをする十の凶刃。しかし、弱った悪魔から繰り出されるそれらに、決してキレ(・・)は無かった。クレイは長剣による捌きと自らの身のこなしで丁寧にかわす。

 そうしているだけで、悪魔の肉体が更に消耗していくのがわかる。ギリギリで留めていた身体が力を込める度に少しずつ煙となって霧散していく。

 突きの(パワー)も速度も弱まっていった頃、クレイは攻勢に出た。こちらの斬撃は相手の大爪により防がれる。しかし、弱っていく悪魔に対して傷はほぼ治してきたクレイ。力関係は既に逆転している。クレイはそのまま長剣によるラッシュを浴びせると、戦況はすぐにこちらに傾いて行った。


 しばらく続いたラッシュの後、相手の隙を突いて悪魔の右手を斬り飛ばす。五又の矛は回転しながら宙を舞った。クレイはすぐに剣を構えなおし、今度は悪魔の胴に狙いをつける。

 その時、悪魔は笑いながら左手をこちらに広げて向けていた。そして、唱える。


「【流星炎槍(ボルカニックボルト)】!」


 左手から火球が発射される。しかし、先ほどのような人を丸呑みにする巨大な物ではなく、人間の姿の時に放っていたものよりも更に小さな火球。

 クレイは放たれる火球を長剣で両断し、その勢いのまま悪魔の胴を切り裂いた!


「────見事」


 斬られ、崩れ落ちる悪魔は、変わらず笑っていた。それは、罠に嵌めたような嘲笑ではなく、何かに満足したような晴れやかな笑み。

 悪魔の首が地に着くと同時に、その肉体は煙となり、霧散し消えてゆく。そしてそこには、目を閉じた悪魔の首だけが残った。


 クレイはその首を見下ろし、長剣を鞘に納めると、独り静かに呟いた。


「初めから一対一だったならばきっと僕が負けていたでしょう。しかしこの戦い、僕が勝利(せいぎ)です」

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