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三十一話 死闘の結果

「フッ 出来ればお前を生け捕りにして洗いざらいはかせたい フッ」


 キモい白スライム・ヴィルハルトが這いつくばる悪魔に話しかける。ブレイバスは傷だらけの中、悪魔を睨むように仁王立ちし、クレイはリールに脇腹を治癒して貰いながらも、やはり自分の足で立っていた。


「フッ しかし、我々も私怨の感情で動きたい時もある。貴様のように大きな恨みがある相手には特に、な フッ」


 口調はいつものままに、しかし明らかに怒気を纏ったキモイムが話を続けた。無い顎を上にあげ、相手を見下ろそうとする。ジェルに押さえつけられ頭を地面にこすり付ける悪魔に対して、何とか見下ろす高さをつくる事に成功した。


「フッ よって、とりあえず簡単な質問だけしてみようか。お前の口の堅さを試してやろう フッ」


 そう言いながら、周囲のジェルをいくつか棒状に変化させ、更に先端を尖らせ地烈悪魔(ガイアデーモン)のほうへ矛先を向けた。


「フッ オーランお前、どうやって地震を起した? フッ」


 今回の騒動の発端となった、地烈悪魔(ガイアデーモン)が目覚めただけで起きたと言われる地震。

 悪魔は確かに強かった。しかし、今回の地震が悪魔の戦闘能力そのものに関係しているのであればこの程度ではなかったはずだ。ヴィルハルトの意図はそこの真偽の確認だった。この問いに対して、悪魔はあっさりと口を割った。


「……封印の副作用だ。数百年前悪魔の身体に施された強固な封印は、解けると同時に膨大なエネルギーを発揮し、それで地震が起きた。……副作用とは言ったが仕組まれたことかもな。封印が解けた合図(・・)が人間に伝わるように、と」


 クレイは思考した。これが本当なら『封印された側』ではなく『封印した側』の仕業、と言う事になる。更に悪魔は、こちらが聞いてもいないことを話し出す。


「悪魔の力を封印され、その封印が解けるまでの長い年月、人間としてこちらの世界ですごしていたわけだが、人間とは中々面白いものだな。地上でもっとも繁栄し、種同士で争う事でより強くなっていった種族。我々には、いやお前たちが『亜人種』と呼ぶ全ての種族からしたら信じられない事だろう」


 しかし、その口調は『観念した』というには強気な挑発するような態度。悪魔は続ける。


「人間共はすぐに思い知るだろう。もう種で争っている場合などではないと。私の役割は『監視』及び『報告』。私の死をきっかけに、我々【闇部族(ダークネス)】は動き出す! そのために、人間共を結束させないために、ここで生存者を出すのは好ましくない!」


 地に伏せている悪魔が不気味に笑った。その瞬間、ヴィルハルトが展開していた白い槍を悪魔に向かって放つ! その槍が悪魔に当たる瞬間、悪魔が呪文を唱え終わる。


「【終焉炎槍(ボルカニックエンド)】!!」


 そう唱えると同時に悪魔の身体が大爆発を起こした。



 悪魔が爆発し、自分たちはそれの回避も防御も間に合わなかった。クレイはそう確信した。しかし、爆風が自身に届く瞬間に、何かが自分たちを包み込み、爆発から自分たちを守る盾になった。

 爆音が治まった時、盾となっていたソレはゆっくりと剥がれ落ちた。表面は真っ黒に焦げ、いく分かは燃え尽きている。ヴィルハルトの魔法、【全てに融け込む白(アイ・ラブ・ミ-)】による白いジェル。それが自分たちを守ったようだ。クレイはブレイバスのほうへ目をやると相手と目が合った。ブレイバスも同じ状況と心境のようだ。悪魔がいた場所は爆発によってできた跡以外には、何も残っていなかった。そしてヴィルハルトの方へ目をやると────


「フッ ……やるじゃないか フッ」


 ────そこにあったのはもはや生首でもなかった。先ほど顎が無くなる程度まではあった顔が、現在口まで無くなり鼻の高さから白いジェルに変化し地面についている。つまり、ヴィルハルトは顔の上半分のみのスライムと化していた。もはやどこから声を出しているのかわからない。


「フッ 自らの口封じの自爆、か……更に私をこれほどまで消耗させるとはな…… フッ」


 口のないスライムが目を閉じながらそう語る。おそらくキメ顔なのだろう。だが、そのスライムは、今尚も少しずつ形を崩し、地面に沈むように消えて行きつつあった。


「ヴィルハルト将軍!」


 クレイは呼びかけた。するとヴィルハルトは目を開ける。


「フッ ……クレイ、ブレイバス、リール…… フッ」


「はっ!」

「はいッ!」

「は、はいっ……」


 消えゆくヴィルハルトの呼びかけ返しに三人は各々返事をする。


「フッ そんな目をするな……私は大丈夫だ。しばらく活動は無理になるがね。お前たちが無事でよかった…… フッ」


 今までにないほど弱った、普段は余裕以外の表情を見せない飄々とした最強の男(ヴィルハルト)。その様子を見て、三人は言葉を詰まらせた。その男のかつてないほど優しい言葉が、そして身を挺して自分たちを守った事実が、三人の心に突き刺さる。


「フッ お前たちに命ずる。リガーヴ、ミーネ、その他生き残りの兵士がいれば……それらを連れて王都へ戻り、事の報告を行え……私もいつかは元に戻……」


 そこまで言ってヴィルハルトは完全に姿を消した。周りのジェル及びその残骸も同時に溶けてなくなる。最後まで言い切れなかった言葉だったが、ヴィルハルトが消えた後、確かに『フッ』と聞こえた気がした。

 そこで、ブレイバスが尻餅をついた。


「あ、あれ?」


 ヴィルハルトの言葉通りならば、彼は決して死んでしまったわけではない。これ以上犠牲が出なかった事による安堵により気が抜けてしまったようだ。

 先ほどまで怒りの感情で動いていたこと、感情に左右される【筋肉譲渡(マッスルシフト)】の効果切れによる反動が、気が抜け倒れた身体を起こすことを許さなかった。


「ブレイバスっ、大丈夫?」


 リールが声をかけ、ブレイバスに駆け寄る。


「あ、ああ、でもなんか、立てねぇ」 


「もうっ、しっかりしてよっ! これからみんな連れて帰らなきゃっ!」


 ブレイバスもリールも、色々な感情が駆け巡りながらも、自身に迫った脅威は去りとりあえずは安心している。クレイも同じような心境だった。これからするべき事は沢山ある。わかっていながらも、少し気が抜けていた。何の気も無しに空を見上げる。悪魔の爆発によって発生した煙が、霧散しながらも崖の向こうへ流れて行っている。その様子を見ながら、クレイは口を開いた。


「リール」


「うん?」


 呼ばれたリールは返事をした。日常に戻ったかのようなきょとんとした瞳がクレイの横顔を映す。クレイもまたリールの方を向き、話を続けた。


「僕の脇腹、【愛の鉄拳(アレ)】で治せる?」


「……多分癒せるけど、痛いよ?」


「どうしたんだ? クレイ」


 クレイの提案に、リールとブレイバスは首を傾げた。

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