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二十三話 封印されし者

 【双竜】の部隊は先日以上に周囲を警戒しながら進軍していた。しかし、その警戒をあざ笑うかのように、三日目以降の進軍はほとんど猛獣とは遭遇しなかった。かわりに進軍するにつれ木々の密集度と辺りの湿気が増え、暗く重苦しい雰囲気が増していった。

 そんな日々が一日二日と過ぎ、三日目、つまりはボルズブ山脈に足を踏み入れて実に五日目に入り、更に日が落ちかけていた頃、一つの洞窟が目に入る。

 入口の岩が黒く変色しており、結界のような護符が大量に巻きつけられていた。入口だというのに非常に禍々しい、近寄りがたい雰囲気が漂う。


「フッ あそこだな、地烈悪魔(ガイアデーモン)が封印されていたとされる洞窟は フッ」


「……この人数でなだれ込むこともないだろう。俺の小隊で状況を見てくる」


 リガーヴの言う『俺の小隊』とは、先日オーランから指揮権を奪い取った隊、つまりクレイとブレイバスも含まれることになる。リガーヴ、オーラン、クレイ、ブレイバス、その他8人の計12名。

 対象である各々の顔が引き締まる。


「フッ 何かあればすぐに知らせろよ? フッ」


 ヴィルハルトが答える。リガーヴ隊とは対照的にこの男は既に休憩する気満々のようだ。近場の岩に腰を下ろし、どこから取り出したのかワイングラスに何やら飲み物をついでいる。


 洞窟の異様な雰囲気に、クレイはやや侵入することを躊躇した。他の者も少なからず同じ気持ちだろう。

 そんな周囲の心境を察してか元々の度胸の問題か、将軍であるリガーヴが率先して歩いて行く。その様子に慌ててオーラン達数人が前面に駆け出した。


◇◇◇◇◇


 洞窟の中は外以上に辛気臭い場所だった。足音さえも不気味に反響する音、ジトジトとした空気、蝙蝠や大き目のムカデのような生き物など、その全てが人間を不快にさせる。

 通路自体は単調且つ広めなため、明かりさえあれば何かから不意打ちを食らう危険性は少ない。一行は誰一人、一言も口にせず、黙々と奥へ進んでいく。


「……地烈悪魔(ガイアデーモン)とはどのようなものなのでしょうか?」


 その沈黙の中、クレイがつぶやくように疑問を口にする。

 そもそも伝説に近い存在の【地烈悪魔(ガイアデーモン)】。

『その昔、国で大暴れして、山奥に封じられた』程度の伝承しか浸透していない存在。今回の地震がなければこの先半永久的に誰もこんな危険な山奥まで来ることはなかっただろう。


「……人間に近い背丈で、神話なんかでよく聞く悪魔そのまんまの恰好だって聞くよ」


 クレイのつぶやきにオーランがわざわざ答えてくれた。

 額から生える一本の角、背中に生える蝙蝠のような禍々しい翼、爬虫類のような歪な尻尾、指先には長く鋭利な爪、全てを塗りつぶしそうな漆黒の肉体。

 それが一般的な悪魔のイメージ図だ。クレイはそれを想像する。


「……そうですか。ではなぜその存在が今、このタイミングで目覚めたのでしょうか?」


「さあね。たまたまじゃないか? 伝承が曖昧すぎて、そもそもなぜ殺害せずに封印したのか、どのような封印なのか、我々でも殆ど知らされていないからね」


「……無駄話をするな、着くぞ」


 そこまで話したところで、その会話をリガーヴが遮る。そしてその後すぐに洞窟の最深部と思われるところまでたどり着いた。

 その中央にある、人間の背丈の倍以上ある巨大な甕が目に入る。続いてその足元付近の地面に甕の蓋であろうものが落ちており、更にそのすぐ横に人の形をした黒い物体がうつ伏せで倒れているのが見える。


 額から生えた一本の角、背中には大きな蝙蝠のような禍々しい翼、尻尾は爬虫類のモノに似たそれでいて歪な形、指先から生えるのはその指と同程度の大きさの長い爪、全てを塗りつぶしそうな漆黒の肉体。おおむねイメージ通りの存在。

 ────悪魔。

 目覚めただけで、今回の地震を起こしたとされる【地烈悪魔(ガイアデーモン)

 悪魔の肉体は死んでいるかのように動かない。しかし、目だけは虚ろに開いている。


「……囲め」


 リガーヴが指示と共に兵士たちがその悪魔を扇状に包囲する。

 その動作が終わって尚、悪魔は動かない。瞳だけがどこか遠くを見るように眼球を動かしていた。


「……」


 リガーヴは行動を決めかねていた。国ごと滅ぼしかねないと言われるほどの悪魔が、大部隊を率いて辿り着いた討伐目標が、到着時に既に無様に地にふせ死にかけているのだ。 

 あっけなさを感じる反面、どこか不気味な、警戒に足るものも感じる。

 周りの兵士たちも同じような心境である。不用意に近づいて、罠にはめるように突然襲い掛かられるようなことには誰だってなりたくはない。それでも、号令一つですぐに行動できるよう構えていた。

 しばしの沈黙。それを破ったのはオーランだった。


「……ここは私が」


 そう言うと、しっかりと、それでいて素早い足取りで悪魔に近づく。


「────待て!」


 リガーヴがオーランを制止するが、言い終わるより早くオーランの細剣は悪魔の首を刎ねていた。

 悪魔の瞳から生気が完全に消える。────それと同時に、切り口から黒い霧が大量に噴き出した!


「なんだぁッ!?」


 ブレイバスが叫ぶ。しかしそれに答えられる者はいない。

 霧は瞬く間に広がり、洞窟の一室を覆い始める。


(これは────なにかヤバい!)


 クレイも胸中叫んだ。周りも全員同じ気持ちだろう。


「総員撤退!」


 リガーヴの号令と共に、蜘蛛の子を散らすように部隊は走り出した。

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