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二十二話 謎が呼ぶ謎

 まだ日の上らない時間、ブレイバスは目を覚ました。どうやらテントの中で寝かされていたようだ。

 ブレイバスは自分の置かれた状況を思考する。大蛇の口に入ってからの、昨日の記憶がはっきりしない。

 周りを見渡すと、左右にそれぞれクレイとリールが寝息を立てていた。なにやら穏やかな日常のようなその光景に軽く笑みがこぼれた。

 起き上がろうとすると倦怠感と鈍い痛みが身体を襲う。


「ッ……! あぁ~……」


 その物音に気付いたのか入口からブレイバスと変わらない大男が姿を現しこちらに声をかけた。


「おお! 起きたかブレイバスッ!」 


「おお、おっさん、見張りしてくれてたんすか……」


 カイルはそこでブレイバス以外の二人がまだ寝ていることを思い出し、声を小さくした。


「あの時はもうダメかと思ったぞ。しかしリールがここまで強力な回復魔法の使い手だったとはな」


 そう言われると、ブレイバスに少し前の記憶が戻ってきた。

 腹の痛みが戦闘で受けたダメージとは別の痛みのものだと思いだし、顔を引きつらせながら少し腹を撫でた。

 しかしゼイゲアスの回復魔法を無しで、あの状態から回復したことが信じられないブレイバス。もう一度寝ているリールに目を向け、フッと笑う。


「どのような魔法かは見ておらんが、これならこの先多少無茶をしても大丈夫そうだな」


 感心するように言うカイルに、ブレイバスはニヤッと笑みをこぼし、答えた。


「おっさんもヤバくなったら魔法かけてもらうといいっすよ」


◇◇◇◇◇


 昇り始める朝日が樹海の広がるボルズブ山脈にも日を差し込み始めた頃、【双竜】の部隊は出発の準備をしていた。

 

「ブレイバス、本当に体調は問題はないのか?」


「ああ、おかげさんでな。心配かけたな」


 クレイたちもまた同じようにテントをしまう作業をしながら他愛のない会話をしていた。


「いやー、一時はどうなるかと思ったねっ。でも無事でよかったっ!」


「おう、ありがとよ。だが、何をやるか事前に言ってくれてもよかったと思うぜ」


 やけに嬉しそうなリールに、昨日の礼を言いながらも少し皮肉のような忠告をするブレイバス。

 しかしリールにはその意図が伝わらなかったようだ。変わらないテンションで話を続けてくる。


「えへへっ、でもこっちこそ昨日ありがとねっ。ブレイバス」


「ん? ああ……おう、気にすんな」


 言われてブレイバスは重傷を負った原因がリールを助けた事から始まったことを思い出す。


「フッ すっかり回復したようだな フッ」


 突如、相変わらず何もなかったはずの方向から声が話しかけられる。しかし、そんなことにもその声の主にも、もう慣れてしまった。もはや完全な平常心で三人はそちらに振り向き返事をした。


「おはようございます。ヴィルハルト将軍」

「おはよっす。ご心配おかけしました」

「おはよーございますっ! ヴィルハルト将軍、今日も絶好調な輝きっぷりですねっ!」


 視線を向けた先には、足を交差し両手を広げた謎のポーズのヴィルハルトが立っていた。その後方にはリガーヴと他数人の兵士たちが歩いてくるのが見える。

 三人から挨拶をされたヴィルハルトは「フッ ハハハッ フッ」とよくわからない笑いをして、ポーズはそのままに、左手だけ顎に添えブレイバスのほうをマジマジと見た後、本題に入るように切り出してきた。


「フッ しかし本当に驚いたな。あの状態から一晩でここまで回復するとは。リール、これも君の魔法(ちから)かい? フッ」


「はいっ! 凄いでしょ! これからは大ケガしても頑丈な(つよい)人なら大体すぐ癒せますよっ!」


「……」


 えっへん、と胸を張るリール。それを見て冷や汗を垂らし目をそらすブレイバスとクレイ。


「フッ 頼りにしてるよ フッ」


 ヴィルハルトはそこで言葉を区切り、すこし神妙っぽい表情をして続けてきた。


「フッ それと、昨日はすまなかったね。超極大紅蓮猛毒蛇レッドヴァイパー・キングを一体仕留め損ねた。それがそちらに向かってしまったようだ フッ」


 昨夜遭遇した三匹の巨大な紅蓮猛毒蛇(レッドヴァイパー)。やはりそのうち一体はヴィルハルトが仕留めたもののようだ。ラムフェス最強の【竜聖十将軍】の一人、【白竜】ヴィルハルト・ラズセール。普段飄々とした態度と恰好のこの男もまた、弟リガーヴに勝るとも劣らない実力を持っていることになる。


「……」


 追いついたリガーヴが何かを訴えるようにヴィルハルトに視線を向ける。その意思を察したかのようにヴィルハルトがポーズを解いた。 


「フッ わかっているさ、では本題に移ろう フッ」


 これもまだ本題ではなかったようだ。更にそこで区切り、一呼吸おいて続ける。


「フッ 昨日、超極大紅蓮猛毒蛇レッドヴァイパー・キングと言ったが、あれは誤りだった フッ」


「誤り?」


 クレイは聞き返す。名称などなんでもいい話ではあるが、デタラメな大きさな大蛇が昨日夜営中現れたことは事実なのだ。


「フッ あれは、やはりただの紅蓮猛毒蛇(レッドヴァイパー)だ フッ」


「……え?」


 ヴィルハルトの発言の意味が分からず聞き返す。


「フッ 夜間、見張りから報告があった。超極大紅蓮猛毒蛇レッドヴァイパー・キングの死骸が、急に萎んでいった、と フッ」


「……」


「フッ すぐに確認に向かうと、その通りだった。昨日の戦いで奴らの死骸はそこらじゅうにあるが、あのデカブツがあった場所には、傷の位置までそっくりの普通と変わらんサイズの紅蓮猛毒蛇(レッドヴァイパー)だったのだ。そもそもあんな尻尾の先も見えない、冗談みたいなサイズの蛇が何匹もいるのがおかしい話だ フッ」


 そう言うと近付いてきた兵士たちが持ってきた網から、通常サイズの紅蓮猛毒蛇(レッドヴァイパー)の死骸を転がした。一匹は頭を完全に粉砕されたもの、もう一匹は頭をこじ開けるように切断されたもの、最後の一匹は何やら白いものがまとわりついてミイラのようになっているものだった。

 昨日リガーヴとヴィルハルトが撃破した超極大紅蓮猛毒蛇レッドヴァイパー・キングと同じ損傷状態である。


「……一体どういう事なんです?」


 生物が一晩でここまで急激に縮まるなど聞いたことがない。その理由を聞こうとする。


「フッ わからん フッ」


 が、かえってきたのはあっさりとした言葉だった。


「……ただ一つ言えることは、これからの進軍も、あんなことが起こっても不思議ではないという事だ」


 そこに真剣な顔つきで現状捕捉するリガーヴ。


「……」


「各自より気を引き締めろ! 今まで以上の障害が待ち構えている! だが予定通り辿り着くぞ!」


 リガーヴの号令に、兵士たちは顔つきを強固なものにした。 

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