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二話 孤児院の日常

「で、まーた喧嘩してたの?」


 クレイとブレイバスに対して、目の前の小柄な少女、リールが三つの皿にスープを入れながら言ってくる。

 綺麗な緑色の髪がうなじが隠れるかどうか位までの長さで整っており、透き通るような青い眼の奥には呆れた、という想いがにじみ出ていた。

 ブレイバスは目の前に置かれた小振りのパンを掴み、同じく置かれている蜥蜴肉とまとめて口へ押し込みながら、不機嫌そうに答える。


「喧嘩じゃねーよ。戦闘訓練だ」


「そう。それで状況予測が的確で、臨機応変さも兼ね備えた僕の勝利」


「二人の【魔法】は強いし下手したら喧嘩でも死んじゃうよー。危ないからやめてっていつも言ってるのにー」


 ────【魔法】

 それはこの大陸の人間、あるいは亜人と呼ばれる種族が扱う原理が解明されていない不思議な力。

 様々な種類が確認されているが、どのような魔法が使えるか、あるいは得意か不得意か、非常に個人差が大きく、魔法そのものを使えるようになるきっかけも千差万別。解明されていないことが多いため、魔法の教育機関は殆ど存在せず、大陸全体でも扱えるものは一割もいない。生活や実戦で役に立つ魔法を使える者など更に半分を切る。

 そのため、魔法の名称自体も使用者が名づける事が殆どであり、クレイとブレイバスの魔法名もその例外ではない。


 学者の中には『あらゆる人間が魔法を使えるがその多くは自分の才能に気付けないまま一生を終える』と唱える者と『天に選ばれた特別な者のみが魔法を扱える』と唱える者で意見が分かれている。


「しかしさっきのアレはいつどうやったんだ? さっぱりわからなかったぞ」


「【結界障壁(フォースシールド)】を展開した時に同じものを右足のつま先からもコッソリ出して、そこに君が来るように誘導したのさ。あの地面の破片にそのまま破壊されないか少しヒヤヒヤしたけどね」


「ぐう……しかしまだ49戦25勝24敗だ。俺のほうが勝ち越している」


「力じゃ君に敵わないからね。試行錯誤した結果さ。まあ結構運も絡んだけど。それに正々堂々勝つことが全てじゃあない。戦争じゃ生き残った者勝ちさ」


 機嫌よく語るクレイに、頬杖をついてブスッとしているブレイバス。そんな二人を横目で見ながらリールはある事に気が付いた。


「あ! ほら、クレイまた怪我してるっ!」


 先ほどブレイバスから蹴りを喰らい、回転受け身をとった際に負った傷だろうか。左の肘から血が出ている。

 皮がめくれ、傍からみてもかなり痛そうな傷であった。


「腕見せてっ!」


 リールはクレイにパタパタと駆け寄るとそのままケガをしている腕を掴んだ。

 そして少し力を込め、唱える。


「【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】」


 呪文と共にリールの手の平が淡い光を放ち、その光がクレイの傷口のほうに広がる。

 クレイは少し痛みが和らいでいくのを感じた。そのまま真剣な顔で傷口を握り続けるリール。


「おー、お前ら、他の奴らは外で遊んでいたぞ? お前らはまだ飯食ってねえのか」


 そこに一人の、中年の大男が入ってきた。

 身長は三人の中で最も高いブレイバスより更に高く、髪の色はリールと同じ緑色だが、ボサボサ頭で山賊のような厳つい顔つきをしている。ドアを無造作に開けたその腕は丸太のようにゴツく、それだけで『少し力を込めればドアをそのまま破壊しそうなほどの腕力の持ち主』である事が伺える。


「あ、お父さん」


「ゼイゲアス先生、お帰り」


「先生遅かったっすねー、飯は今まさに食ってる所っす」


 突如現れたその大男に向けて、リールから順に三人は思い思いに返事をする。

 その男ゼイゲアスは、三人を見渡しリールがクレイに【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】を使っている様子を見ると、すぐにそちらに歩みを寄せた。


「あ~、リール、それじゃあダメだ。どれ! 貸してみろ!」


 ゼイゲアスはそう言うと、リールの手を無理やり引っぺがした。

 【愛の癒し手(ヒーリングタッチ)】の光は消え、リールがちょっと不意を突かれた表情を見せる。それを気にすることなく、クレイの傷口に手をかざし叫んだ。


「【絶対的安静(キュアプリズン)】!」


 今度はクレイの傷口が腕ごと緑の筒に包まれた。同時に腕の感覚がなくなる。

 いや、感覚だけでなく物理的に全く腕を動かすことが出来ない。


「これくらいの怪我なら完治まで1、2分ってとこだな。リール、お前じゃまだコレを治すのに1時間程かかるだろう?」


 顎に手をやりながら得意げに言うゼイゲアスに対して、リールは口を尖がらせほっぺを膨らませた。

                                  

 クレイ達二人が殺傷能力のある魔法で実戦訓練をしていたのも、このゼイゲアスの魔法【絶対的安静(キュアプリズン)】を頼りにしていたところが大きい。後で治してもらえると分かれば死にさえしない限り、思いっきり力を試すことが出来る。

 まだ17歳の二人だったがここまで攻撃的な魔法を使いこなしているのは、魔法を習得してから何度も無茶しながら訓練を積んできたからという背景があったのだ。


「しかし明日、出るんだよな? お前ら」


 ゼイゲアスはリールから視線を外すと、今度は男二人に言葉を投げかける。


「ええ、4日後王都で騎士団の魔導師枠試験があります。僕とブレイバスはそれで騎士団に入ります」


「最初、反対してた先生も、最近は乗り気っすねー」


「お前らが言っても聞かねえからな。まあ同じ男だ。気持ちは受け取る! やるからにはしっかりやってこいよ!」


 ────大陸の北の国、ラムフェス王国の辺境にあるこの場所は、ゼイゲアス・ケトラが建てた孤児院である。現在総勢十人にも満たない小さな孤児院。

 十年以上前、クレイとブレイバスはゼイゲアスに拾われ、ここで育てられた。


 クレイとブレイバスが騎士団に入ろうとしている目的は二つあった。

 一つは金を稼ぐことで、今まで育ててくれたゼイゲアスに恩返しをしようということ。

 そしてもう一つは、自分たちの親の事を知るためだった。有名な騎士団に入り情報収集量を高め、いつか自分たちの親の事を知り、自分が何故孤児となったのか知りたかったのだ。

 良き育ての親、良き仲間とも巡り会え、孤児院での暮らしには不満は無い。そのため生みの親に対して恨みがあるわけではなかった。ただ、自分の出生が気になっただけである。

 最初は危険だと反対していたゼイゲアスも二人の熱意に負け、認めているようだ。


「あ、それでお父さん! 私も二人についていくっ」


 目を輝かせながら手をあげて言うリールにゼイゲアスは驚いた。しかし何かを言う前にリールが畳みかけるように話を続ける。


「大丈夫だって。ちょっと二人の騎士団入り見たいだけっ。試験終わったらすぐ帰るからさー。ねっいいでしょ? 私ももう15才だしさっ。二人も一緒だしっ」


「ダメだダメだ! 遊びに行くんじゃねぇんだぞ! 男の門出の邪魔をするな!」


 声を荒げ止めるゼイゲアス。そこに二人も加わる。


「そうだよリール、それに王都までは馬車で三日かかる。行きはともかく帰りはどうするんだい? 僕たちは騎士になればすぐには帰れないだろうし、君一人で帰らせるわけにもいかなくなる」


「行きの金出してくれんのも先生だからなー。俺らとしても逆らえねーよ。あと、試験落ちた場合も帰りは歩きだからな? 落ちる気ねーけど。ま、区切りがついたら土産もって顔出すからよ、おとなしくココで待ってな」


 場にいる全員に止められ、リールは再び頬を膨らませ機嫌を損ねた。

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