十一話 VSカイル・マクライド
クレイとオーラン、リールはその場から離れ、今度はそこにまた別の男が二人向かい合う事となった。
その一方、大柄な兵士カイルは向かい合って立っているブレイバスに、手に持つ2本の木剣の内、1本を投げて渡す。
ブレイバスはそれを受け取ると軽く素振りをし、呟いた。
「あー、コレでやるのか。まぁいいけど」
その反応が気に入らなかったのかカイルが少し声を低くし話しかける。
「なんだ? そいつじゃあ不満か? 大剣使いの少年」
「いや、構わねーよ。サクッと始めましょうぜ」
こちらは年上だというのになめた様な口を聞くブレイバスにカイルはやれやれ、と言ったように鼻息を吐いた。
「そうだな、さっさと始め、そして終わらせよう。俺の名はカイル。カイル・マクライドだ。加減はせんぞ? 少年」
「ああ! アンタ強そうだもんな! せっかくの機会だ。全力で頼むぜ! ブレイバス・ブレイサー! 今からアンタを倒す男の名だ!」
互いに名乗り合い、
「始めッ!」
リガーヴの合図と共に闘いの火蓋が切られた。
◇
その様子は嵐のようだった。木剣同士が全力でぶつかり合う音がけたたましく響き渡る。
クレイとオーランが先ほど見せた剣を捌きあう、云わば『技』の闘いに対してこちらは『力』の闘い。
ブレイバスは右薙ぎをしたと思えばカイルも右薙ぎで撃ち合い、カイルが左薙ぎを放てばブレイバスも左薙ぎで返す。一方が上段から剣を振り下ろせば一方は受け止める、のではなく剣を振り上げ撃ち合う。
当然、重力と遠心力の問題で振り下ろしは振り上げより威力が乗り、相手を圧倒する。しかし、圧倒したかと思えばそのまま追撃をするのではなく、今度が振り下ろす側が逆になり再び剣をぶつけ合っているのだ。
「わっわっわっ! すっごい!」
オーランの回復が一段落したリールは耳を手で押さえ歓声のような声を上げる。
「でもコレって……」
そう言ってクレイのほうへ視線を向けると、その意味を察しクレイが答えてきた。
「……ああ、お互い『一本取ろう』ではなく『力勝ちしよう』という闘いになってるね」
「そんな打ち合わせ、二人ともしていないよね? クレイたちのように『一本取る事』が勝利条件だよね?」
リールの真っ当な疑問にクレイは半笑いで答えた。
「ああ、そうだね。それでいてこんな闘いが成り立っているって事は……」
「お互い似た者同士ってことだねっ」
────轟音はしばらく続き、お互い少し息が上がったところで手を止め、カイルが口を開いた。
「なかなかやるな少年! ……いやブレイバス!」
「あぁ! あんたもな! おっさん!」
お互い笑みを浮かべている。
闘う前まではやや険悪な二人ではあったが、互いに己の筋肉を信じる者同士。打ち合わせもせずこのような演武とも取れる動きをし、そして互いの力が拮抗しているのだ。楽しくもなるのだろう。
「ブレイバス! 正直お前を少し侮っていたようだ! 全力でいかせてもらうぞ!」
カイルがそう言うと全身に力を込め、そして叫んだ。
「【筋肉全開】!!」
カイルの大柄な身体が更に膨らんでいく。腕の血管が切れそうなくらい浮かび上がり、全身がやや赤黒く変色していった。
元々大柄な鎧を着ているカイルだったが膨らんだ筋肉が内側から鎧を破壊しそうな勢いである。
「ぬぅぅぅぅん……!」
その様子をブレイバスは木剣を構えて、ただ見ていた。
明らかに相手は強化されていってはいる。そして現在は隙だらけだ。
しかし、それでもここで斬りかかるのは無粋だと考えたのだろう。
「はあッ!!」
最後の一声と共にカイルの兜がはじけ飛んだ。
【筋肉全開】を使う前と比べて一回り大きくなったその身体からは熱がほとばしり蒸気を噴き出している。
「またせたな! 行くぞブレイバスッ!」
そう言ってカイルは右薙ぎを放った。ブレイバスもやはり右薙ぎで返す。
木剣が同士ぶつかり合うとけたたましい音と共に、ブレイバスが仰け反った。カイルの力に耐え切れず、踏ん張っている右足が地面を削りブレイバスはやや後退する。
今度はブレイバスが木剣を振りかぶり、上段から振り下ろした。カイルはそれに対して木剣を振り上げ、対抗する。
重力と遠心力の関係で力が乗っているはずのブレイバスの木剣が打ち返され、よろめいた。
「……」
自身が力負けしたことを悟るブレイバス。その表情を見てカイルは得意げに口を開いた。
「どうしたブレイバス! もう終わりか!?」
その問いにブレイバスはニッと笑みを見せる。
「まさかッ!」
ブレイバスは吐き捨てるようにそう言うと、後ろに跳び距離をとりながら木剣を握る手に力を込め、叫んだ。
「【破壊魔剣】!!」
するとブレイバスの持つ木剣が黒い氣で覆われていき、着地と同時に木剣が完全に黒く染まる。
それを確認するや否や、ブレイバスは木剣を上段に構える。そして先ほど以上に強く握り締め、左足を一歩踏み出しその足をバネに跳んだ。
その勢いのままカイルの頭上めがけて木剣を振り下ろす!
「【破壊滅斬】!!」
そのハデなジャンプ斬りに対し、カイルはまたもそれを迎撃するために木剣を振り上げた。
【破壊魔剣】と【筋肉全開】。強大な魔法を上乗せした二つの筋力から繰り出される二つの剣がぶつかり合う。
────結果、破壊の力がカイルが持つ木剣の刀身を真っ二つに砕き、取っ手側も手から弾き飛ばした。二つに分かれた木剣は地面に叩きつけられ、寂しい音を上げて転がる。
「……むっ!」
カイルが思わず声を上げた。ブレイバスはそのまま着地する。
ブレイバスの持つ木剣は────柄だけ残して粉々に砕け散っていた。
「……あー、やっぱりこうなっちまったか」
ブレイバスは手に残った木剣だった物を見て、苦笑いで呟く。
「最初不満だったのはこれさ。俺の魔法、並の武器じゃ耐え切れねぇんだ」
ブレイバスは柄を投げ捨て肩をすくめながらそう言い、言葉を続ける。
「仕切りなおすなら、お互い本来の武器で、ってことになるけど、どうする?」
そこまで言った所で、リガーヴから号令が上がった。
「そこまでッ!!」
その声のほうへ二人は向く。リガーヴはカイルを見やり、話しかけた。
「この勝負、どう思う?」
「俺の負けですな。完全に」
力自慢の自分は無様に剣を弾き飛ばされ、相手は本来であればその力を制御出来る武器を使っている。カイルはその事実を素直に認めた。
その潔い言葉にリガーヴは軽くうなずき、更に声を張り上げた。
「いいだろう。ブレイバスッ! 貴様の勝ちだッ!!」
その声が響き渡ると、数秒時間をおいて先程より更に大きな歓声が上がった。




