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三十二話 VS【剛竜】ザガロス・ガイザード4

「レア!」


 ザガロスの突進に対してクレイは叫びながら地面を蹴り宙を跳ぶ。

 するとそれに合わせるように金色の翼もより光を撒き散らしながら大きくはためいた。

 脚力で瞬間的でその場を跳び、翼で加速と軌道修正をしながら更に飛ぶ。

 翼自身はレアフレアのそれであり、勿論操作しているのはレアフレア自身。しかし自由に宙を制するその姿は初めから一人の生物であるかのように滑らか且つ迅速。


 突進から繰り出されたザガロスの一撃は、再び地響きを起こすほどのエネルギーを発揮しながら一瞬前までクレイがいた足場を粉々に砕くが、それでもクレイは既に宙の上。

 そして空中で大きく身を翻した時、クレイは右手に持った長剣の刀身に左を添え、叫んだ。


「【結界光刃(フォースセイバー)】!」


 刀身が白く光り、その一瞬後に魔法の刃が展開される。

 元々クレイが得意とする魔法による遠距離攻撃ではあったが、その様子は今までのものとはまるで違った。

 いままで発射されていたのはせいぜい刀身サイズの刃である。

 しかし今放たれた魔法の刃は、刀身から扇状に広がりすぐに数倍の広さ(サイズ)に物へと姿を変えた。


 レアフレアの【光輝同化ライトニングフュージョン】が加わる事により、先ほど【結界飛翔(フォースウイング)】が百人規模の結界を一瞬で生み出し、また同規模の重量を支え切ったように、【結界光刃(フォースセイバー)】もまた桁外れに強化された結果である。

 元々鋼鉄を鋭利に斬り裂く程には威力があった【結界光刃(フォースセイバー)】であったが、サイズ同様その威力もまた段違いに強化され、それが放たれた地面はまるで包丁で切られたケーキのように大規模に斬り裂かれた!


「ハッハーッ! いいぞクレイッ!!」


 が、その【結界光刃(ケーキ入刀)】のド真ん中(イチゴの位置)にいたザガロスには傷一つついていない。

 しかしその一撃を喰らったザガロス自身は予想以上の威力だったらしく、テンションを更に上げた。


「これも効かないか……レア!」


 そこでクレイは金色の翼を更に翻し、長剣を構えながらザガロスの方へ大きく距離を詰めた。


「おぉ!? この俺に接近戦かッ! 面白ぇッ!!」


 ザガロスは更に狂喜し、クレイを迎え撃つべく剛腕を大きく振る。

 しかしその迎撃が当たる一瞬前に、翼を使い再び大きく進路を変えた。

 ザガロスの一撃は虚しく空を斬るが、その風圧だけで宙を舞っている細かい瓦礫が進路を変える。


「【結界真剣(フォースソード)】ッ!」


 空中でクレイは、今度は長剣に魔法の刃を纏わせる。

 すると長剣の長さ(サイズ)は10メートルを優に超え、その塔のような刃が圧倒的遠心力と共にザガロスを襲う!


「オラァッ!!」


 【結界光刃(フォースセイバー)】と変わらない威力を誇るはずのソレを、ザガロスは拳をぶち当てへし折る。

 距離をとったクレイ達は再びザガロスにある程度まで接近するため翼を羽ばたかせた。

 ────が、そこでザガロスもクレイに向かって、絶妙なタイミングで飛び掛かる。

 翼を羽ばたかせ空中で高度を保とうとする動き、つまりはすぐには動き出せないタイミングを見切ってザガロスは攻撃を仕掛けたのだ。


 一見互角の戦いをしているように見える二人だが、強化されて尚相手にダメージを与える事が出来ないクレイに対して、一撃で相手を紙屑のように引き裂くことが出来るザガロス。

 一撃一撃にかかるプレッシャーは全く対等ではない。

 そして翼を操作するのはあくまでレアフレア。実戦経験に乏しい彼女が一瞬の選択を間違える事など仕方がない事である────

 

「【結界飛翔(フォースウイング)】ッ!!」


 が、翼で逃れられないと判断するや否や、クレイは靴裏に魔法板を生み出しそれを蹴る事で、つまりはレアフレアに移動を任せる事なく自分の意思で再び跳ぶ!

 ザガロスと戦う前に、クレイとレアフレアが行っていた打ち合わせの一つがコレである。

 翼を活かした空中での動きは基本的にレアフレアが行う、が、刹那の判断が必要になった際は実戦経験と反射神経に優れるクレイに主導権を移すその場に応じた戦術変換。


「おお……!?」


 完璧に捉えたと思っていたザガロスの口から間の抜けた声が漏れ、空中制動の手段を持たないザガロスは重力に従いそのまま落下する。


「【結界光刃(フォースセイバー)】ッ!」


 姿勢を崩したザガロスへクレイの追撃。

 ────片や当たらず、片や通用しない人知を超えた攻防。

 生き物のいない谷底でそれは災害のようにしばらく荒れ狂った────



 どれだけ戦いを続けていただろうか。

 クレイもザガロスも長時間魔法を酷使し続けた事で互いに息を切らし始めている。

 しかし、最初に一番大きな変化を出したのはクレイでもザガロスでもなく、レアフレアだった。


「クっ君、ごめんなさい、もうだめですぅ……」


 ある程度ザガロスから距離をとった高台の上で、金色の翼は急激に光を失い、クレイの背中から抜け落ちるようにレアフレアの身体が姿を現した。


「レア……!」


 クレイは後ろを振り返り声をあげる。

 初となる実戦に目覚めたばかりの魔法の使用。魔法の性質上、同化していたクレイも体力を肩代わりしていたが、それでもレアフレアにとって大きな負担となっていたのだ。

 疲れ果て、仰向けに倒れるレアフレアを一瞬だけ見て、クレイはその場を飛びのきながら声を上げた。


「ザガロス将軍! こっちだッ! 【結界飛翔(フォースウイング)】ッ!!」


 翼を失ったクレイは、今度は自分の魔力だけで靴裏に魔法板を生み出し宙を舞う。

 ソレは陽動であった。倒れたレアフレアのほうへザガロスの矛先を向けさせるわけにはいかない。

 しかし、ザガロスもそれに気が付いていたのだろう。ニヤリと笑みを浮かべ、口を開く。


「クレイッ! テメーやっぱいい男だぜッ!!」


 ザガロスは、クレイの思考を読み取った上で攻撃の照準をレアフレアではなくクレイに合わせ、飛び掛かるべく足に力を溜めた。


「たった二人でよくやった!! 楽しかったぜッ!! だがッ! それもここまでだなぁッ!!」


 ザガロスは叫ぶ。

 クレイの場まで飛び掛かり、機動力を大幅に失った相手を引き裂く。それでこの戦いは終わり。クレイとしてもレアフレアを庇うために捨て身を行っているのだろう。

 ────という考えは、クレイの次の言葉で覆される事となった。


たった二人(・・・・・)、それが間違いなのですよザガロス将軍」


 ザガロスは飛び掛かった。が、クレイの身体を引き裂くその一瞬前に、左からクレイの身体に何かが飛来し、そのまま真横にクレイを攫った。


「うおおおおぉ!! クレイさんんんんんんんッ!!」


 クレイを救出したのは、空中を自由に飛び回る魔法を使いこなすもう一人の男、シュンツ!

 ザガロスは突如入れられた横やりに歯ぎしりをし、シュンツを睨みつける。


「テメェ……またしても……ッ!!」


 そこでザガロスは気が付いた。

 自分の周囲には更に複数の翼が舞い降りてきている事に。


「あぁん? 鳥共……今更なんだぁ……?」


 それは先ほど崖の上にいた複数の筋翼人(バーディアン)達。

 倒れたレアフレアの前には翼人王ガルグレンが仁王立ちし、ウィングルともう一人の女筋翼人(バーディアン)がレアフレアを抱え離脱しようとしている。

 更にトーリィがブレイバスを、バドがリールを連れて近くまで降りてきた。

 シュンツに降ろされたクレイは地面を足に付けながらザガロスに向かって長剣を突き付け、再び口を開く。


「一人で無類の力を発揮する貴方とは違い、僕はいつも多くの人に助けられて今この場に立っています。強大な貴方を打ち破るのも、たった二人だけじゃあない。ここにいる全員で貴方を倒す」


「雑魚共がガン首揃えた所で俺に勝てねえのはわかってんだろ? それを……む……」


 そこでザガロスがバランスを崩し片膝をついた。

 自分の身体の異常に混乱するザガロスに、クレイは続ける。


「貴方は強い。そしてその魔法も強力無比だ。しかし、ブレイバスの【破壊咆哮(ブッコロシブレイブ)】やレアの【光輝同化ライトニングフュージョン】のように、使い続ける魔法には必ず持続時間に限界がある。ましてやそれだけ強大な魔法(ちから)であれば消費するエネルギーも膨大なはず。貴方はその圧倒的強さで、今まで自分の限界に達する事なく戦いを終わらせてきたのでしょう。しかし、今回ブレイバスから始まり僕とレアも十二分に時間を稼がせて貰いました。……それでもギリギリなのは驚きました、が、ここが貴方の限界です。消耗戦、制させて頂きました。お覚悟下さい」


 クレイの言葉を裏付けるようにザガロスの身体は少しずつ萎み、漆黒の体毛も枯れるように抜け落ちだした。

 ────【鬼行軍(オウガクラフト)】によって行われていた変身効果が、解け始めたのだ。

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