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三十一話 VS【剛竜】ザガロス・ガイザード3

 【結界飛翔(フォースウイング)】で生み出された足場により落下を免れた兵士達は、急いでまだ残っている荒地の足場へと移動した。

 その移動中に、クレイはブレイバス達から事の顛末を聞き出す。

 ラムフェス王国【竜聖十将軍】No・6、【剛竜】ザガロス・ガイザードの部隊と交戦になり、ザガロス以外の戦力は鎮圧したものの、残ったザガロス一人に苦戦していた事を。


 一通り聞いている内に、【結界飛翔(フォースウイング)】からの移動が全て完了され、それを確認するとクレイは金色の翼をはためかせながら、谷底へ向かってゆっくりと下降を始めた。

 降りていく最中に、翼がクレイにのみ聞こえる声で囁きかけてきた。

 

 ──”クっ君、ブレイバスさんと一緒に落ちて行ってたさっきのアレ、本当にザガロスさんなんですかぁ?”──


「ああ、そうみたいだね。最初みた時とはずいぶん様子が変わっていたけど」


 ──”ザガロスさん、いい人だと思っていましたけど、やっぱり悪い人だったんですねぇ……”──


「……この鉱山の攻略を任されたラムフェスの将軍だからね、ひょうきんな感じでもあったけれど、仕事は仕事でキチンとするタイプなんだろう、しかしこの高さから落ちて無事なばかりかこの崖を崩そうだなんて、ここまで規格外の強さだと思っていなかったけどね」


 ──”私たち、勝てますかねぇ?”──


「……正直に言うと昨日までの僕じゃ絶対に無理だ。申し訳ないけど、レア、力に目覚めたばかりの君の魔法にかかっている部分が強い」


 ──”うぅ~……”──


「でも、さっきの【結界飛翔(フォースウイング)】を見て確信した。これはとんでもない魔法だ。ザガロス将軍の性格を考えても、きっとうまくいくさ。ただ翼をコントロール出来るのは君だから、余裕を持って避けるように心がけてね」


 ──”あぁ~、失敗しそうになったらクっ君のほうでアレ(・・)、おねがいしますです~……”──


 独り言のような作戦会議を終えたあたりで、クレイは決戦の場、光り輝く翼とはまるで対照的なザガロスが周囲を破壊しまくった薄暗い谷底に到着しようとしていた。



「グ・オ・オ・オ・オ・ォ・……ッ!! ブレイバス……ッ! どこへ逃げやがったッ!?」


 自らが破壊し続けた荒地の上で、ザガロスは吠える。

 その身体はまるで無傷であり、自分が崖の下に落ちた事すら気が付いていないようだった。


「申し訳ないですが選手交代ですザガロス将軍」


 そこに金色の翼を携え舞い降りたクレイが、やや高い足場からザガロスを見下ろしながら言い放つ。

 その声に、ザガロスは顔を上にあげた。


「テメェは確か……ッ! クっ君ッ!!」


 レアフレアが言い出したクレイの愛称『クっ君』。

 確かにザガロスと初めて出会った時、その様子を面白がったザガロスもまたその愛称でクレイの事を呼んでいた。


 しかし、まさか眼を血走らせた巨大な獣にまで呼ばれると思っていなかったクレイは口をひきつらせる。


「……クレイ・エルファンです。ブレイバスに代わってここからは僕がお相手します」


「あ・ぁ・ん……ッ? クレイ……だとぉ……ッ?」


 ザガロスはそこで湧き出る怒気を抑え込みながらもなにか考え込む。

 ────突然、ザガロスは巨大な崖をも粉砕する剛腕で、自分の頭を殴りつけた!

 石弓や鈍器による遠距離攻撃の弾幕でも、翼人王ガルグレンの全力の突進(チャージ)でも、100メートルの高さからの落下でも、決して傷つくことのなかったザガロスの頭から多量の血が飛び散る。

 その訳の分からない相手の異常行動に、クレイは冷や汗を垂らしながら警戒を強める。


「クレイ……に! ブレイバスッ! そうか! クっ君おめー! 『クロード・スミス』は偽名か! コイツはやられたなハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」


 頭から血を流しながら大笑いを始めるザガロス。

 ひとしきり笑った後、口角をあげたまま猟奇的な目でクレイを再び見上げ更に言葉を続けた。


「『クレイ・エルファン』! 『ブレイバス・ブレイサー』ッ! そうか! お前らがあの【悪魔殺しの英雄】にしてラムフェスに謀反を企てた大罪人共かッ!!」


「……」


 ザガロスがクレイを指して言ったことは、前半はまさにクレイが成し遂げた偉業である。が、後半は完全な濡れぎぬ、クレイが国を追われる事となった思い出したくない出来事であった。


「……どう思って頂いても構いませんが、一応一つだけ否定しておきます。僕らは謀反なんて企てていない。全てはラムフェス上層部の────」


 クレイが言いかけた時、言葉をかぶせるように狂喜の表情を浮かべたザガロスが更に叫ぶ。


「んなこたぁどうだっていいんだよ!! お前があのクレイだってんならどうだってなあぁッ! 国を滅ぼす力を持った地烈悪魔(ガイアデーモン)を葬り!! 【黒竜】リガーヴと互角に戦いッ!! 【白竜】ヴィルハルトの追撃から逃れ!!! 【奇竜】エブゼーンを打ち破ったッ!!! そのクレイだろお前はよぉーーーーッ!!!!」


 ザガロスの言葉には事実と違う所もいくつか含まれていた。

 が、そこを指摘してももはや意味はないだろう。


 クレイはザガロスの言葉と表情から相手の思考を推測する。要するに『自分と同じ位である【竜聖十将軍】と互角以上に戦った強いヤツと戦える。最高だ』といった所なのだろう。

 それゆえにクレイはこれ以上余計な事を言わずに、ただ剣を抜いた。相手の意識が自分のみに向くのであればその方が戦いやすい。


 ──”クっ君、ザガロスさんが自分の頭叩いたのって……”──


「あぁ、頭に登った血を物理的に抜いて、気持ちを落ち着かせただけみたいだね。出血量も並みじゃないけど、多分彼にはアレがベストコンディションなんだろう」


 自分で言って、ザガロスの口調が悪魔の咆哮のような禍々しい叫びから、発音がキチンと為されている雄々しいモノに変わっている事に気が付いた。


(これは、ブレイバスがやったらしい単純な誘いや挑発はもう効かなさそうだな)


「ハハハハハハハハハハハッ!! 最高だッ!! さあ来いよクっ君!! いや! クレイッ!! 他の【十将軍】と互角以上に戦ったその力! この俺に見せてみろッ!! この【剛竜】に通じるか! 試してみせろッ!!」


 先ほどクレイが分析した『ザガロスが考えていそうな事』を、ザガロスはほぼほぼそのまま声に出して叫ぶ。

 そして「さあ来いよ」といった事をもう忘れたのか、猫科の獣のような筋肉のバネで、爆発するかのようにクレイに飛び掛かった。

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