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二十八話 VSザガロス・ガイザード3

 狂喜を顔に浮かべ、再び臨戦態勢ザガロス。

 その様子をみて、まだ傷が治りきっていないジークアッドは震える足を無理矢理立たせながらブレイバスに問いかける。


「ブレイバス殿……なにか策はあるのか?」


 ブレイバスの怒涛の攻撃ですらもまともにダメージが通らなかった相手に、これ以上抗う術はあるのか。

 ブレイバスが首を横に振るのであればザガロスに勝つ手段はない。それはすなわち敗北に直結する。

 ジークアッドは己の無力を噛みしめながらもすがる様な思いでブレイバスに問いかけた。


「ああ、あるぜ」


 即答するブレイバス。

 ジークアッドがブレイバスの【破壊咆哮(ブッコロシブレイブ)】を見るのが今が初めてである。

 その驚異的な魔法がブレイバスの切り札であると思っていた。それすらも通用しなかったのであればもはや万策は尽きた。

 そう思っていた矢先に返ってくるこの言葉。ジークアッドは期待以上に驚愕を隠せない。


「さっきの一撃、浅手ではあるがダメージは与える事が出来た。だったら俺が攻撃を喰らう事なくそれを何回も何十回も繰り返せば、ザガロス将軍を倒す事が出来る!」


 ブレイバスの言葉に、数秒前とは違う意味でジークアッドは驚愕を隠せない!

 そんなジークアッドの想いなど気にする様子もなくザガロスが動く。

 

「いくぜオラァッ!!」


 先ほどとは違い両手から交互に、あるいは不規則に振り回される一撃必殺の武器。

 ブレイバスはその攻撃一つ一つを丁寧に見切り、大ぶりの隙を見ては先ほどと同じような反撃に出る。


「やるなッ! だがまだまだぁッ!!」


 しかし、倒しても倒しても起き上がってくるザガロスに、制限時間のあるブレイバスは焦りを感じ始める。






 その攻防をどれだけか繰り返した時、ザガロスは今までにない攻撃に出た。

 両手の武器を大きく掲げ、右手の大剣と左手の戦斧で挟み込むようにブレイバスに薙ぎ払いを仕掛けたのだ。

 しかし【破壊咆哮(ブッコロシブレイブ)】に身体能力が著しく上昇し、神経も研ぎ澄まされるブレイバスはそれを最小限の後退を行う事で難なくかわす。

 相手が手をクロスしているようなタイミングでブレイバスは再び叫んだ。


「【破壊魔剣(ブッコロシブレイド)】!!」


 再びブレイバスの持つ大剣を覆う漆黒の(オーラ)

 先ほどと同じように脇腹を攻撃することも頭によぎったブレイバスではあったが、相手が予想以上の隙を見せたことで選択を変える。

 ザガロスが振り切った戦斧を踏みつけ、それを足場に跳んだのだ!


「【破壊滅斬(ブッコロシブレイク)】ッ!!」


 上空からのブレイバスの全力のジャンプ斬りがザガロスの脳天を襲う!

 いくら外装が硬かろうと脳ミソに振動が加われば身体への命令に異常は出る。ましてやブレイバスのこの一撃は鋼鉄の大門を砕く技に、更に【破壊咆哮(ブッコロシブレイブ)】による上乗せがあるもの!


「────はははははッ! ハァーーーーーッ!!


 しかし、ザガロスはその一撃を頭でそのまま受けるばかりか、あろうことか頭突きで押し返した。

 それによりザガロスの脳天から血は流れるモノの、ブレイバスはまたも力負けをし、後方に押し返される。


「……ちっ」


 ザガロスの予想を上回る並外れた(パワー)に、ブレイバスは舌打ちをする。

 もはや人間を相手にしている気持ちになどは全くなれなかったが、しかしそれでも相手の頭に流れる血を見て今回の攻撃も成功だと前向きにとらえた。

 残り短いであろう【破壊咆哮(ブッコロシブレイブ)】を有効に使うためにも、ブレイバスは間髪いれずに打撃を加えようと一歩踏み込む。


「【隕石殺法(メテオドライヴ)】ッ!」


 ────その時、上空から凄まじいスピードで何かがザガロスの頭上に落下した。

 ブレイバスの攻撃を打ち返し、一瞬停止していたザガロスの狂喜(づら)が、首がもげそうな勢いで下を向く。

 耳に入った呪文とその迅速な攻撃により、それがシュンツからの援護、上空から加速をつけての斬り下ろしだとブレイバスはすぐに悟る。


「ごおおぉ……! 痛ぇ! なんだぁ……?」


「へ、へへ……」


 すぐに顔を上げるザガロスに、シュンツは冷や汗を垂らし苦笑いを浮かべながら後ずさった。


「あぁん? お前が俺を攻撃したのか……?」


 ザガロスが目をパチクリさせながら困惑のような表情を浮かべると同時に、更にザガロスに向かって複数の弓矢や投石が一斉に襲う!


「ぬ!」


 ザガロスは両手をクロスさせ防御態勢に入った。

 先ほどのブレイバスとの攻防で鎧は殆ど砕かれていたが、それでも大木のような剛腕は鋼鉄以上の鎧となるのだろう。


 その弾幕が静まる頃、ザガロスは周囲を見渡した。四方八方の高台にはいくつもの翼が目に入る。

 つまりそれは、筋翼人(バーディアン)の勢力の多くがザガロス一人に攻撃を集中させた事を意味していた。

 その中の一人、女筋翼人(バーディアン)のウィングルがボウガンを構えながら冷たい瞳で鋭い言葉を放つ。


「アンタの隊は粗方片付けたわ。……覚悟しなさい」


 先ほど戦闘不能まで追いやったはずのバド達もザガロスを囲む兵力に加わっている。リールが傷を治してきたのだろう。

 いつの間に自分の周り以外から戦いの音がおさまっている事に気が付いたザガロスは、状況を察した。


「あ、あぁ~……、ラムフェス軍(こっち)は全員殺られちまった、もしくは降伏しちまったか……」


 対面するは自分と互角にやり合うブレイバス。

 横にいるは圧倒的速度で死角から奇襲を仕掛けてくるシュンツ。

 高さまで活かして自身を包囲するは天空を制する筋翼人(バーディアン)部隊。

 ラムフェス軍が敗北したならば地上部隊であるユニバールの屈強な歩兵部隊もすぐにこちらに来るだろう。

 自分がジークアッドやブレイバスに拘らず戦局をよく見て行動していれば、また違ったかも知れない。

 しかし今それを考えても仕方がない。

 その揺るぎない事実を、ザガロスは静かに受け止めた。


「オーケィオーケィ参ったね、第二ラウンドもお前の勝ちだよブレイバス。……いや、お前たちの、か」


 ザガロスはそう言い、両手の武器を地面に突き立て手を上げた。

 その様子をみて、他より一回り大きい身体を持つ筋翼人(バーディアン)トーリィが、警戒を解かずにザガロスに背後からジワリと近寄りながら言い放つ。


「動くなよ、お前を拘束する……といってもその力、鎖で縛った程度では安心できん。治療は約束する、が、その自慢の両腕は折らせてもらうぞ」


 そんなトーリィの言葉を、まるで聞いてすらいないかのようにザガロスは口角を大きく上げた。


「まさかこの俺がここまで追いつめられるとは思わなかった。いやぁこんな事は他の【竜聖十将軍】と戦った時以外じゃあ初めてだぜマジで」


 その不遜な言葉に、ウィングルを始めとした数人はザガロスに向かってボウガンを放つ!

 しかし、それが命中する前にザガロスは叫んだ!


「【鬼行軍(オウガクラフト)】ッ!!」


 ────瞬間、ザガロスの全身が電流に包まれ、周囲には突風が吹き荒れる。


「ギヤアアアアアアアアアァァァッ!!!!」


 自らが発した電撃がザガロスの身を激しく焼きつける。

 ────そしてその電撃に覆われたシルエットは少しづつ肥大化していき、更にトゲのようなものが徐々に姿を現した。


「ガ・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ア・ァ・ッッッ!!」


 最後の雄たけびと共に、電流は消えた。

 そこから姿を現したのは、2メートルをゆうに超える身体から更に大きくなった3メートル近い巨人。

 その全身は針のような漆黒の体毛に覆われ、女性の腕のような太さの指一本一本からは禍々しい波動を放っている。

 その獣は、先ほど自分で突き立てた大剣と戦斧の方にギロリとした眼を向け、


「こ・ん・な・オ・モ・チャ・で・相・手・し・ち・ま・っ・て・悪・か・っ・た・な・あ・ッ!!」


 鬼のような剛腕を足元に振り下ろした。

 ブレイバスとの全力の打ち合いですらも僅かづつにしかヒビが入らなかった大剣と戦斧が────その一撃で、粉々に砕ける。

 更には足元の地面も大きく割れ、この大空勇翼鉱山(スカイディアヘイム)に地響きを起こした!


「さ・あ・ッ! 最・終・ラ・ウ・ン・ド・だ・ッ!! 楽・し・ま・せ・て・く・れ・よ・ブ・レ・イ・バ・ス・ッ!!!」


 自らの魔法により、完全に獣と化した【剛竜】ザガロス・ガイザード。

 その異形の姿と今の一撃を見て、ジークアッド達ユニバール軍も、ウィングル達筋翼人(バーディアン)も、正式にはその両軍に属さないブレイバスとリールも、残り敵が一人だけになり勝利を確信していた事を、改めざるを得なかった。

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