一話 二人の魔法剣士
初夏の日差しが地上を照りつけ、心地よい風が吹き抜ける草原の上。
軽鎧を着こみ、剣を構えた二人の少年が睨み合っている。
茶髪で中肉中背の少年、クレイは目の前の大柄な少年の出方をうかがっていた。
相手もまた力強い視線でこちらを見ている。
乱雑に固められた黒髪は基本的に上を向いており、自分より20cm近く大きなその少年が手に持つ剣は、クレイがもつ長剣より更にデカい大剣。まともにぶつかり合えば力負けすることは第三者から見ても明らかだろう。
その相手──ブレイバスが先に痺れを切らしたようだ。
「いくぜクレイ! 【破壊魔剣】!!」
そう唱えるとブレイバスの持つ大剣が数秒と経たず黒い氣に覆われていく。
ブレイバスはその大剣を振りかぶり、軽く助走をつけると、その勢いのままクレイ目がけて横薙ぎを仕掛けた。
「くらえッ! ほらよッ!」
クレイはその大振りの一撃を間合いギリギリでかわす事に成功する。
大剣は一撃が重い分、振った後に隙が出来る。
しかし元々武器の間合いは相手の方が上。加えて大剣を完全に使いこなすブレイバスの筋力をもってすれば、クレイが回避した後に懐に入ろうにも、クレイが長剣をブレイバスに当てる前に斬り返しでクレイに大剣を直撃させることが出来るのだ。
そのためクレイは回避で手一杯になってしまい、嵐のような大剣の乱撃を許すことになる。
乱撃の中、ブレイバスが黒い氣を纏った大剣を振り下ろす。
破壊の氣が地面に直撃すると地面はえぐれ破片を大きくまき散らした。この圧倒的破壊力を持った魔法剣はまともに『受け』や『捌き』を許さない。
しかしこれはクレイにとって好機だった。
──『大振りの振りおろし』
この動作により、先ほどまで嵐のようにこちらに襲いかかっていた乱撃が一時的に止まることになる。クレイはその隙を見逃さず舞い上がる地面の破片をかいくぐりながらブレイバスに斬撃を仕掛けた。
「あめぇよ!」
ブレイバスもそれを予測していたのだろう。右手だけは大剣から手を放し、クレイの斬撃を小手で軌道をずらす様に捌く。そして不用意に接近して来たクレイに強烈な蹴りをおみまいし、再び間合いを離した。
「ぐ……!」
吹っ飛ばされ地面を転がるが、衝撃を逃がす様に回転をしながら受け身をとり、すぐに体勢を立て直そうと起き上がるクレイ。
そんなクレイを見ながらブレイバスが大剣を振り上げた。
するとその余波だけで地面は更にえぐれ、その破片が万全な体勢でないクレイを襲う。
迫りくる破片を受け止めるような形で左手を前に突き出し、クレイは唱えた。
「【結界障壁】!」
クレイの左手から半径1メートル程の半透明の壁が現れる。そしてその障壁が自身を守るように破片を受け止めた。
結果的に受け止めることに成功したものの、障壁はその威力に耐え切れず無数のヒビが入る。そして時間を置かずに露のように消えていった。
相手から距離をとろうと後方へ跳ぶクレイ。しかしそれを上回る速度でブレイバスは既に追撃を開始していた。
ブレイバスが大剣を両手で構えクレイの眼前に迫る。
「そんなチャチな盾じゃ【破壊魔剣】は防げねーぜ!?」
そう言いながらブレイバスは勝利を確信した。あと一歩踏み込み、剣を振り下ろせば決着がつくと。
────しかし、クレイは既に仕掛けていた。
「うおおっ!?」
勢いよくクレイに近づいたブレイバスが何かにつまづく。
予期せぬ出来事に思わず体勢が崩れるブレイバス。その隙にクレイがブレイバスの喉元に剣を突き付けた。
「【結界誘罠】 僕の勝ちだね」
「……汚ねぇぞテメェ」
ブレイバスがよろけた場所の足元に、先ほどの【結界障壁】と同質の塊が地面スレスレのところで浮かんでいた。ブレイバスはソレにつまづいたのだろう。
ニッと笑うクレイに対して、バツの悪そうな顔をしてブレイバスが口を開く。
その時離れた所からこちらを呼ぶ声が聞こえた。
「クレイー! ブレイバスー! ご飯出来たよ~!」
クレイは穏やかな顔をしてブレイバスに向かって言った。
「丁度いいね、戻ろう」