動き出した思惑
流れる音楽。きらびやかに舞う人々。
そんな中で黒を纏った四人は一先ずと壁際に来ていた。
「さて、まぁ、取り敢えず各自あまり目立たない様にしながら自由行動で」
「……マスター、もう既に目立ってしまってますわ」
エレインの言葉に苦笑を溢したアイト。
さりげなく周囲を見てみれば、あからさまなモノは無いにせよ、チラチラとこちらを窺う幾つもの視線。
「うーん、どうしよっかな」
「どうするもこうするも、王と今回の主役には挨拶を終えたんだ。もう用はないだう。これ以上の面倒事に巻き込まれる前にさっさと帰ればいい」
身も蓋もないジンの言葉にアイトが溜め息をつく。
「それはあまり得策じゃないよ。そうだねぇ、ダンスを二、三曲踊ったら帰ろうか」
その言葉に難色を示したのはシルティーナとエレインだった。
「あらマスター、この様な格好で淑女に踊れと申しますの?」
「そうですよマスター。流石にこの格好でダンスはちょっと……」
「あらら、お姫様方に嫌われちゃったね」
残念、と特に残念そうな感じもなく笑ったアイト。
そうやって周りからの視線など特に気にもせずに何だかんだと談笑していた四人の元に一人の男が近寄って来た。
「ご歓談中に失礼致します」
ピシッとした燕尾服に身を包んだその男は綺麗な礼をとってからアイトへと視線を向ける。
「私は国王様にお仕えする者です。ギルド、双翼の剣のマスターであらせられるアイト・ブルランテ様に我が主が折り入ってお話があるそうなのでご案内に参りました」
「案内って事は、ここでは話せない内容なんですかね?」
「詳しくは聞き及んでおりません。ただ、来客用の応接室へ案内する様にと言付かっております」
「分かりました。案内をお願いします」
素早く視線を合わせた四人。
小さく頷いたアイトに他の三人もまた小さく返し、各々が自然と動き出す。
「じゃあマスター、私達はパーティーを楽しんでますね」
「戻って来たらお声をかけて下さいませね」
「俺は夜風にあたって来る」
それぞれに散って行った三人を確認してアイトも男の後に続いた。
ーーーーー
ーーー
ー
アイトが案内された部屋には既に国王が待ち構えていた。
促されるままに国王の前に立ったアイトは、部屋に居る者の誰にもバレない様に小さく小さく息をついた。
「お呼びですか? 国王様」
「王の前で膝もつかぬとは……」
言葉を発したのは国王の後ろに控える護衛の騎士だ。
その顔にはありありと嫌悪が浮かんでいた。
そんな騎士を一瞥したアイトはしかし、興味もないとばかりに視線を国王に戻す。
「それで? 何故私は呼ばれたのですか?」
「貴様っ!!」
怒りを含んだ声を上げた騎士を国王が制した。
「よい。お前は下がれ」
「しかしっ!」
「下がれ」
「っ、はい……」
国王の言葉に渋々と下がった騎士。
部屋にはアイトと国王のみが残された。
「お主を呼んだのは他でもないキャローナについてなのだが……」
一度言い淀む様に言葉を切った国王が暫く黙った後に意を決した様に顔を上げた。
「お主と共に今宵のパーティーに招待したジン殿をキャローナの伴侶にと考えているのだ」
「はぁ、そうですか。それで?」
「それで……?」
アイトの余りにも気のない返事に国王が唖然と目を見開く。
「何故、ジンさんの事で私が呼ばれるのですか? 誰と伴侶になるもならないもジンさんが決める事です。それを私に言ってもどうにかなる事ではありません」
きっぱりと言いきったアイト。
それに対し国王は焦った様に言い募った。
「しかし、お主は双翼の剣のギルドマスターなのだろう? ならばお主の言葉があれば従うのではないのか?」
「ギルドメンバーの好いた惚れたに関わる気はありません。それに、私の言葉全てに従う様な者達など我がギルドには居りませんよ。このパーティーに彼等を連れて来るのだって苦労したのですから」
「……しかし、」
「それに、ジンさんの事に関してならば私よりもシルティーナさんに話を通すべきです」
「シルティーナ? ジン殿のパートナーで来ていたご令嬢か?」
「ええ、そうです」
「何故彼女に? 彼女はジン殿とどういった関係なのだ?」
「彼女はジンさんの奥さんですよ」
「なに!?」
告げられた事実に国王が声を上げた。
今日、元令嬢様の華麗なる戦闘記2巻が発売されました!(地域により日にちにズレがあります)
本編には書いてない話も付け加えての書籍となっていますので、興味のある方は是非、お近くの書店まで(_ _)




